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11・中身一般人の悪役、国家転覆を企てる★挿絵あり



 その日、都心のとある駅前の居酒屋では、閑古鳥が鳴いていた。

 いつもなら宴会や合コンで賑わう時間帯にも関わらず、空席が大半を占める。


 常連客の数名のみがまばらに座る店内を、厨房にいる体格のいい男がぐるっと見渡した。


「エライ少ないなぁ」

「…………そうですよね。別にこのへんで交通規制なんかはなかったのに……」


 男は、バイトらしき若い店員の上司のようだ。

 仕事がなくぼーっと立ち尽くす店員に、腕を組んで熟考する上司。


「田中、リモコン取れ。テレビつけろ」

「はーい」


 店員は言われた通りにテレビの電源を入れ、お目当ての情報が当たるまで何度かチャンネルを回した。


 数回目のチャンネルチェンジを経て、ようやくニュース番組にうつりかわる。

 そこでは、東京都内で大勢の人間が押し合いへし合いをする中継映像が流されていた。

 警察を押しやる集団は、皆が皆同じ言葉を叫んでおり、物々しい雰囲気を醸し出している。


「なんや、デモか? にしては大規模すぎへんか」

「数千人単位とか、とんでもないですねぇ。今まででこんなの見たことないですよ」


 店員はそう言って携帯を取り出し、SNSで情報を集め始めた。

 SNSから何か重要な情報を見つけたらしい店員は、上司に携帯の画面を見せつける。


「あっ、ほら!

 あの選挙に立候補してた宗教団体の抗議デモらしいですよ! 皆胸元にシンボルマークつけてるって」

「あー、アレか。最近やたらとうるさかったもんなぁ」

「囲いの支持者がうるさすぎるってネットでも話題になってましたね。

 怪獣テロもだし、なんか最近治安悪いなー」


 そうぼやく店員と上司。

 あくまでも他人事のように語る二人。


 しかし、テレビを流し見していた上司がスマホいじりに没頭する店員の肩を唐突に叩いた。


「…………ちょちょちょ、待て。田中、アレ見ろ!」

「ん? どうかして…………

 ハァァ!?」


 慌てた形相でテレビを指差す上司。

 店員が言われるがままに見たものは――


 ――拡声器を持った男が、国会議事堂の三角屋根の頂点に立つ姿だった。


「なんやアレ……どんなバランス感覚しとるんや!?」

「気にするとこソコですか!?」


 思わず突っ込む店員。


「し、しかも下のほう見ィ! なんや怪獣が警察襲っとる!」

「うわ! いよいよヤバイっすね、東京……」


 世紀末のような有様に、絶句する店員だった。

 会話が止まり、テレビを真剣に見つめる二人に、声をかけてくる一人の客がいた。


「………………お会計」


 その客は、奇抜な服装をしていた。


(あ、狐ヘルさん)


 彼が店員にそう呼ばれるのには理由がある。

 なんせ、狐耳をつけたヘルメットに、丈短めの浴衣を羽織った、一昔前(推定90年代)の原宿のようなファッションを好む客だからだ。

 いつも背中にしょっている巨大なギターケースも相まって、従業員の間ではバンドマンではないかともっぱらの噂である。


 カードで会計を済ませた客は、急ぎ足で居酒屋を走り去っていく。


「そのうち東京が焼け野原になったりするんじゃないですかね」

「…………最近の事件を考えると、下手に否定できんわ……」


 そう愚痴る上司は、疲れた顔で中継映像を垂れ流すテレビを見続けるのだった。



 *



「「「「支配社会を許すな! 国民を解放しろ!」」」」


 夜の帳が下りた深夜。

 信者たちが揉み合いながら、血走った目で叫んでいた。

 彼等の目的地は国会。門を突破して押し入らんと、警察と悶着しながら抗議を行っている。


「「「「我々は自由を手に入れる!! 監視主義反対!!!」」」」


「止まれ! ここから先は立入禁止だ!」


「「「「日本反対!!! 日本反対!!!」」」」


「黙れ! お前達、絶対に通すな!」

「どけ、狂信者がッ!」

「きゃぁぁっ、この人殴ってきたわ!」

「業務執行妨害だ!」

「政府の犬が! こっちだって!」

 

 大量に投入された警官は、シールドを持って門を警護するが、数の暴力には敵わない。

 揉みくちゃにされる警官たち。とうとう殴り合いまで始まってしまった。


 たったの数十分で乱闘騒ぎにまで発展した国会前。

 デモの影響で通行止めになった道路では渋滞が発生し、ブッブーとクラクションが鳴り響く。衝突事故も数件発生しているようだ。

 

 まさにカオス。


 そして、その状況を作り出した当本人は――



(んっしょ、んっしょっ)


 ……警察が密集して、門に注意がいっている間に、国会議事堂の警備を突破して、裏面からはしごをかけて屋根に登っている最中だった。

 

(はぁ、はぁ。

 ……地味だなぁ、コレ)


 華やかな舞台の裏には、地道な作業あるのみである。

 汗をハンカチで拭き取って、ようやく頂上に近付いた蛇沼。


 ちらり、と横から暴動を覗く。……警察は信者たちの対応に相当手こずっているようだ。

 次に、腕時計を確認する。11:59。

 時計の長針が、もう少しで90度に届きそうな頃合い。



(今だ)


 

 ――もう、どうにでもなりやがれ!



 


 新巻ヒロトの最終公演が、今始まる。




 [000:00:00]

 

 ピピピピピ、と、アラームが鳴り響いた。



 *


「……なんだあいつは?」

「救世主様! 救世主様よ!」

「あそこから引き摺り下ろせ! 増援を早く!」

「救世主様、一体どうやってあそこに!?」

「誰か待機中の人員はいないのかッ! 応答しろ!」


『警察の皆さん。抵抗を辞めて下さい』


 無線型のデジタル拡声器を手にした男が、デモ隊と警官たちの目線を奪った。

 黒縁メガネをかけた黒髪の男だ。


 信者たちは歓声と疑問の声をあげ、警官は次々と迫りくるイレギュラーに頭が混乱している。


『ここは怪獣によって包囲されています。

 警官の皆さんがデモ隊に手を出せば、すぐにでも怪獣が暴れだすでしょう』


「怪獣? 何を…………ひいっ!?」

「…………怪獣が、たくさん…………!」


 敵対していた両者は、とたんに身を縮こまらせた。

 群衆の端々から広がる悲鳴。


 ――10体の怪獣が、いつの間にか人々を包囲していた。


『安心してください。彼等は、”僕ら”に手を出さない限り暴れません。

 ……さて、僕の話を聞いてもらう準備は整いました』

 

 平然と、怪獣に命令権があることを明言する男。

 先程まで暴動が起こっていた国会前は、謎の男の登場によって困惑が広がっている。


『僕の名前は新巻ヒロト。

 ”神々の光”――いえ、現”救世の光”の指導者。

 僕は、この世界の救世主です』


 皆が皆、ヒロトの言葉を聞き逃すまいと刮目している。

 それもそうだ。怪獣に囲まれた彼等はネギを背負ったカモ。

 いつ腹の減った肉食獣に噛みつかれてもおかしくない、温情で生かされている草食動物なのだ。


 故に、注目する。

 この状況を変えられる力を持っている男に。

 怪獣を支配下に置いた脅威の男に。


『そして。

 僕の目的は、日本を破壊することです』


 警官たちの顔が険しくなる。

 テロリストへの対処法を、脳内で復習しているのだろう。


 信者たちは、陶酔した表情でヒロトの話に聞き入っている。


(――いつ発砲されてもおかしくないし、いつ怪獣が暴れだしてもおかしくない)


 ヒロトはヒロトで、前髪の裏に冷や汗を隠しながら、語りを続けた。




『よくわかっていない方もいらっしゃると思いますから、単刀直入に言いますね。


 ……ここにいる人たちは、すべて人質です。

 解放条件は――総理大臣をここに連れくること。

 さもなくば、彼等は怪獣の手で殺害されます。


 約2000人の命と、総理大臣一人。

 ”テレビの前の皆さん”は、天秤をどちらに傾けるのでしょうか?』


 腕を大きく広げて、ヒロトは表情を歪めた。




「「「「「――――なっ!?」」」」」



 信者と警官たちは、すぐさま絶望の表情に様変わりした。


 「話が違う!」「どうして私達を!?」と抗議の声を上げる信者たち。しかし、取り囲む巨体の怪獣がグルルと唸れば、すぐさま黙り込んだ。


『どうしてって? そんなの、決まってるじゃないですか!』


 ヒロトは、気取った仕草で眼鏡を放り投げる。

 放射状の軌道を描いたそれは、聴衆の群れの中に落された。


『僕は怒ってるんです。


 いつまでも内輪もめして、己の利益だけを追求する政治家たちに。


 現状維持に甘えて、狂った社会の歯車として生きる一般国民に。


 人を殺すだけ殺して、理念のかけらもない怪獣どもに』


 そして、両目に装着していたらしい、カラーコンタクトが取り払われる。

 薄灰の瞳が顕わになった。


『僕は世界を変えたい。社会を破壊したい。新秩序を作りたい。

 そのために、僕は――』

 

 黒髪が、はらりと落ちた。


「俺が、君たちを犠牲にする。

 

 本当に、本当に申し訳ないけれど、


 ――世界のために死んでくれ」


 





 神はいつか、咎人に告いだ。



 ――まやかしも、嘘も、貫き通せばまこととなるのだ、と。








 *


 怪獣対策本部にて。


 いつもの数倍は慌ただしい様相のオフィス。奥の区切られたスペースでは、怪獣と戦う第一線のヒーローたちが一同に集っていた。

 数にして、およそ4人。数こそ少ないが、チームとしてはバランスが良い……らしい。


「どうにかできないワケ!?」

「いいや、俺達がここで直接手を出せば、アイツは必ず民間人を殺す……今はただ、状況を見守ることしかできない」


 彼等の目線の先は、テレビに映る中継映像である。

 殺気立って部屋を飛び出そうとする小柄な女を、筋骨隆々な男が抑えた。

 首根っこを掴まれた女が、がうがうと吠える。


「離してよ!」

「おとなしくしとけ! オマエの勝手な行動が、人を殺すんだよ!」

「でも! 私達が行かなきゃ、あの人達、殺されちゃう…………!」

「ンなことわかってる!」


「もー、喧嘩してる場合じゃないでしょ?」


 その様子を、上から目線で切り捨てるもうひとりの女。長い黒髪を地面に垂らした女だった。


「テメッ、何笑ってんだッ」

「いいえ。

 ちょっと気になることがあっただけよ。

 ――氏家うじけはどこかしら?」


 黒髪の女がニヤリと笑ってそう言うと、周囲のヒーローたちが愕然とする。


「あっ、そういえば、気づかなかった……」

「氏家、存在感薄いからなー。どっかに隠れてんのかと」

「チッ、緊急事態だってのに、使えねー」


 存在を忘れられていた悲しきヒーローであった。


「っ連絡したほうが良いのでは――」

「いッんだよ。アイツがいたって何も変わらねェよ。

 大体、あの無口野郎はいつも邪魔なんだよ。むしろ来んなって感じ?」

「ちょっと! 仲間に向かってそんな言い方…………!」


 大学生くらいだろうか。ニヒルな笑みを浮かべる男は、こんな状況にも関わらず小柄な女に喧嘩を売っている。

 しかし、一触即発の空気は、黒髪の女の一言で拡散した。


「ふふ、どうやら連絡は必要ないみたいよ?」

「…………あ?」

「それってどういう……」


 黒髪の女が、意味深な言葉を吐き、しなやかな動きでスクリーンに向かって手を流す。


「あ…………あいつ………………」

「…………ざっけんなよ、クソ。俺より目立ちやがって………………」

「まじかよぉ…………」


 テレビの中に映るのは――



 ヘルメットに狐耳を生やした和装の人物が、国会議事堂の屋根の上でマシンガンを構えている。


 その銃口が向かう先は、金髪の男。


挿絵(By みてみん)


「面白いことになっちゃったわ」




 永い夜になりそうだ。

 


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