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17・指名手配犯(冤罪)、高校に潜入する#4 ★挿絵あり



「おい酒井、ついったのアカウント見せろよー」

「うわ、やめろって! 俺がオカマなのばれちゃうじゃん!」

「嘘付けww お前ゲーム垢しか持ってないだろ!」


 教室に、飛び交う冗談。

 無邪気な笑い声の裏に、『いじめの標的はいないか』という探り合いを感じ、僕は気分が悪くなった。


「マナカはどうなんだよ〜?」

「ちょっ、分かって言ってんでしょ!?

 私は2万RTの女なんだってば!」

「よっ、有名人〜」

「褒め称えなさい!」


 うるさい。うるさい。うるさい。

 耳をふさいで教科書を黙読する。勉強の邪魔だ。


「あ、黒田くんも見してよ〜!」

「や、やめて!」

「へー、こいつアニオタだったんだ! 推しは、スーパーメカ娘のロボ魅ちゃんだってー!」

「あはは、何それー」

「…………それ、返せよ!」

「返しまてーん!」


 言い争う声。

 下品な嘲笑。

 戸惑う下層住民。


(…………止めろ)


 我慢ならないんだ。


「………………ろ」


「ん? 春雨くんも黒田くんのスマホ見たいの? なら見せてあげ――」


「…………………………辞めろって言ってんだろ!!!!!!!」


 ――沈黙。


 教室の空気が停止した。


 原因は間違いようがない。僕だ。


「……春雨くんさ。オタクのくせに髪染めたりして、俺ら我慢してたんよ、今まで」

「は? お前らには関係ないだろ」

「なら、クラス全員の意見言ってやるわ。

 ……調子のんなよ、インキャ」


 カチン。

 僕の脳内で、堪忍袋の緒が切れる音がした。


「っざけんな――」


 そうして、手を振りかざそうとした瞬間だった。


「ウェーイ、スマホげっと!」


 ……僕の机の上にあったスマホを、陽キャ軍団の一人がかすめとっていた。

 しかも最悪なことに、英語の勉強用アプリを開いたままであった。……くそ、自動ロック機能かけとくべきだった。


「見ちゃおー、見ちゃおー。

 春雨くんのアカウント〜」


 僕は、動けなかった。


(……やばい。やばい!)



「ツイッターのアプリ開きまして〜、お次はプロフィールを開きましょ〜。


 …………あらあら?」




(くっ………終わっ――)





「……なーんだ。ただの見る専かよ」


「は? つまんねーの!」


「面白いネタねえのかよー」


「………………ぁ……」


(良かっ、た……)


 バレてない。

 バレてないんだ。


 陽キャ共の興味はもう別の話題に移ったらしく、皆のアカウント見せ合いっこはすぐに終わった。

 僕は自身の秘密がバレなかったことに安堵して――



『明日。全世界に晒してやる』


 …………顔が真っ青になった。

 スマホを奪った彼の読唇術。

 悪趣味に笑う彼が、まるで悪魔のようで。


(…………。

 僕の人生、もしかして終わった?)


 これから来る大事件の予感に、僕は身を震わせた。



 *



【狂信者vs】スタントマンについて語るスレ【特定班】part727

 

452名無しの一般人 


同級生のリークキタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!


狂信者の本名は春雨はるさめ 千秋ちあき

年齢は16歳

高校1年

男の娘

予想通り、私立桜山高校


中学の卒アル

挿絵(By みてみん)


住所は不明だがそのうち特定されそう


453名無しの一般人


こマ?


454名無しの一般人


マジマジ

昨日から狂信者のツイッター止まってるやろ?


455名無しの一般人

 

オカマの癖に可愛い顔してて草

やっぱりホモじゃないか!(憤怒

 

456名無しの一般人


>>455

俺はホモで嬉しい

むしろ、ホモだから嬉しい


457名無しの一般人


>>456

こ わ い


458名無しの一般人


住所特定まで秒読みやな


459名無しの一般人


春雨くん♡

かわいいねえ♡

おじさんと一緒に遊ばない?♡


460名無しの一般人


ホモスレと化してて草


461名無しの偽狂信者◆behY3


誰か呼んだかしら?


462名無しの一般人


>>461

中身見えてるぞ


463名無しの一般人


>>461

ワロタ

わかりきった偽物やん


464名無しの偽狂信者◆behY3


アタシのどこが偽物だって言うのよぉ〜ン!?

証拠出しなさい!証拠!




 *


(ああぁ……散々だ……)


 僕、春雨千秋が狂信者である、という情報はまたたく間にネット中を駆け回った。

 ツイッターで僕の名前がトレンド入り。……デジタルタトゥーもいいところだ。


 しかし、未だに住所公開までには至っていないらしい。

 ご近所さんやクラスメイトの最後の良心なのか、この発達した情報社会で所在地不明というのは大きなアドバンテージである。


 まあ既に『終わった』説あるけどね! あはははは!

 ……ちっとも笑えないや。


(お母さんに怒られるから渋々学校行ってるけど……教室なんて入れないよ)


 今現在の状況は、何も知らない母に一時間遅刻して家から叩き出され、授業中で人のいない校庭でうろうろと彷徨っているところだ。

 体育は実施されていないらしく、実質外にいるのは僕だけだった。


(このまま時間が過ぎてくれないかな…………。

 ん?)


 しかし、誰もいないはずの校庭に、すらっとした人影が見えた。


(……ちがう。人ちゃうわ。

 ネズミやん……)


 いつか見た、ネズミの着ぐるみを着たマジシャン。

 そもそも僕が特定される原因の事件を引き起こした憎き敵……なんだけど、どうも憎めないんだよな。


(だってあいつ、僕より嫌われてるし)


 なんたって、理由は見れば分かる。土や投石で汚され、ボロボロになった彼の着ぐるみを見たら明らかだ。

 端的に言うと、ヘッビーくんは『マジックが下手なマジシャン』として、約一週間生徒たちにいじめられていたのだ。さすがの僕でも同情してしまう。


 いつも校庭で芸を披露するときの観客は、冷やかしが大半を占める。

 よく心が折れないなぁ、と毎日感心していたものだ。


「やあやあ! キミはここの生徒さんだよね?」


 うわ、話しかけてきた!

 彼の純粋そうなキラキラお目々が眩しい。

 ……逃げてぇー。


「は、はい。そうですけど……」

「ボクはヘッビーくんっていうんだ! よろしくね!」


 知ってます。


「キミは教室には行かないのかな?」

「…………貴方にそれを答える義理がありますか?」

「あっ、ごめんね!

 失礼を承知で言うけど……キミが、すっごく落ち込んでるように見えたから!」


 上半身を反らしながら、ピエロ然とした仕草で話すヘッビーくん。

 励まそうとしてくれてるんだろうけど……。


「……君には言えない事情があるんだ」

「ふんふんふん! どういう事情なんだい?!」


 話聞いてねェこいつ。


「あっ、もしかして……キミは、いじめられてるのかい?」

「っ…………」


 当たらずとも遠からず。


「実はボクもね、見ての通り。ここの生徒たちに嫌がらせを受けててね。

 いっつも校舎の裏庭でシクシク泣いてるんだ!」

「いや絶対嘘じゃん!」


 おろおろと泣き真似をするヘッビーくんは、非常に胡散臭い。

 そもそもそんな元気な声で言われても、説得力が皆無だった。


「あのね。ボクは辛いところを人に見られないようにしてるだけなんだ。

 ただの強がりさ。いつも平気だと思われてるけど、ボクの態度はぜんぶ、ぜーんぶ虚勢なんだよ」


 急に真剣な声色になり、弱音を吐くヘッビーくん。

 それが彼の嘘偽りない本心なのだろうと、直感でわかった。


「……辛かったら、吐き出してもいいんだよ?

 溜め込むばっかりじゃ、心が疲れちゃうぜ。

 ボクだってお友達のトラくんと毎晩、愚痴りあってるからさ」


(………………)


 ヘッビーくんの声は、慈愛に溢れていた。

 ……わかっている。これは、同情であると。


「……僕も……。嫌なことなら、たくさんあったよ。

 寝れない夜があった。悩みすぎて中身を吐いた事もあった。

 ……一人ぼっちだから」


 ……哀れみだとわかっているけれど。


 つい、本音が口から出ていた。

 何故かわからないけれど、同じいじめられっこの彼なら話せると思ったから。


「そう……そうなんだね、キミも。

 辛い思いをしてきたんだね。よくわかるよ。

 


 ――ねえ、春雨くん。キミと同類のボクに、いい考えがあるんだけど」

 

 彼の身に纏う雰囲気が、おちゃらけた態度から、毒々しいようなモノに変わった。



「考え……?」


 ていうか、僕の名前……。




「……あいつらを、社会的に殺してやろうよ。

 二度と自分の名前を名乗れない位に。

 経歴を、姿を、声を、そのすべてを――


 ぜーんぶ、ぐちゃぐちゃにしてやりたいと思わない?」









 ――あっ。

 やばい。





 やばいやばいやばい。


(気持ち悪い)

 

 見つけた。


(見つけちゃ駄目なのに)


 彼の手を取りたい。


(引き込まれたら、普通の人生を歩めなくなるよ)


 遂に見つけてしまった。 


(今からでも逃げれる)


 どうでもいい。


挿絵(By みてみん)  

 




 ――僕の初めての仲間(彼と関わったら駄目だ)





 

 



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― 新着の感想 ―
[一言] ぞわぁ…としました。やべーネズミだ!いいぞもっとやれ!
[一言] わぁ…〜← 理性があるけど理性がない感じですかね〜… …関わっちゃ駄目、だけど関わってしまう。その一歩手前位な感じですかね〜? やっと更新されて喜びの舞です〜(笑)
2021/02/05 17:46 にゃんにゃん
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