森の中で危険なのはクマさんだけじゃない
まとっちゃんちょっとピンチです。
苦手な人は内容だけ何となくわかったらすっ飛ばしてください。
試験も終わり学園の雰囲気は、もう皐月祭一色。生徒会も例外ではなく、あっちこっちバタバタと動き回っている。
俺は補佐にはまだなっていないのだが、生徒会長があの通り仕事が出来ないので仕事に狩り出されている。絖里はわかるが時々海睹もいる。なんでも授業をサボるにはうってつけなんだそうだ。
今俺は資料を文化委員長に提出して帰るところだ。毎日毎日走り回ってヘトヘトだが、兎廩先輩との接触が減っているのはいいことだ。
大分この広い校舎にも慣れ、人通りの多いとこだと突き刺さるような視線を感じるため自然と人気のない道を選ぶようになっていた。いつものように人気のない廊下を曲がったところ知らない声に呼び止められた。
「あのぉ……稔傘くんだよね?」
振り向くとそこには小柄で可愛らしい男子生徒が立っていた。ネクタイの色がオレンジ……ということは2年生か。
「ぼく、2年の吉武 純といいます。どうしても稔傘くんと話がしたくて、声をかけてしまいました。迷惑……でしたか?」
上目遣いで聞いてくる吉武先輩はか弱い小動物を思い出させる。そんな顔をされたら迷惑だなんて言えるわけがない。
「いや、…迷惑ではないです。」
「本当?よかったぁ。ちょっとだけでいいから話がしたいんだけど……。」
「……わかりました。」
少しぐらい息抜きしたって朔螺先輩は怒らないだろう。
先輩について行くと海睹と出会った中庭を抜け、今だ足を踏み入れたことのない森の中へと進んでいく。
最初は初めて来た場所にテンションが上がって楽しんでいたが、どんどんと奥に進んでいくと元来た道に戻れるのか不安になってくる。しかも、足場はめちゃくちゃ悪いのに先輩はスイスイと行っている。意外と運動神経いいのね。
ちょっと話がしたいって言ってたよね?もうさすがにいいだろと思い声をかけようとしたら、いきなり先輩が立ち止まり慌てて俺もとまる。
「ここら辺でいいかな。」
振り返った先輩はニッコリと笑い、俺が笑い返すと冷めた目で睨まれた。
「ばっかみたい、こんな奥までノコノコとついて来て。何もわかってないみたいだね。」
まるで軽蔑したような、ゴミでも見るような目で俺を睨みながら先輩は一歩後ろに下がり、俺から離れる。
「だいたい何で君なの!?何で兎廩様の御側にいれるの!?それだけじゃなく峻岑様や后乃絖里様。さらには降崔様までたぶらかして、ぼく達を馬鹿にしてるの!?」
何を言ってるのかサッパリわからない。とりあえず生徒会に憧れてるということだけはわかった。っていうか、海睹も人気者なのね。まぁ、あの見た目だから納得だけど。
俺が黙っているのが気に入らなかったのか、先輩は1人でヒートアップしている。
「ぼくなんか、どんなに兎廩様に話し掛けたくても親衛隊の決まりでお近づきになることさえ許されないのに!」
そんな決まりあるんだ……ありえねぇ。近づいたって得することなんてないのに。むしろ近づいて欲しくない、同じ部屋なんてやだ。替わってあげられるなら喜んで替わるのに。
「黙ってないで何か言ったらどう?それとも怖くて声も出ないの?」
いや、そういう訳じゃないんだけど……まさかそんなこと言われるためにここまで連れて来られた訳じゃないよね?
帰りたいなぁ……まだ、課題終わってないし。もうそろそろ戻らないと朔螺先輩に怒られそう。
「その澄ました顔が気に食わない……まさか、このまま帰れるなんて思ってないよね?
出てきて……二度と表に出れないようにしてあげて!!」
先輩の合図で後ろの木々の陰から大柄な男が2人でてきた。
え、……これって俺ピンチじゃない?ここからじゃどんなに叫んだって、校舎にいる人にはとてもじゃないが声は聞こえない。
「ふーん、こいつが噂の?ラッキー結構良い顔してんじゃん。」
出てきた奴らも2年生て面識はサッパリない。しかも高校生のはずなのに、1つしか歳も変わらないはずなのに、何!?この体型の差!?2人ともめちゃくちゃでかい!どう見ても体育会系だし。こいつらに喧嘩で勝つのは無理。精神的苦痛は胡桃さんで慣れてるけど、肉体的苦痛は嫌なんだよなぁ。
こっちをジロジロと見る目つきが何か品定めをしているようで嫌。逃げ出そうと一歩後ろに下がると男達も一歩進む。
何とも言えない恐怖を感じ、相手に背を向けて走る……が、そりゃこの体型差のためすぐに捕まりその場に押し倒された。
後ろ手に紐状のもので縛られ仰向けにされるとあまり見ていなかった男達の顔がしっかりと見える。その目と口は弧を描き背筋がゾッとする。
「その顔そそる〜。おい、ちゃんと鳴けよ。」
わけわかんないまま男2人に押さえ付けられ、身動き一つできない。それでも抵抗しようとする俺を2人は嘲笑いゆっくりとブレザーのボタンを外していく。
吉武と名乗った先輩はもうすでにいなくなっていて、吹き抜けていく風の音しか聞こえない。
「おぉ、すっげー色白い。」
ポロシャツのボタンも外され肌が外気に晒されるとその気温差にヒクリと体が反応する。
首元を撫でられ嫌悪感しか感じないが、ここまできてようやく自分がこれから何をされるのかを理解した。
上半身を男の手でまさぐられ、胸の突起を舐められる。
気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い……涙が出そうになるが唇を噛み締めじっと耐える。
こんな時に思い浮かぶのは何故かこいつらに負けず劣らずな変態の顔で、ファーストキスは奪われるわ顔を合わせる度に抱き着かれるわ口説かれるわ最悪なのに。
あんなにいっつもいっつも、くっついてきてたじゃんか。
毎日口説いてきてたじゃんか。
俺今ピンチじゃん。
なのに、なんで今いないんだよ。
男の手がベルトにかかりカチャカチャと音をたてる。
もうダメだと思いギュッと目をつぶり頭に浮かぶ人の名を呼ぶ。
「と……くら…先輩。」
すると突然体に覆いかぶさっていた重みが無くなり、遠くのほうで悲鳴が聞こえてきた。
上半身を起こされ目を開けるとそこにはさっき呼んだばかりの人が。
「麻鈔、大丈夫!?怪我はない?」
そう聞いてくる兎廩先輩になんとか頷くとその奥にいる人物に気がついた。
木の枝の上に腰掛け俺に被さっていた男達を見下す峻岑先輩は、いつもの彼からは想像もできない低い声で言い放つ。
「ねぇ……君達。俺のオモチャに手を出したらどうなるのか知らなかったの?哀れだね、許されないよ。
……地獄に堕ちるがいい。」
そのあとのことは兎廩先輩に耳を塞がれ胸板に顔を押し付けられた俺にはわからない。ただ、この世の終わりのような悲痛な叫びが微かに聞こえてきた。
それがやんだころ、やっと俺は解放され、視界が明るくなった。
目の前にある先輩達の顔は心配そうで、迷惑をかけたことが申し訳なくて小さな声で謝ると峻岑先輩が気にしないでいいと言ってくれた。
「だいたい、こうなることぐらい予測出来てたのにここまで放置してたこっちも悪いんだし。やっぱ、まだ生徒会に入ったわけじゃないもんね。手を出すチャンスはいくらでもあるもん。早く気づいてよかった。ごめんね?」
「そういえば、なんでここにいるってわかったんですか?」
「それはまだ今は秘密ー、もしかしたら今度教えるかも。
じゃぁ俺は始末書書かなきゃいけないから先に戻るね。まとっちゃんは今日は上がっていいから。ごゆっくり〜。」
ニヤリと笑った先輩は俺達に背を向け男達の足を持ち引きずりながら去っていく。
その姿をボーっと眺めていたら、先輩の最後の台詞を思い出した。『ごゆっくり』?
ハッと気づいた時にはもう遅く、兎廩先輩の腕の中に収まっていた。気まずさと気恥ずかしさとで顔が紅くなっているような気がするから、ある意味よかったかもだけど、だけど!こんな森の奥で男に抱き着かれてるって怪しくない?
「よかったぁ…。無事で。」
心底安心した声で言われると、ちょっとならいいかと思ってしまった。……俺も末期だな。
チラッと盗み見た先輩の顔が何故か泣きそうに見えて、その顔があまりにもらしくなくて……調子が狂う。
腕の中が暖かくて、安心してしまって、今になって怖さが蘇り声を上げて泣いてしまった。
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一様書くべきだなぁと思い踏切ました。
こういうのあんまり好きじゃないんですけど、やっぱ必要ですよね。
苦手な人、嫌だなぁと思った人ごめんなさい。