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15・指名手配犯(冤罪)、高校に潜入する#2



 ――学校には、支配階層が存在する。


 最上位カーストの陽キャ共。


 板挟みになって上位者の顔色を伺うキョロ充共。


 最下位にのさばる陰キャ共。



 僕はどうなんだって?

 僕は……陰キャの上の方くらいかな?


 見ろよ。今だって、教室のスペースを広く占領して追いかけっこをしている陽キャ共に気を使って、肩身の狭そうな陰キャ共がおとなしく席で縮こまってる。

 ま、そのうちの一人が僕なんだけどね。


「は、春雨はるさめくん。古文の問題集の142ページの答え、な、なんて書いた?」


 僕に話しかけてきたのは、同じく陰キャ仲間の黒田くんだった。

 僕はいじっていたスマホをしまい、机の中から問題集を取り出した。


「…………僕も自信ないんだけどさ。多分ここは助動詞で――」


 隣の席の黒田くんに、机をまたいで解説する。

 黒田くんはウンウンとうなずきながら僕の話を聞いている。


「…………だから、この回答になると思うんだけど……」

「すっ、すごいよ春雨くん! 超わかりやすい!

 いつも思ってるんだけどさ……どうしてそんなに勉強できるの?」


 やっぱり、黒田くんはいい子だ。


「へへっ、照れちゃうじゃん。家で自習してきてるだけだよ。

 ……って、ん? ごめん、ちょっと抜ける」

「りょー」


 ポケットに入ったスマホがブルルと震えるのを確認した僕は、慌てて教室を飛び出した。

 廊下から黒田くんに手を振り返した僕の行き先は、今は授業で使われていない家庭科室だ。


 その教室は、校舎から独立したプレハブ小屋だ。昔は使用されていたらしいが、今は校舎の新築に伴い利用されなくなっている場所だった。


 ちらっと周囲に誰も人がいないことを確認すると、僕は再びスマホを開いた。


(グループ電話かよ……)


 知り合いからの連絡かと思えば、これだ。

 正直、日常茶飯事と言ってもいいし、僕自身なんとなくわかっていたことだったのだけれど。


(このグループ、電話の頻度高すぎんだよ。

 作戦会議にしろ、うざすぎ。そろそろ抜けよっかな)


 通話には出ない。勝手にやってろ。

 そんな心情で、僕は家庭科室を退室しようとして――足が止まった。


(千歳、あやの…………?)


 ――僕は、目線を奪われていた。


 同じクラスの美少女枠・千歳あやのが、家庭科室の横の裏庭で、半袖の体操服を着用し、ひたすらスクワットをする姿に。

 人目につかない場所で、必死に汗を流して、「142……143……」と復唱している姿に。

 まるで鬼のような形相で、膝を曲げ続ける彼女を目にした僕は――






「見てない。

 見てない。

 僕は絶対に見てない……!」


 逃走した。


 ……信じられなかった。


 いつも体育のときは長袖長ズボンを着用していた色白な千歳さん。

 水泳の授業は必ず、持病を理由にお休みしていた、病弱な千歳さん。

 運動音痴で、バレーのトスすらまともに出来ない小柄な千歳さん。

 そんな彼女が――





 ……筋肉ムキムキマッチョマンの変態な筈がない……!


 なんだよ、あのアンバランスな顔と筋肉!?

 おかしいだろ! 雑コラかよ!?


(逃げろ。逃げるんだ! バレないうちに!!)


 急ぎ足で教室に駆け戻った僕だったが、そこで目撃した光景に再びめまいを覚えた。


 ――千歳あやのが、おなじみの女子制服を着て、お友達と仲良く談笑していたのだ。


(……えっ?

 さっきまで、スクワットしてたはずなのに……)


 汗一つ見えない様子の彼女を見て、僕は……。


(あれは…………。

 幻だったのかな)


 きっと、裏庭で見た千歳さんは僕が生み出した幻想だったのだ、と結論づけた。


 ……だから、椅子に座る彼女の、太ももの筋がぷるりと痙攣していたのも、僕は見ていないことにした。


 ………………見てないったら!

 


 *


 こちらスネーク。

 高校の潜入に成功した。


 あ、勿論段ボール装備ではないぜ?

 今の俺は――


「ハハッ」


 曲芸師である。


 もう一度言おう。


 曲芸師である。


「ボクはヘッビーって言うんだ!

 これから2週間、皆に芸を楽しんでもらいたいんだ! よろしくね!」


「ヘッビーさんは新人の曲芸師だそうです。

 路上は最近治安が悪いので芸が披露できず、うちで休み時間にパフォーマンスを行われることになったらしいです。

 どうか仲良くしてあげてください」


 教頭の淡々とした声で、無表情の生徒たちが義務的な拍手を送る。


 ……壇上で腕を振り、ひょうきんな仕草をするヘッビー(俺)と、生徒たちの温度差が半端ない。

 

「そして。ヘッビーさんから皆さんにデモンストレーションを行いたいとの申し出があったので、今から芸を披露していただきたいと思います!」


「ハハッ。それじゃ、早速始めさせてもらうよ!

 ミュージックゥ……スタァ――ット!」


 俺の掛け声と同時に、ひな壇の両端に設置された巨大スピーカーから、陽気な音楽が流れ出した。

 

 俺は足元に置いていたカバンから、へにゃへにゃのゴム風船を取り出した。

 今から披露するのはバルーンアート。

 このために、昨日は一日中youtubeを見て練習してきたんだ。


「皆、見ててねっ!」


 ひそひそとお喋りを始めた学生たちを牽制し、俺は細長い風船をプーっと膨らませる。


 最初に作るのはトイプードル。


 風船の先っちょをくるんと丸めて、それを何度か繰り返す。

 丸め作業が終わったら、最初は顔の生成だ。丸まった風船を2つほどまとめて手に取り、もう片方の丸みを起点にねじる。これで犬の顔のフォルムとなった。


 お次は前足。顔から少し離れた地点から、二回ほど風船をねじる。それを再びまとめてねじることで、斜め前に突出した前足が出現した。

 同じ調子で、後ろ足も生成する。……うん、いい調子だ。


 生徒たちはいまいち興味がなさそうだ。ま、一日練習しただけの素人の芸だ。特に目を引くものでもないのかもしれない。


 最後に尻尾。あえて空気を入れなかった尾のほうに、お尻から少しずつ手で空気を流し入れる。

 ぷっくりと、空気を含んで丸くなっていく尻尾を見て、俺は成功を確信した。


(も少しで完成――――、ッ!?)


 ――パァン、と破裂音。


 割れた。

 風船が粉々になった。


(…………っべー、やらかしたぁ…………)


 真っ赤な風船の破片が、生徒たちの座る体育館に砕け飛んでいく。

 

 陽気なBGMと、生徒たちの沈黙。

 気まずい空気を前にして、俺は…………。


「ハハッ、さっきのトイプードルくんは、ちょっと緊張してたみたいだね!

 次のトイプードルくんを呼んで見ようか!」


 ……継続した。


 こんなんで止められるほど俺の任務は安くないんだぜ……。



 ――こうして、ヘッビーくんのお披露目会は散々な結果で終わった。


 バルーンアートは必ず砕け散り、


 マジシャンハットから出てきた連結国旗は何故かすべて中国とロシアと北朝鮮になっていて、


 鳩を出そうとしたら、ケージ内で暴れて血まみれ状態という、目にも当てられない惨状を晒してしまった。


 もう笑ってくれ…………。






 *



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m a n a @FJK                  …

@manayuuuu16 


このマジシャン(?)やばすぎ笑笑


<マジシャンハットを被ったネズミの着ぐるみが、マジックを失敗しまくる動画>


午後4:30 2015年11月2日  Twitter for iPhone

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1.3万件のリツイート 3.8万件のいいね

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  □  ⤵  ♡  

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Yuta@モンバトフレ募集中!!@yuuuuuuu6時間  …

返信先:@manayuuuu16さん


|  ちょお前有名人じゃんwwww

|  てかマヂあいつヤバかったよなww

︙  □12  ⤵1  ♡3  

   返信を表示

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ただの美少女 @810ojisan1919 6時間      …

返信先:@manayuuuu16さん


やりますねぇ!


  □  ⤵  ♡5  

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チェン・リー @eichan3752_3 6時間      …

返信先:@manayuuuu16さん


なんか気持ち悪くて草


  □  ⤵3  ♡1  

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戦士YA=SAI @831yasaisensi 6時間       …

返信先:@manayuuuu16さん


めちゃくちゃ鳥肌たったんだが・・・



  □  ⤵  ♡1  

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れいは病み期 @tyuuunibyo01 5時間       …

返信先:@manayuuuu16さん


|  まなちゃん(´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`)

|  バズってるとこごめんけど、ラインみて!!!!

  □1  ⤵  ♡

  返信を表示  

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*




「ブロック、ブロック、ブロック……」


(チッ、こいつら全員本名かよ!

 ネットリテラシーの欠片もねぇな)


 例のごとく、液晶画面だけが光る薄暗い部屋にて。

 部屋の主が息巻いて、ひたすらにマウスをクリックし続けている。


(このアカウントをアイツラに特定される訳にはいかないんだよぉ!)


 一つアカウントを特定したら、そこからの繋がりが芋づる式に出てくる。彼は目についた知っている名前をすべてブロックする魂胆のようだ。


 しかし、しばらくして、彼の狂ったようなクリック音は止んだ。


「…………ん?」


(こいつ……たしかうちのクラスの山田じゃないか?)


 彼はそのアカウントに興味を示した。

 目を引かれたのは山田のアカウント名らしい。

 『山田アキラ@ヒーロー志望』と名付けられたそのアカウントのアイコンは、彼の知る山田と同じ顔を晒していた。


(へぇー……こいつ、ヒーロー目指してやがんの。バッカかよ)


 部屋の主は山田のアカウントの過去ツイートを覗いた。

 出てきたのは、エンタメ性溢れる投稿の宝庫。


 ボロボロになった怪獣の死骸を踏みつけるショートムービーだったり、

 『蛇沼俊平の潜伏場所を特定します』といった挑発的なトークだったり、

 クラスの中では1、2を争う程度の身体能力を、ボクシングで見せつける動画など。


 炎上してもおかしくない瀬戸際のコンテンツであるが、既に数百のフォロワーが集まっているようだった。


(決めた。

 次のおもちゃはお前だ、山田……!)


 ――その夜。

 蛍光灯の消えた四畳半の小部屋では、打鍵音が絶えなかった。


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