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7 スターリング王国王妃 5

フェリクス様と結婚して1か月が経過した。


日々感じることは、フェリクス様は信じられないほどお優しいということだ。

国王に即位したばかりのため、ものすごく忙しいのだけれど、約束通り必ず朝食は一緒に取ってくれるし、それ以外にもできるだけ時間を作っては一緒に過ごそうと努力してくれる。

さらに、小さな私の変化に気付いてくれ、わざわざ口に出してくれる。


―――その日、珍しく時間があるからと、昼食を一緒に取ってくれたフェリクス様は、称賛するかのように目を細めて私を見つめてきた。

「ルピア、今着用しているドレスは、朝食時に着ていたドレスと異なるね。淡い緑のドレスは春らしくて、君によく似合っているよ」

「えっ!? あっ、ありがとうございます」


瞬間的に頬が赤くなるけれど、褒められた嬉しさのためだと思ってもらえるといいなと思う。

だって……言えるわけがない。


朝食時に目にしたフェリクス様の服に緑色が混じっていたから、その色に合わせてドレスを着替えたなんて。

そして、『フェリクス様の服とお揃いみたいになったわ』と考えて、にまにましていたなんて。


実際には今日だけでなく、毎日の朝食時にフェリクス様の服装を確認し、彼の服の色に合わせて着替えているのだけれど、朝食以外ではあまり会うことがないため、今まで気付かれないでいたようだ。


周りに控えている侍女や侍従たちが微笑ましいとばかりに見つめてくるので、フェリクス様以外は私がドレスを着替える理由に気付いているのだろうけれど……お願いですから、本人には言わないでください。


本人の知らないところで勝手に服の色を合わせているなんて、我ながら子どもっぽいことをしているなと思う。

恥ずかしくなってうつむき、照れ隠しに肩の上にいるバドを撫でていると、フェリクス様は理由が分からないまでも、私のいたたまれない気持ちを読み取ったようで、さり気なく別の話題に変えてくれた。


そんな彼を見て、こういうところが優しいのよね、と改めて思う。

そして、自分の魅力を自覚していない人だなとも。


これほど優しくて思いやりがあるのだから、側にいたら誰だって彼のことを好きになるだろうに、そのことに気付いていないのだ。

だからこそ、誰もが感づいている私から彼への好意も、政略結婚の礼儀の範囲くらいにしか考えていない。


ただし、そんなフェリクス様の鈍さについては感謝していた。

というのも、私は7歳の頃からずっとフェリクス様を一途に思い続けていて、興味と好意の全てが彼に向ってしまったため、恋心が重すぎるように思われたからだ。

冷静に第三者視点で考えると、ほとんど交流もない相手をここまで思い続けることは尋常でないだろう。


そう頭では分かってはいるものの、自分で止められないのだ。

私の視線はいつの間にかフェリクス様を追ってしまうし、フェリクス様のためにできることがあればすぐに行動してしまう。


そんな私の言動を知られると、『深くて重すぎる』と厭われるように思われ、知られないで済むならばありがたいと考える。


そのため、私はあくまで軽い調子を装うと、会話の続きに戻った。

……ええと、本日の予定についてフェリクス様に質問されていたのだったわね。

「今日の午後は、文化・学術関係者3名の拝謁が予定されているだけだわ」


すると、フェリクス様は安心したように微笑んだ。

「それはよかった。最近は体調がいいようだからと無理をせずに、空いた時間はゆったりと過ごすのだよ」

純粋な好意から発せられた言葉を聞いて、私の体調が崩れるのは無理をした時だけですと心の中で謝罪する。

自分でも体調を崩すと分かっていて無理をしているので、自業自得なのですよと。


それから、ここがチャンスとばかりにフェリクス様に質問した。

「ありがとうございます。……ところで、その、私はこの国のことを色々と学んでいる最中でして、本日の空き時間にはゆったりとりょ、料理をするつもりなの。もし何か食べたいものがあれば、作りましょうか?」


さり気なく尋ねるつもりが、緊張し過ぎて噛んでしまった。

フェリクス様のために食事を作ることは長年の夢だったため、力が入り過ぎたようだ。


さり気なく、さり気なくという気持ちとは裏腹に、瞬きもしないで彼を見つめて返事を待つ自分をどうにかしたいと思う。

けれど、どうにもならず、お願い頷いてちょうだいと祈るような気持ちで見つめ続けていると、フェリクス様はふっと微笑んだ。


「いや、私のことは気にしなくていい。我が国には独特の料理が多数あるが、癖があるものも多いから、君が食べられそうなものから作るといい」


「……はい、そうします」

まあ、そうよね。

王宮には専属の料理人がいるのだから、わざわざ素人の料理を食べる必要はないわよね。


フェリクス様の返事にがっかりする自分に、簡単に食べてもらえると思う方が図々しいわと言い聞かせ、笑顔を保ったまま返事をする。

「今日は、料理人の方々に色々と教えてもらってきます」

「ああ、君が厨房に顔を出したら、皆喜ぶだろう」


フェリクス様の言葉を聞いた途端、私の表情がぱっと輝く。

リップサービスだと分かっているけれど、私が顔を見せたら皆が喜ぶと好意的に解釈されて嬉しくなったからだ。


我ながらチョロすぎるのじゃないかしらと思いながらも、私は拝謁が終了するとすぐに、いそいそと厨房に向かったのだった。

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