まともな人を呼んでください
あぁ…夢だったらいいのに……。
重苦しい空気が漂うなか、バーンっと扉がおもいっきり開く。
「「呼ばれて遅れてジャジャジャジャーン!!」」
なんとも懐かしいアニメのフレーズを改造して現れたのは、大きな渦巻き型の棒付き飴を持った小動物みたいな人と、シャキーンとヒーローポーズをとった覆面の人だった。
ネクタイがオレンジってことは二年か。(俺と絖里は一年だから黄色、ちなみに三年は紫。)
小動物っぽい先輩は俺に気づくと近づいてきた。
「わぁ、君が中途半端な転入生!?ボクは后乃 朱里だよ。書記やってまーす!
絖里!自己紹介した?」
「もうすでにしました。兄貴達が来る前に。」
『そっかぁ〜』などと、にこやかに話す二人にビックリ新事実!!
兄弟!?弟の方が背が高くて発育がよろしいですよ!?……あ、よく見たら髪の色とか同じだし、二人とも左目の下に黒子がある。
遺伝子すげーとか思ってると、覆面の先輩が後ろから俺を抱きしめ頭を撫でてきた。
ちょっとイラッとしたが、そんなことよりさっきから興味のあった覆面にそっと手をのばしてみる。抵抗されるかと思ったが、そんなこともなくスルリと自分から覆面を外した。
……を、意外と整ってる。そこらへんのアイドルとかより全然キレイ。絖里のお兄さんは、ただただかわいいって感じだけど、この先輩はちょっと綺麗が混じってる感じ?
顔に火傷の跡とか切り傷とかあるのかと思ったけど、そうじゃなくてよかった。…なんか瞬殺されそう。だれにって…?そりゃぁ、勿論目の前で不吉に微笑んでいらっしゃる方にだよ。
「ふぅん、これが規衣のねぇ……。あ、俺は生徒会会計の峻岑 薫 (タカミネ カオル)でーす!規衣とは幼なじみ。
夢は忍者になること!ホントは名前も忍がよかったんだけど、家が化粧品会社だから、この名前にしたんだってー。香じゃなくて薫にしたのはただの気まぐれ。
ねー、酷くない!?俺に一言相談してもよくない?『名前は薫でいい?』って。そしたら、たとえ生まれたばっかだったとしても、力いっぱい首を横に振った自信があるよ!!」
何なんだ!?最初の発言も気になるが、後半意味不明だぞ。幼なじみだから、じわじわと脳が侵食されたんじゃねーか?
まさか逆か?こっちの影響であやつがああなったのか?
「俺は規衣と一緒で甘いものが好きなの!あと、面白いことも大好き。だから、規衣を応援してるんだぁ。
くっついたら盗撮しに行くから、そのつもりでいてね!特に、お風呂とか。ヤラシーことしちゃだめだよ。教育に悪いからね。」
「応援とか本気でいらないです!
それに、先輩の行動の方が教育に悪いです!盗撮なんかしたら訴えますからね!!」
先輩は楽しそうに笑うと、ようやく俺から離れ手を叩く。
「はーい、みんな揃ったんで会議始めまーす。
まとっちゃんの今後について。」
『まとっちゃん』という呼び方に背筋がゾクッとする。
…胡桃さんを思い出してしまう。こんなことになった元凶を。
「まとっちゃんって言うな!先輩には自己紹介してませんよね?どうして名前知ってるんですか!?」
「だって俺、生徒会だよ。転校生の情報くらい入ってくるって。」
何言ってんの?的な眼差しを向けられると、何も言えなくなる。
くぅ…、この人忍者というより魔女ってかんじ。…女じゃないけど。だけど、魔法使いというより魔女。雰囲気的に女王様でもいいかも。
そういや、前に兎廩先輩は俺が自己紹介しないからハニーって呼んでるって言ってたよな?あれはわざとか!?
思わず先輩の方を見ると、思いっきり目があってウインクされた。…見なければよかった。
峻岑先輩の声に生徒会メンバーがぞろぞろと集まってくる。
進行役なのか朔螺先輩が口を開く。
「会議するまでもなく稔傘の仕事内容は決まっているんだが、簡単に言うと兎廩の世話係をしてもらう。拒否権は無い。」
「……はぁ!?それって一番最悪じゃないですか!それなら、雑用の方が数百倍マシだ!」
冗談じゃない。ただでさえ一緒の空間にいるのが嫌なのに、どうしてより近くにいなきゃいけないんだ。
…視界の端に目を輝かせているのが見えるが、もちろん無視だ。
「こちらとしても雑用は欲しいのだか、兎廩を野放しにすると雑用が何人いたって間に合わないくらい仕事を増やされて、ぶっちゃけ邪魔だ。
せめてじっとハンコ押しだけしとけばいいものを他のことに興味をもつと、手を出しては書類の山を崩し、お茶をこぼしてびしょ濡れにし、しかもそれを放置しやがる。全く役に立たん。だから、おとなしくハンコ押しだけするように見張っておいてほしい。」
「……………。」
どんだけ役立たずなんだ…。こうゆう話の定番って、生徒会長は何でもそつなくこなすオールマイティじゃないの?
「はいはーい。僕は麻鈔が膝の上に座ってくれるなら、おとなしくハンコ押しと紅茶を出すこと以外極力しません。麻鈔に誓います。」
「だそうだが?」
その目には拒否を許さない鋭さを持っていた。実際、拒否権無いって言われたし。
蛇に睨まれた蛙ってこんなかんじかも。
「………はぁ、わかりました。
どうせ拒否権無いんでしょ?世話役でも子守でもしますよ!すればいいんでしょ!?ただ膝の上には乗らん!」
ぶぅぶぅーと文句の声が聞こえるが、その相手を笑顔で睨みつける。胡桃さん直伝の技だ。
兎廩先輩は顔を青ざめさせ、瞬時に黙る。うん、これは使えるな。
「規衣ー、まとっちゃんに嫌われてるじゃん。何したわけ?」
「そりゃーもちろん僕の愛をわかってもらえるようなこと。」
「全部嫌がらせじゃねーか!!」
峻岑先輩は余程この話題に興味があるらしく、兎廩先輩に根掘り葉掘り聞いている。
「何々?とうとうSの道に目覚めたわけ?」
「麻鈔が必要とするなら考える。」
「必要じゃないから考えるな!」
「とりあえず、稔傘は兎廩の世話係ということで決定。以上、解散。各自持ち場につけ。」
『Yes,Boss.』の掛け声のもと、自分達の持ち場なのだろう、それぞれ席に着いて仕事を始める。
英語の発音超ナチュラルだったんですけど、そこのクオリティーの高さ必要無いでしょ。
で、俺の席はというと……。
「麻鈔ー!ここ!!」
『ここ』と言いながら自分の膝を叩いているのが視界の端にチョロッと見える。
……帰りてぇー!!
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大々的な入れ替えと言う名の入れ替えを行ったため(年末だし)どこか変なところがあるかもしれません。
連絡いただけると来年の年末までにはなんとかします(←)