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【10/7完結巻発売】誤解された『身代わりの魔女』は、国王から最初の恋と最後の恋を捧げられる  作者: 十夜
国王は魔女に最初の恋と最後の恋を捧げる

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121 大聖堂訪問 2

王都にある大聖堂はスターリング王国内に多数ある教会を束ねる総本山で、12年前にフェリクス様と結婚式を挙げた場所だ。


足を踏み入れるのは結婚式以来ね、と思っていると、フェリクス様が眩しそうに私を見つめてきた。

「君は今も結婚した時と同じ17歳のままだから、そんな風に淡い色のドレスを着ていると花嫁衣装のように見えるね」


大聖堂を含む教会が信仰しているのは『虹の女神』だ。

当然のように虹色髪を敬う傾向があり、その一環として虹色髪を持たない者たちは、大聖堂を訪れる際に髪を隠す傾向があるという。

その慣習に従って、淡い色のベールを被ってきたことが、私を花嫁のように見せたのかもしれない。


そう考えながら何気なくフェリクス様を見上げると、普段以上に王の貫禄に溢れていたため息を呑んだ。

人前に出るとあって、着用している物が普段より煌びやかなことも理由だろうけれど、フェリクス様の表情も雰囲気も従える者特有の覇気を放っていたからだ。


私は嫁いできた頃とほとんど変わらないのに、フェリクス様は私が眠っている間に、押しも押されもせぬ立派な王になったのだわ。


そのことをまざまざと感じ取り、少しだけ寂しい気持ちで口を開いた。

「変わらない私と違って、フェリクス様はこの12年で立派な王になったのね。初めて会った時のあなたがこうだったならば、恐れ多くて怖気づいていたかもしれないわ」


正直な感想を伝えると、フェリクス様は慌てた様子で私の手を取ってきた。

「ルピア、私はちっとも怖くないよ。いつだって君に優しくしたいと思っているのだから」


久しぶりに王宮外に出た解放感からか、悪戯心が湧いてきて、私はにこりとフェリクス様を見上げる。

「国王陛下、年若くて未熟ですけど、どうか可愛がってくださいね」

「……君以外を可愛がろうとは思いもしないよ」

フェリクス様は私の手を自分の腕にかけさせると、長い広場を歩く間ずっと隣に寄り添ってくれた。


その際、ふと見上げた先の大きな木の枝に鳥の巣が見える。

「まあ、フェリクス様、冬なのに巣の中に雛がいるわ」

「非常にいいものを見つけたね。あの鳥は春から秋にかけて雛を産むが、冬に産むことは滅多にない。そのため、冬に雛を見つけた者には幸運が訪れるとの言い伝えがあるのだ」

「そうなのね」


「私の妃にとびきりの幸運が訪れますように」

そう言って微笑むフェリクス様が、きらきらと輝いて見える。

まあ、私の目は一体どうしてしまったのかしら。

久しぶりの外出だから、陽の下ではまだ目のピントが合っていないのかしら、と思っている間に大聖堂に到着する。


入り口では教会トップの大主教が、直々に私たちを出迎えてくれた。

大主教はフェリクス様と同じくらいの年齢の、整った顔立ちをした男性だ。

『虹の女神』に仕える大主教だから虹色髪をしているのかしらと思ったけれど、ベール付きの帽子(クロブーク)で髪が隠れていたので、髪色は分からなかった。


彼は彫刻のような整った顔に綺麗な微笑みを浮かべると、両手を広げて出迎えてくれる。

「お初にお目にかかります。昨年大聖堂の大主教に就任しました、デジレ・ダルトワと申します。偉大なる国王陛下と王妃陛下をお迎えすることができて、非常に嬉しく思います」


フェリクス様が無言のままデジレ大主教の服を見つめると、彼は何かに気付いた様子で口を開いた。

「国王陛下をお迎えするのに、一色の祭服で申し訳ありません。忙しくしていたため、衣装を着替える時間が取れませんでした。謹んでお詫び申し上げます」


王族を迎える際には、三色以上を使用した祭服を着用する決まりになっている。

そのことは承知しているだろうに、平然と一色の祭服を着用して現れた大主教は、態度こそ丁寧なものの、心の底ではこちらを敬っていないように思われた。

フェリクス様もそのことは感じ取っているようで、頷くことで返事に代える。


「私の妃に大聖堂の中を案内してくれ」

フェリクス様の言葉を聞いたデジレ大主教は、じっと私のベールを見つめてきた。


髪を隠す慣習は分かっていたものの、大主教に隠し事をする気持ちにはならず、頭からベールを取って挨拶する。

「初めまして。今日はよろしくお願いするわ」


私の髪を見た大主教は驚いた様子で目を見張ると、信じられないとばかりに呟いた。

「本当に……髪の全てが白いのですね。噂には聞いてはいましたが、まさか本当に白い髪とは思いませんでした」


『虹の女神』を信仰する国の国王が、虹色髪以外の妃を迎えたことに驚いているのだろう。

そう思ったけれど、不思議なことにデジレ大主教の言葉に蔑む調子は見られなかった。


だからなのか、フェリクス様も穏やかに答える。

「ああ、我が国が誇るレストレア山脈の積雪のように白くて美しい髪だろう?」


デジレ大主教は私の髪に目を止めたまま、はっきりと頷いた。

「……そうですね。とても美しい髪です」


その言葉を聞いて、教会のトップである大主教に受け入れられた気持ちになり、ほっと体から力を抜く。

一方のフェリクス様は、満足した様子で目を細めると私の手を取った。


それから、デジレ大主教に続く形で、フェリクス様と私は大聖堂に入っていったのだった。

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