救いの電話?
さぁ、この状態をどうやって切り抜けよう……?
目の前にはニコニコと笑いながら手招きしている金髪。扉はその奥にあり、他に出口はない。つまり、出ようとしても必然的にあいつに近付かなければならない。
………ここにこのまま立っていたら、きっと向こうから迎えに来るんだろうなぁ…。他の生徒会メンバーは俺を助ける気なんてサラサラ無いらしい。黙々と仕事に励んでいらっしゃる。
……考えることに疲れた。もう、これ以上は無理かな。膝の上は嫌なんだけど。
俺は仕方なく足を前に踏み出そうとしたときに
PURURURURU…
生徒会室に設置されてある電話が鳴り響いた。何故かそれは今では持っている人も少ないあろう、ダイヤル式の黒電話。カバーは何もかけられておらずそれは黒々と輝いており、アンティークなこの部屋ではかなり浮いていた。
「はい、こちら生徒会室。」
電話にでたのは朔螺先輩。表情をかけらも変えずに淡々と会話している。
「えぇ、……はい、こちらにいます。………わかりました。今すぐ連れて行きます。」
ガチャンと電話を切ると、結局足を踏み出すことなくその場で固まっていた俺に視線を向け
「理事長がお待ちだ。兎廩、連れて行け。」
そう一言言うと、先輩は再び資料に目を通し始めた。
理事長……っっ!!忘れてたぁ!!そうだよ、普通職員室よりも先に理事長室に行くよね。あーあ、怒られるかなぁ……。そのままぼーっとしていると、突然腕をつかまれ引っ張られていく。
「よし、麻鈔と理事長室までデートだぁ!!」
「兎廩先輩、離してください!!朔螺先輩!俺、一人で行けます!!いや、一人で行かせてください!!」
この人とまた、学園内を歩くのは嫌だ!必死になって訴える俺に対して朔螺先輩は一言
「逝け。」
それは地獄にってことですか!?先輩の目には『邪魔な奴をここに置いて行くな』と語っていた。
「わかった!じゃあ、俺も行く。楽しそうだし〜。レッツラゴー!!」
「嫌だー!なんで一緒にくるのが峻岑先輩なんですか!?絖里ー、助けてー!!」
「ごめん、無理。」
「薄情者ー!!!」
確かに2人きりは嫌なんだけど、峻岑先輩と一緒ってのもなんか嫌な予感がする。
あっさりと俺を売り渡した絖里を睨みつけるが、フイッと視線をずらされる。
「峻岑、お前は残って仕事をしろ。倍にするぞ。」
「えー、その分は朱里と絖里に付けといて。」
「薫ちゃんサイテー!!」
朔螺先輩が低い声で言おうともなんのその。犠牲者が続出している。もちろん1人目は俺ね。
「后乃先輩仕事増えるの嫌なら、助けてください!!」
「いやぁ〜薫ちゃん敵に回すと後が怖いんだよねぇ……。あと、苗字だと解りづらいから名前で呼んでねぇ〜。」
「わかりました、朱里先輩……って、そうじゃないー!ほんとちょっとまって……」
バタンッ。そのまま俺は引きずられ、目の前で扉は閉じられた。
廊下を仕方なく歩いていると(引きずられるのが嫌だから)昨日は人がいなかったから何もなかったが、今ようやく生徒会の人気を思い知った。
『キャー、兎廩様ー!』、『薫ちゃーん!』、『素敵ー、抱いてください!!』、…etc
最後の何だ!?最後の!……まだまだ此処に馴染めそうにない。いや、こんなことで馴染みたいとは思わないけど。
しかし、馴染む馴染めない以前の問題が。
『……誰、あいつ?』、『僕等の兎廩様に勝手に近づくなんて…!』、『許せない……消す?』
いや、聞こえてるから!!せめて本人に聞かれないように言えよ!…それはそれで怖いけど。
だいたい好きで一緒にいるわけじゃねー!代わりたいなら何時でもどうぞ!!
周りの声に俺がキレそうになっていると、急に腕を引かれ峻岑先輩の腕のなかに。
途端に悲鳴が上がり、その中には野太い声まで混じっている。
「これさぁ、新しい俺のオモチャなの。……意味わかるよね?もし、手出ししたら……」
俺の肩に顎をのせたまま話しているため、息が耳にかかってこしょぐったい。それにオモチャって!?俺は先輩の暇潰しのためにいるわけじゃねーぞ!!
だけど、そんなこと言ってられないくらい先輩の声が低くって、ここら一帯の空気の温度が5度ほど下がったかんじ。俺からは見えないが、相当悪い顔をしてるに違いない。だって目の前の生徒達が可哀相なくらい青ざめて頷いている。
あぁ、俺きっと友達できないな……。やってきて3日目にして学校生活は絶望的だ。
俺はこれからのことを嘆きながらも引きずられない程度に足を動かした。
理事長室の前に立つと、勝手に扉が開いた。何、自動ドア!?金の使い方おかしくない!?
中に入ると秘書だという人が奥まで案内してくれた。何でもさっき扉が勝手に開いたのは、隠しカメラに写った俺達を見て秘書さんが開けたんだと。
それにしても、こんな長い廊下はいらないんじゃないか?と思ったが、これもセキュリティのためらしい。どうセキュリティになるかは興味が無いため聞き流す。(秘書さんごめんなさい)
「ここが理事長室になります。」
さっきのとは比べものにならないくらい大きな扉(誰の趣味だよ)を開けると、
そこには鮮やかなパッションピンクが手を振りながら座っていた。
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