睨みあっている
一体何の覚悟だ。
「兄上、失礼ですよ。ラケル様、婚約破棄のお話です。どうぞご一緒下さい」
アーヴィン様は昔から丁寧だ。
本当に兄弟か、と思うほどだ。
今はもう亡くなったハロルド様のお母様とハロルド様は派手好きでそっくりだが、弟のアーヴィン様は真面目なハーヴィ伯爵と似ている。
ハーヴィ伯爵は奥方の浪費を抑えるのに必死だったのだ。
ハーヴィ伯爵が奥方を抑えなければ、きっとすでにハーヴィ家は没落していただろう。
そして、奥方が早くに病死したから、その後はハーヴィ伯爵は浪費する事なく今の財産を守っているのだ。
「さっさと来い!父上を待たせるつもりか!」
約束も無しに来て偉そうに言わないで欲しい。
ハロルド様が偉そうに言い、アーヴィン様が止めようとした時、私の後ろからクロード様が出てきた。
「ラケルに無礼な口を利かないで頂きたい」
クロード様はまた、こいつかと言いたげな表情だった。
「朝から堂々と浮気か!なんて奴だ!!」
どこをどう見たら浮気と思うのか全くわからない。
私とハロルド様は婚約破棄し、私はクロード様と婚約したのだ。
私の相手はクロード様だけだ。
「何故浮気なんだ。狂ったことを言わないでくれないか」
クロード様は、ハロルド様の剣幕に呆れるようだった。
「いいからさっさと来い!」
そう言いながら、ハロルド様はクロード様を無視し、私に掴みかかろうとした時、クロード様はサッと私を庇うように引き寄せた。
私が逃げるより早かった。
「気安くラケルに触れないで頂きたい」
クロード様と何故だかハロルド様は睨み合っていた。
クロード様が睨むのはまだわかる。
私の事を好きだと言ってくれたから。
今思い出しても恥ずかしいが、夕べも送ってくれた時は、明日まで会えないのが、名残惜しいと指を絡めて言ってくれた。
でもハロルド様が睨むのはおかしいでしょ!
「クロード様、婚約破棄のお話らしいので私も一応行きます」
「なら、俺も行こう。一人で行かせたくない」
妹を甘やかす両親に、おかしな元婚約者。
クロード様はきっと私の味方はいないと思っているのだろう。
クロード様は、ハロルド様を無視して私を腕の中に隠すとアーヴィン様に向かって、少し待ってくれ、と言って平屋の扉を閉めた。




