表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/26

22・狂信者、暗躍する#2 ★挿絵あり



「じーーーーーー」

「……………………」




「じーーーーーーーーー」

「………………………………」






「じーーーーーーーーーーーー」

「………………あのー。僕の顔に何かついてるなら、言ってほしいんだけど……」


 ここは怪獣対策本部の応接間。

 広々とした部屋で、机を挟んだ二人の高校生がじっと座り込んでいた。


 顎に両手を置いて片割れを凝視する千歳。

 気まずそうに目をそらす春雨。


「ついてなんかないわよ! 私はただ、貫地にぃに言われたから監視してるだけ」


(居心地悪いなぁ……)

「居心地も何も、アンタは自業自得よ」

(!?)


 地味に心を読まれた春雨であった。


「……本当ならボコボコにしてやりたいくらいなんだけど、にぃがダメだって言うから止めてあげてるのよ。むしろ監視だけで済んだことに感謝してほしいくらいだわ」

「…………監視してくれてありがとう、千歳さん……」

「は? マジで謝るの? きもちわる」


(謝ってほしいのかほしくないのかどっちなんだよ!)


 彼は心の中でツッコんだ。


「ま、私を敬ってくれるなら嫌な気分はしないわよ。

 特別に、アンタに1つだけ質問する権利をあげる」

「質問……質問かぁ。

 千歳さんと貫地さんって兄弟なの? 全然顔とか似てない気がするんだけど……」


 春雨の何気ない質問に、千歳は数秒の間を置いて答えた。


「……わっ、私と貫地にぃは兄弟に決まってるじゃない!

 名字が違うのは、家庭の複雑な事情よ。

 顔も全然違うし、血も繋がってないけど、私達は絶対に兄弟なの!」


(うん、嘘だね)


 冷や汗を流しながら熱弁する千歳に、春雨は嘘を確信した。

 先程退出していった貫地の言葉もある。正直、二人が兄弟であるという事実に信憑性は0だった。


(そもそも僕は貫地さんの名字なんて知らないし、自分からボロだしてどーするよ……)


 こと頭脳戦においては、春雨の方が優位らしい。

 

「というか、千歳さん、なんで怪獣対策本部にいるの? まさか、ヒー……」

「ヒー!? な、なによ!」

「ヒーローのサポーターなのかい?」


 ガクッ。

 そんな擬音と共に、ソファからずっこける千歳。


「そ、そうよ!? 私は貫地にぃのサポーター! 助手! お手伝いさんなの!!」

「ふーん……」


(……確実に、サポーターではないな。

 ていうか、貫地さんってヒーローだったのな)


「私の言葉が信じられないってわけ!?

 ……いいわよ。そんなに見たいのなら、私の助手としての力、見せてあげるわ!」


 「いや、別に……」と制止する春雨を押しのけて、千歳は席を立った。どうやら一芸を披露してくれるらしい。


「いい!? そこでじっとしてるのよ、ヒョロガリ。絶対に逃げ出そうなんて思わないで!」


(ヒョロガリって……)


 あんまりな呼び方に、春雨の中の千歳への好感度はだだ下がりであった。

 

 千歳が応接間から去って数分後。

 予想された来客は、しかし想定外のモノとなった。


『きゃぁぁぁぁああっ!』


(……なんだ!? 千歳さん……?)


 甲高い悲鳴。

 同時に、パリーンと窓の割れる破壊音。

 異変を感じ取った春雨は、千歳の言いつけも忘れて応接間から飛び出した。


 彼が部屋を抜けた先に見た光景は――





「は、ハト…………?」


 ずんぐりとした体躯のハトが人のいないオフィスに侵入し、千歳の頭上をグルグルと転回している様子だった。


「こ、来ないで! 来ないでってばぁ!」


 半狂乱になりながら、ハトから逃げ回る千歳。目尻には薄っすらと涙が浮かんでおり、すっかりパニック状態だ。


「なんでハトが…………

 って、えぇ!? こっち来た!」


 春雨の存在に気付いたハトは、標的を変えて彼に突進した。思わずしゃがみこむ春雨。

 しかし、春雨の抵抗もむなしく、パーカーをついばまれ、頭を足で蹴られ、しまいには糞までつけられる始末。


(ひぃぃいっ!? なんで僕を狙うんだよっ……!)


 ハトはひとしきり春雨をいじめ終わったら、颯爽と割れた窓から飛び立っていった。


 呆然とする二人。


「………………とりあえず。

 服装を整えましょ。アンタ、ボロボロよ?」

「千歳さんだって、人のこと言えないよ……?」


 いつだって、共通の敵は仲間意識を強くするものだ。


 ――再び、場面は応接間に戻る。

 滞在人は春雨一人だけだ。千歳は化粧室で身だしなみを整えにいったらしい。


 糞の汚れをティッシュで拭き取り、備え付けの櫛で髪をとかし、毛羽立ったパーカーを脱ごうとしていた春雨。

 しかし、その途中で『カタン』という、小さな物音が耳に入った。


 脱ぎかけのパーカーから何かが落っこちたようだ。不審な表情で地面を探る春雨。

 しばらくして、目的の物を見つけたらしい彼は、思わぬ落とし物にボソリと呟いた。


「……USBメモリ……と、紙?」


 差し入れ口をガードで包まれたUSBメモリと、4つ折りにされたメモ用紙だった。

 記憶を思い返しても、春雨の所持物にはない。

 春雨はメモを開き、中に書かれている文章を黙読した。


『11月15日 15:00

  USBに転送しろ

   とあるネズミより』


(どういう意味だ……?)


 綺麗な達筆の3行に、春雨は頭をひねらせた。


(今現在の日付は11月13日。つまり、紙が記しているのは、明後日の昼だ。

 差出人は”ネズミ”という名前から、おそらくヘッビーくん……)


 USBに転送というのは、そのままの意味だろう。今までの彼の言動から鑑みるに、転送するデータは、ヒーローの名簿だろうか。


(しかし、日付の理由(ワケ)がわからない……。この時間に彼が何かを起こすのか?)


 顎に手を当てて考え込む春雨だが、その思考は千歳の脳天気な声で停止した。


「ヒョロガリー! 私じゃ手が届かないから、ちょっと窓の補修手伝ってー!」

「…………ああ。今行くよ」


挿絵(By みてみん)


 グシャグシャだった髪を元通りに戻した千歳が、オフィスの奥から手を振っていた。

 春雨は、パーカーの腹ポッケに紙切れとUSBメモリをサッと押し込み、何事もなかったかのように応接間を後にしたのだった。



 *


「1990年。我々はとある突然変異の生命体と遭遇した」


 前髪をオールバックにした年若い男が、重苦しい語り口でマイクを握っている。


 彼を取り囲むのは、大勢の記者たちと、黒服を身にまとった政府の要人たちだ。

 フラッシュバックが沸き起こり、その場にいるすべての人々が彼に注目していた。


「通常の1.5倍ほど大きな野良犬。調査を行った科学者達は、その生体にひどく驚いた。

 ……その犬は、今まで見たことのない、従来の生命体と異なる奇妙な遺伝子構造を持っていたのだ。


 しかし、身体は通常の皮膚、筋肉、内蔵、血液、脳を保っている。

 興味深く思った科学者は、その犬の調査を深堀りし……そして、過酷な実験の末に殺してしまった。

 

 今思えば、それがすべての始まりだったのだろう」


 男は小さく息を吸い込んだ。


「それから数年。巨大化した突然変異種の野生動物が、どういうわけかたて続けに発見された。

 彼らは発見次第科学者に捕獲され、実験のモルモットとなった。

 ……そしてとうとう、実験体だったうちの一匹が、一人の科学者を食い殺してしまった」


 聴衆達は、息を飲んで彼の言葉を待っている。


「その事件を皮切りにして、各地の突然変異種たちによる、隠れていた傷害事件が露見していった。

 人間は彼ら変異種ともはや共生できない、という風潮に世論は傾いていき――民間人までもが、罪のない変異種たちを殺害し始めた。


 しかし、彼らとて愚かではない。生息領域が追い詰められていく過程で、彼らは人類を『敵』と学習し、お互い憎み合うこととなる。


 ……彼らの意志は結束していた。

 同胞の死に怒り狂い、人の細胞を取り込み、人語を喋れるまで進化していった」



「我々もまた、彼ら突然変異種を敵とみなし、そしてこう名付けた。

 ――――”怪獣”、と」


 静粛な会場では、誰も彼の言葉を遮る者はいない。


「我々は約20年間、奴らと戦い続けてきた。

 しかし、奴らは殺しても殺しても復活し、らちのあかないいたちごっこと化していた。

 だが、そんな遊びはもう終わりだ」



「怪獣防衛大臣の私――裏守うらもりがここに宣言する。

 


 1ヶ月と約半月後の夜。

 仲睦まじい恋人たちの聖夜。

 とある家族の団欒。

 白雪の舞う、クリスマスイブのその日――」


 男は、目をカッと見開いた。



「――――人類は、すべての怪獣を殲滅する」


 ……終わりの時間が、刻々と近付いていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] おぉ~面白くなってきましたな~~ イイヨイイヨーー
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ