買い物
昼には約束通り迎えに来て下さった。
「待たせたか?さぁ、行こうか」
「買い物でも、誰が見てるかわかりませんから、しっかり彼女のフリをしますね」
「そうだな」
また、いつクロード様の上司の娘が見てるかわからない。
ちゃんと約束通り彼女のフリをしますからね。
そうクロード様にニコリと笑顔を向けるとクロード様は少し微笑んだ。
クロード様に連れて行かれた店はオートクチュールの高級店だった。
「クロード様、このお店はかなりお高いですよ」
さすが公爵家と言いたいが高過ぎです。
「俺の我が儘を聞いてくれるのだから、気にしなくていい」
連れて行かれるとアラステア公爵家御用達の店のようで、クロード様は顔パスだった。
クロード様の来店に気付いたマダムのような店主はすぐさま挨拶に来た。
「まぁ、クロード様。ご用でしたらすぐにお邸に伺いましたのに」
「いや、いい。彼女にドレスを仕立ててくれないか」
仕立てる?今から?
クロード様の上司の晩餐は明日ですよ。
「今から仕立てて、晩餐に間に合いますか?」
「晩餐用は店のを買って、他のは仕立ててもらえばいいじゃないか」
「…何着買う気ですか?」
「決めてないが」
偽物の彼女にどれだけ金を使う気だ。
すでにマダムは生地を出し始めているし。
「クロード様、一着で充分です!」
「しかし、俺が無理を言ったのだから…」
「お返しができません」
「ものはいらないが…では晩餐用のドレスともう一着だけ仕立てるか?それなら受けとってくれるか?」
この人は本気だろうか。
店のドレスだって一点もののドレスしかないから高いのに。
それともクロード様にとったらこの値段は高くないのかしら。
あまり断るとクロード様に恥をかかせてしまうような気もする。
しかし、高い。
「ラケル、どうした?」
「…クロード様、ドレスは高くないですか?」
「これくらいなら普通だろう。本当に気にしないでくれるか」
「わかりました。では、二着だけお願いいたします」
何だか悪いと思いながらも、クロード様の押しに負けそうで結局二着買って頂くことになった。
マダムが奥のゲストルームにどうぞ、と言って下さりクロード様と行こうとすると、急に後ろから声をかけられた。
「お姉様?」
私をお姉様と呼ぶのはメイベルだけだ。
メイベルがこんな店に一人で来るわけがない。
振り向くとやはりハロルド様もいた。
そして、ハロルド様は何故かため息を吐いた。