トイレde花子さん
【主人公】17歳?・女性?・お化け??
私の名は「花子」――
――今、トイレにいる。
これだけで多くの人は何の話かわかったことだろう。
ただ、皆が思っているイメージと少しだけ違うとするならば、ここが昭和に建てられた古びた小学校ではなく、平成に建てられた高校だという点。更に今いるこの時間帯は夕方や夜ではなく、平日の午前中であることぐらいだ。
――私は毎日、この学校の三階のトイレで《獲物》が来るのを待っている。
チャイムが鳴った――休み時間だ。
騒がしくなってきた。
多くの生徒――いや、《獲物》がこのトイレにやってきたのだ。
――今日の《獲物》は・・・さて、誰だ?
〝コンコンコンッ〟
遠くの方でドアをノックする音。
〝コンコンコンッ〟
――近づいてくる。
〝コンコンコンッ〟
――来た!
「花子さんはいますか?」
――学習能力のない、あるいは怖いもの知らずの愚者どもだ。何やらコソコソ話をしているから、どうやら一人ではないらしい。でもまだ返事はしない。一番奥の個室までノックしたらそれを三回繰り返すのが習わしだ。
〝コンコンコンッ〟
〝コンコンコンッ〟
〝コンコンコンッ〟
「・・・・・・・・・・」
〝コンコンコンッ〟
〝コンコンコンッ〟・・・
――あ~~~~~~~っ!もうメンドクセーーーーーーー!!
オマエらもう手前から3番目の個室ってわかってんだろうがぁーー!とっとと来やがれバカたれーーー!休み時間は短いんだぞぉーーーー!時間をムダにすんなーーーーー!
〝コンコンコンッ〟
この個室のドアをノックした。3回目だ。
――はぁ~やっと来たか。
「花子さーん、いるの~!?いたら返事して~なな子さ~ん♪」
――何だよその軽いノリは!ってか最後名前間違えてんだろがぁー!!
頭きた!今日は返事しないで無視してやろう。
「あれ?花子さんいないの?・・・おーい!」
――無視無視無視無視。
「いないんだったらぁ~・・・上から水かけちゃいますよぉ~!」
――えっえっえっなっ何だってオマエ何言ってんだ!?水かけるって?この個室の上からか?
「ねえねえ!掃除用具入れからホース持ってきて~」
――ちょっちょっちょやめろーーーーーーーー!それって結構ヘビーなイジメだぞおいっ!2月だぞ!かなり寒いぞ!やめろーーーーーー!
そんなことされたらシャレにならん!仕方ない、返事するか――
「は、はぁ~~~ぃ」
「あ、返事したー!キャハハ」
――オマエら絶対に酷い目に遭わせてやる。
「花子さ~ん、いま何してるんですか~?」
――おしっこだよ!小っ便っっ!マニアックな言い方だと「放尿」だよ!トイレで他になにするっちゅーんじゃい!?あ、でもたまに大きいほうも出るから正確には「排便」かぁ~?まあ~~他にする事って言ったら生理用品の交換と他人に見られたくないSNSをチェックするくらいかぁ?でも混んでいる時にSNSをチェックするのは迷惑だからマジでやめてくれ!それから「便所飯」とかいうヤツ、あれって冗談だよな?いや信じられん!引くわ!
――話が脱ぷn・・・じゃなかった脱線してしまった。「例の」準備をしよう。
「花子さ~ん、私たちと遊びましょ~!」
――よし、出たなその言葉。いいだろう!オマエら散々私のことをバカにしてくれたし・・・一生後悔する「遊び」をしてあげよう。
私はあらかじめ手を添えていたトイレの内側にかかった鍵を外し〝バーン!〟と勢いよくドアを開けた。
「「「キャーーーーー!」」」
という女子生徒の悲鳴。どうやら三人組のようだ。
女子生徒たちがトイレの入口に向かって逃げ出す。私は全力でそれを追った。
すると、一人の女子生徒がよろけて転倒しそうになった――しめた!私はその生徒に照準を絞り右腕を思い切り強い力で掴んだ。
倒れ込んだ女子生徒は腕を掴んだ私の顔を見ると「キャーー!」と更に大きな悲鳴をあげた。他の二人はこの逃げ遅れた生徒を見ることもなく走り去っていった。
――本当は三人まとめて「始末」したかったが・・・まあいいだろう。
「イ・・・イヤッイヤッ助けてぇーー!!」
女子生徒は先程までのふざけた口調から一転、青ざめた顔で悲痛な叫び声をあげた。必死に逃げようとするがそうはいくかっ!
私は女子生徒を後ろから羽交締めにし、渾身の力で後退りしながら手前から三番目の個室に引きずり込みドアを閉めた。
「座れぇぇぇ!!」
私は逃げ遅れた女子生徒を強引に便座に座らせた。そして鍵をかけ、逃げられないようにドアを背にして女子生徒を睨みつけた。
「お、お願いです・・・命だけは・・・たっ、助けてください」
女子生徒は涙を流しながら命乞いをしてきた――そんな事知るか。
「今からオマエに《呪い》をかけるぅぅ、オマエはもう・・・終わりだぁぁ!」
「え・・・いや・・・いや・・・いやぁーーーーーーーーーーーーーーー!!」
断末魔の叫びが心地良い。私は泣き叫ぶ女子生徒に呪いをかけた。すると呪いをかけられた女子生徒は突然、まるで電池が切れたかのように全身の力が抜け、叫び声も止まり、その場でうなだれた。
しばらくすると、
「ワタシ・・・・・ハ・・・・ハ・・・ナコ・・・・・・私は・・・花・・子」
と、機械仕掛けの人形のように声を出しゆっくりと顔を上げた。
――成功だ。
私は鍵を開けてトイレの個室から出た。女子生徒は個室の中だ。颯爽と歩きだした私はトイレの手洗い場にある鏡を覗き込んだ。
そこには高校の制服を着た女子生徒が写っていた。そう――入れ替わったのだ。
今は私が「女子生徒」。そして先程まで私をからかっていた女子生徒が「花子さん」だ。
私は、あの女子生徒がいた教室に入った。
次の授業のチャイムが鳴った。このクラスの生徒はみな席に着いた。
私は空いている席に座った。誰も私に違和感を抱いていない。
私が「元」花子だと誰も気付いていないようだ。
周りを見渡してみる。先程、逃げ切った二人の女子生徒の姿があった。
――上手く逃げやがったな。でも次はオマエたちがあの「新」花子さんに引きずり込まれる番だ。
先生が入ってきた。
「起立!礼!着席!」
一瞬、先生と目が合ったが特に不審な目では見られなかった。入れ替わりは成功だ。
「出席をとるぞー」
先生が出席を取り出した。私は自分の番で返事をしたが誰からも疑われることはなかった。
そして――
「○○!あれ?○○はいるかー!?」
先生がある女子生徒の名前を呼んだ。私は、そっと手を挙げこう答えた。
「先生、○○さんは【トイレで花子さん】になっています」
すると先生は眼鏡を外し下を見つめると、大きく溜息をつきながらこう言った。
「あのなぁお前ら、いい加減その《遊び》やめろ!単位落とすぞ」
――そう、私は前の休み時間から「花子さん」になっていたのだ。
今は○○さんが『トイレで花子さん』になっている・・・次の休み時間までだ。
そして次は――
――オマエが花子さんになるのだ。
・・・次の休み時間まで。
最後までお読みいただきありがとうございました。
初期の作品です。書き方にいくつか問題点がありますが、本文だけは改稿せず当時のままにしてあります……ご了承ください。