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アイデアノート  作者: くらいいんぐ
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第四話 友人A

友人Aは、大学院卒業後、大手家電メーカーの研究開発部門で働いていた。ちょうど7年目に過労で倒れ、そのまま入院。当時東京の第一線で働いていたが、担当医師に転職を勧められた。仕方なく地元に帰ってきて、1年間療養生活を送り、その後、一人でソフトウェアハウスを立ち上げた。今では5名ほどの従業員を抱え、社長として会社を営んでいる。

5名のうち、会計事務が1人、4名がプログラマーだ。


営業はもっぱら友人Aがやっている。友人Aの堅実さからか、お得意のお客さんが定期的に仕事をまわしてくれる。


とはいっても、不況の中で5人の従業員を養うというのは大変なことだ。体調さえ悪くならなければ、エリートコースの道が確定されていたのに。ただ友人Aは言う。


 仕事は自分が決めてやるんじゃない、必要とされるからやるだけだ。


そんな友人Aに、お構いなしに連絡をする晴れ男。でも、そんな晴れ男にも寛容な友人Aであった。

友人Aと晴れ男は、高校時代の同級生で、同じ部活をしていた。友人Aはスポーツも万能で、エース的な存在だった。キャプテンも務めていた。大学で別々になるが、地元に帰ってきたときは、必ず会って飲んでいた。


なぜ優秀な友人Aが、だらしない晴れ男と仲良くしていたのかは分からない。

でも2人は、意気投合して飲み明かしていた。

夢を語らい、時間があっという間に過ぎていた。


        *


そんな友人Aにも過去があった。友人Aがまだ学生の頃だった。

友人Aは、勉強もスポーツもできるのが当たり前だった。それに加え、信頼される性格。

そう、外から見ると完璧といえる人格だった。


しかし、中学2年の時、その事件は起きた。

母が友人Aを起こしに部屋へ行くと、いつもと様子が違った。


友人Aはうつぶせに倒れるように寝ていた。

床にはかぜ薬のカプセルの殻が大量に落ちて散らばっている。そう、友人Aは薬を飲んで自殺を図ったのだ。母はすぐに友人Aを揺り起こし、救急車を呼んだ。友人Aは目を覚まさない。

母は、顔が腫れるほど顔をひっぱたいて、友人Aの名前を連呼していた。友人Aは救急車に運ばれ、そのまま入院。一命は取り留めた。


後で知ったことだが、最近のかぜ薬は大量に飲んでも大丈夫なように成分が構成されているらしい。友人Aは意識朦朧としている時に、母にこう叫んだらしい。


「抱きしめてくれ!」


そう、友人Aも苦しんでいた。自分は完璧でなくてはいけない。先生からの期待、友人からの期待、親からの期待、それに応え続けなければいけない。悩みもあるが、そんな弱さを見せることもできない。頭がいいだけに、相手の気持ちがわかってしまう。小さいころからそんな大人びた感覚で生きてきたので休む間もない。とにかく自分に厳しく生きていくしかなかった。


母は必死でベッドに横たわる友人Aを抱きしめた。涙を流しながら、無我夢中で抱きしめた。

なんでこうなったのか分からない。何の問題もなく、優秀な子がなんでこんなことをするのか、理解なんてする余地もなかったが、とにかく、救いたいという気持ちだけでいっぱいだった。目に見えないところにも現実がある。それを理解するには、とてつもない能力と労力が必要になる。もしかしたら不可能なのかもしれない。母は自分を責めざるを得なかった。状況を受け入れることはできない。理解なんてできやしない。でも、母は自分のできることならなんでもするという神にもすがる思いだった。

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