14・指名手配犯(冤罪)、高校に潜入する★挿絵あり
カタカタ。カタカタ。
薄暗い部屋で、キーボードを打つ音が耳に届く。
音の発生者は、唯一の光源である液晶画面を食い入るように見つめていた。
彼が見ているのはインターネット掲示板のスレッドのようだ。書き込み内容を決定したらしい彼は、エンターキーを叩いてレスを投下した。
『
【テロリスト】スタントマンについて語るスレ【蛇沼俊平】part199
743名無しの狂信者◆JHDjskjsf
>>739
だから、何回言えば分かるのォ~?
スタントマン様たる者がそんなチンケな事件に関与してる筈がないじゃない!
』
数秒後、F5キーを押して返信を確認する。
『
746名無しの一般人
>>743
顔真っ赤だぞ
あの殺傷事件に蛇沼の指紋が残ってるって言ったのは警察だろ
747名無しの一般人
>>743政府が言ってるんだから間違いないだろ
荒らしは出てけ
』
レスを確認した彼は、鼻息を荒くして再び書き込む。
『
748名無しの狂信者◆JHDjskjsf
第一、スタントマン様はそんな中途半端な殺し方しないわよ!
彼だったらもっと美しく殺してるワ!
このスレには池沼しかいないのかしらん?
』
反応はすぐさま来た。
『
749名無しの一般人
>>748こいつアク禁しろ
750名無しの一般人
無視しとけよ
反応したら相手の思う壺
751名無しのスレ主◆Unw24
★アク禁:>>748
何回言わせるのか
狂信者スレでどうぞ
』
とうとうスレッドから追い出されてしまった。
以降、何回リロードしても、スレッドを見ることすら叶わない。
「あ~~~~~、クソッ!」
ゲーミングチェアに背中を預けて、大げさに舌打ちをする彼。
「あいつらバカかよ! スタントマンが小金持ち2、3人ちょろっと殺すわけねーじゃん!
あの人なら…………もっと、大胆に、人々の度肝を抜くような、スゴイ殺し方するに決まってるんだよ!」
手元にある、残り少なくなった2Lの炭酸飲料を、そのまま口につけて飲み干す。
プハーッと息を吐いても、彼の機嫌は直らない。
彼は2chをそっと閉じ、ツイッターへ移動する。ネットサーフィンが彼のストレスのはけ口らしい。
「…………さあて。
次スレではどんな爆弾を投下しようかな~?」
今度はSNSで情報収集を始めた。
相変わらず、アク禁にも懲りずに次のスレにも居座る予定のようだ。
「……はぁ。
聞いてるかいスタントマン。一ヶ月もこそこそと隠れてどこ行ってんだよォ。
早く、見せてくれよ。あんたの芸術作品。
じゃないと…………」
机上に置いてあった水色の棒アイスの袋を乱暴に破る。
「殺したくなっちゃうじゃん」
アイスをぺろりと舐めながら、彼はそう呟いた。
*
「で、ボスさんよ。俺はともかく、後田まで呼び出した理由は何だ?」
「そうッスよ! オレ、もうちょいで出勤なんスけど……」
あの人質事件から一ヶ月後。
任務もなくすっかり手持ち無沙汰な蛇沼と、アルバイトの後田を呼び出したボスは、いつものごとく主語が抜けていた。
『まあそう急かすな。
今回の呼び出しには特別な理由があってな』
「特別な理由?」
「……ろくな理由じゃなさそうッスね……」
まだ要件すら聞いていないのに、ゲッソリ顔の後田。
『まずは朗報から行こうか。
後田。貴様には武器を贈与しよう』
「ブキ……って、あの武器?
銃ッスか! 銃なんスか!? RPGとか? はたまたAK47!?」
物騒な贈り物に対して、テンション爆上がりの後田である。
だが、直後に入室してきたモブ怪獣の手にある『武器』を見て、その熱は一瞬で冷めることとなった。
「…………なぁにこれぇ」
『ガムテープだ』
後田の顔は固まった。
「……ガ、ガムテープ……。
酷いっス。こんなのあんまりですよボス。
オレ、めちゃくちゃ組織に尽くしてきたじゃないッスか…………」
『貴様の戦果と言えば演間博雄を殴ったこと位だろう』
「ボスさんも俺と同じ認識だったんだな」
「やめて! オレのライフはもう0ッスよ!?」
ボスにすら徹底的にいじられてしまう後田である。
『使い方がわからないというのも困るだろうから、簡易的な説明はしておこう。
その武器は、手に持つと変幻自在にテープを伸ばせるのだ』
「…………はい?」
『ガムテープの持ち手は、貴様の神経と遠隔で繋がっている。
この方向に伸ばしたいと思えばそこまで伸びるし、くっつけと念じたらそこで付着する』
「……で、でも、これただのガムテープッスよね?
ガムテープ伸ばしたところで、何の利益につながるんスか?」
『それは貴様自身が考えることだ。
さて、次の要件にいこう』
「さらっとスルーされたッス…………」
いまいち使い所のわからない武器を渡され、意気消沈とする後田。
そんな彼を横目に、蛇沼はスピーカーを見つめる。
『スタントマン。貴様には任務を与えたい』
威厳のあるモザイク音声に、蛇沼は心のなかでため息をついた。
(…………嫌だぁ。
まだニートを満喫してたかったぜ…………)
電子の海を彷徨い、FPSゲームをやりこみ、ときに通販でグッズを注文したりして、約一ヶ月間快適な引きこもり生活を送っていた蛇沼。
天国のような生活に、未練がましい思いがあるようだ。
『我々は最近、ある調査結果を見て愕然とした。
ヒーロー共の経歴を調べていた所、とある高校への進学率が異様に高かったのだ』
ボスは続ける。
『その割合、なんと40%だ。
おかしいと思わないか。
いくら東京に怪獣を多く出現させているとは言え、”偶然”そこに在学していて、”偶然”、ヒーローになった、なんて、都合が良すぎる。
故にだ。貴様には、その高校に直接出向いてヒーローを捜してもらいたい』
「……おいおい。俺は顔が知られてるんだぜ?
どうやって潜入しろって言うんだよ?」
『そう言うと思って、今回限りは貴様の立場を用意しておいたのだよ。
”駆け出しのエンターティナー”。この着ぐるみを着て、校庭でただ生徒たちに芸を披露するだけで良い。
期限は2週間である』
ボスの言葉の後に、再び入室してきた部下が持ち運んで来たのは、ネズミ型の可愛らしい着ぐるみだった。
「他に支援物資は?」
『300万円と、以前も利用していたブラックマーケットの購入権。
そして、怪獣を15匹。ついでに伝書バト怪獣も寄越してやる』
「伝書バト怪獣?」
『その名の通り、ただの伝書バトである。が、ただの鳩ではない。
紙だけでなく、小包程度の大きさのものを運べる収納性を持っている』
(……何か考えがあるんだろうが、俺にはさっぱりわからん)
『私からはここまでだ。
スタントマン。貴様には明日から潜入してもらうことになる。ゆめゆめ忘れるなよ』
「へい。りょーかい」
スピーカーの電源がプツンと切れ、部屋には俺と後田の二人が残された。
十数秒の沈黙を破ったのは、空気を読まない後田だ。
「…………先輩」
「どうした後田」
恐る恐る、ブツを指差す後田。
「………………あの着ぐるみ、なんか●ッキーに似てません?」
「おいやめろ消されるぞ!」
Di●neyは著作権ガチ勢。
業界では有名な話である。
――こうして、二度目の任務を与えられた蛇沼は、卒業以来数年ぶりの高校へと向かう事となった。




