長い一日の始まり
「まずは、寮食に行こう!朝ごはんまだだもんね。」
俺の心の叫びも虚しく、今何故か先輩と手を繋いでエレベーターに乗っている。……しかも、恋人繋ぎ。
最上階から1階へだから、そこそこ時間はかかる。
だから現実逃避もかねて、これまでの経緯を説明しよう。(…でも、これって逃避になってないかも?)
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『自分で着替えないなら、僕が着替えさせてあげるよ!!』
目を爛々と輝かせ部屋に入ってくる先輩を何とか外に追い出し、休みだと知ったのでまた寝ようかと思い俺はベッドにダイブした。あぁ、ずっとこうしてたい。
そんな願いを聞き入れてくれるはずもなく、何処から取り出したのか合い鍵で先輩が部屋に入って来ては服を脱がそうとする。
命だけでなくあらゆるものの危機を感じ、手当たり次第に物を投げて応戦するが、奴はそんなもの無いに等しいように笑顔で優雅に歩いてくる。
……超恐えぇぇ!!
笑顔が不気味!!(泣)
肉体的にヘロヘロになりながらなんとか追い出しても、また合い鍵で入ってくる。何個合い鍵作ったんだよ!?
熾烈の戦いをのを十数回繰り返し(俺の体力もすげぇな)、体力的にも精神的にも限界を迎え諦めた俺は、自分で制服に着替え(ここは譲れない)鼻歌を歌いとても上機嫌な我が儘王子に、半ば引きずられるように自室を後にしたのだった。
−・−・−・−・−・−・−・−
………自分が不憫すぎて涙が出てきた。
エレベーターが開き、歩きだしてもまだ手は離してもらえない。
こいつ握力強いんだよ!何処にそんな力があるんだ!?
ガリガリとは言わないが、細い方に入る体格のくせに体力は人一倍あるようだ。…なんか納得いかない。
寮食に着くと人はほとんどいなかった。まぁ、あれだけ攻防戦に時間を費やしたんだし、ピークが過ぎてても当たり前か。
それでも、まだ残っていた生徒達はこちらを見てキャーキャー言ったり、俺を見て隣の奴と『あの人だれ?』と話してたり、俺を睨みつけたりと反応は様々だ。
あーあ、いきなり目立ってるよ俺。友達できるかなぁ…。
修学旅行とかで一人はやだなぁ…。
いつの間にか先輩は食事を持ってきていて、すでに座っている。
俺は隣に置いてあったのをもって先輩の向かい側に座る。
本当は別々で食べたかったけど、寮食の仕組みがわからないし、流石に持ってきてもらったのに、あからさまに避けるのは失礼だ。
「なんで隣に座らないのぉ?寂しいじゃん。あ、わかった僕の顔を正面から見てたいんだね!麻鈔ってばかわいい!!
それならそうと照れないで言ってくれればいいのに。」
「どんなポジティブ思考だ。隣に座ったら絶対セクハラしてくるだろうが!」
「はい、あぁーん」
「人の話を聞け!」
これ以上話しても無駄だと悟った俺は、迫ってくる箸をシカトして自分の分を食べはじめた。
…この味噌汁美味!
ここに来てから驚いてばっかだな。いやー美味しい。
やっぱ日本人は朝は味噌汁にご飯だね。
先輩も諦めたようで自分の分を大人しく…ではないが食べ始めた。
食べながらいろいろと俺に話かけてくる。それにテキトウに相槌をはさみながら食べ進めた。
いまだに視線は刺さってくるけど、諦めることには慣れている。えぇ、そりゃ聞くも涙語るも涙、ティッシュ一箱じゃ足りないくらいだ。
視線って結構痛いからやめてほしいけど、まぁ、見た目はいいもんなこの男。…中身は別として。中身は変態我が家坊やってかんじ。
超子供っぽい。ぜひとも親の顔を見てみたい。……勿論、写真でね。実際には会わなくていいよ、なんか怖いもん。
俺達が外に出るころには、寮食には人はもういなくなっていた。
やっぱりというか何というか再び俺の手は奴に拉致された。
そのまま部活動生が走り回っているグラウンドを邪魔にならないように抜けて、ようやく学校に着いた。どんだけグラウンド広いんだよ。野球、サッカー、陸上、ラグビーが同じグラウンドで練習してるよ……。
校舎に入ると靴箱などなく、先輩もズンズンと進んでいく。流石金持ち学校。靴脱がなくてもいいんだ。
妙なところで俺が感動しているのをスルーして、先輩はどんどんと俺を引きずって歩いていく。
「ここが食堂。学校があるときの昼は皆だいたいここで食べるよ。
中に売店もあるから買って教室で食べる人もいるね。
自分の部屋で弁当を作ってくる人もいるけど、それは少数。めんどくさいし。
今日は麻鈔が恥ずかしがってしてくれなかったけど、僕はまだ諦めてないから。今度こそ新婚さんごっこしようね!!
で、あっちは調理室!
家庭科の時間で使うんだよ。放課後も先生の許可があれば使ってもいいから、時々お菓子とか作っている人とかいるんだ。
僕も作りたいんだけど、いっつも先生が許可してくれないんだよねぇ…。
ちなみに僕はチョコケーキが好き!!
麻鈔が作ってくれるっていうんだったらなんでもいいけど。できれば部屋でピンクのエプロン着けてやってほしいなぁ…ま、サプライズをしたいんなら、ここで作るのも許すけど。」
「…案内してもらうのは有り難いけど、一言も二言も多いんじゃ!脳みそ消費期限切れてんじゃねーのか!?」
「だったら早く麻鈔にお嫁にきてもらわないと!」
「全然意味わかんねー!おまえ本当に生徒会長か!?」
「さっきから気になってたんだけど、何でずっとおまえ呼びなのぉ?僕、一様先輩なんだけど?
ほらほら言ってごらん。
Please say 規衣先輩!」
「誰が言うかー!百歩譲って兎廩先輩だ!!
それとも苗字も無しで会長呼びがいいか!?」
「うわーん、麻鈔が反抗期だよぉ!いや、これがツンデレってやつだね!!」
「何処にデレの要素があったんだ!?やっぱおまえアホだろ?
日本語勉強し直してこい!!」
「あっ、着いた!ここが職員室だよ。」
「だから人の話を聞け!そしてこの手を離せー!!」
その時、職員室の扉がガラッと開いて誰かが出てきた。
こんなとこで手なんか繋いでたら、変に仲良いって思われんじゃん!やだよ、こんな変態と仲良いと思われるの。同類に見られるじゃんっ!
あぁ、なんでそこで、より強く握るかなぁ。だからっ、この手を離せってー!!
日が空いてしまいました。ごめんなさい。次らへんから新キャラが出てくる予定です。また日が空いてしまうと思います。もし、これを楽しみにしていらっしゃる方がいたら、一言いただければ張り切って続きを書きますので応援よろしくお願いします。