表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アイデアノート  作者: くらいいんぐ
1/26

第一話 ゆるキャラ

晴れ男はテレビを見ていた。ゆるキャラ「ふなっしー」がバラエティ番組に出ている。ふなっしーは、縦横無尽に画面内を飛び回る。そのたびにテレビからは笑い声が聞こえてきた。動いても笑いが起こり、トークをしても笑いが起こる。


晴れ男はそのテレビをクスリとも笑わず静かに見ていた。テレビのリモコンをとり、少しボリュームを上げた。時よりうなづいては、人差し指を立て左右に軽やかに振っていた。そしてその番組が終わると、近くにあった紙切れに何か書きだした。


 ゆるキャラを考える

 見た目よりもインパクト

 見た目とのギャップ


それを書き終えると、満足げな笑みを浮かべてテレビを消す。すぐさま、ノートとペンとその紙切れを持って家を出る。向かった先は、行きつけの喫茶店だ。ちょっと遠くを見る感じで、その店に急ぎ足で歩いた。


        *


喫茶店に着くと、店員がおしぼりを置くか置かないかの間に、「アイスコーヒー」と言い、持ってきた紙切れを出し、ノートとペンをきれいに並べる。ノートをめくり、新しいページにする。〇月〇日と書き、先程の紙切れに書いた言葉をきれいにノートに書き写す。


しばらくノートを見つめながら、考え込んでいる。ペンをいじりながら、時たま何かを書き、途中でやめ、そんな仕草を繰り返す。そして、ちょっと強めにある言葉を書く。


 臭いゆるキャラ「くさやん」


するとおもむろに携帯を取出し、友人Aに電話する。


「もしもし、なに?」


「いいアイデアが浮かんだんだ!」


「また?」


「ゆるキャラなんだけど、やるなら今しかないよ。」


「もういい加減にしろよ。まじめに働け。」


「いいから聞いて。俺たちが住んでる地元って、くさやが有名じゃん。」


「・・・」


「そこで考えたのが、臭いゆるキャラの『くさやん』なんだよ。」


「・・・」


「本当に臭いんだよ!絶対匂いをかぎに全国から人が集まるって!」


「・・・あのさぁ、俺も暇じゃないんだよね。やるんだったら自分でやれば?今地元にゆるキャラいるし、それに宣伝費やなんやらでお金かかるし、そもそも、ゆるキャラの著作権はそのゆるキャラを描いた本人なんだよ。おまえに絵心あるか?そして、たとえお前がゆるキャラに応募し、それが万が一通ったとしても、儲かったお金は、応募元の自治体や企業に入るんだよ。」


「・・・そうか、難しいね」


「じゃあね、これから出かけるから。ガチャ!プーッ・・プーッ・・プーッ・・」


晴れ男は、そうかぁ、とうなだれる。

今が旬のゆるキャラのゆるさに、ビジネスもゆるく考えてしまったようだ。こんなゆるキャラだったら、自分でも考えられる、テレビ画面で見ると、こんなキャラクターでお金が設けられる、そんな安易な発想が浮かびそうだが、ヒットするには、それなりの理由がある。完成度が高いものが売れるわけではない。くだらないものが売れるわけではない。万人にウケる、広まる理由があるのだ。もちろんタイミングもある。


そんなことは分かっていたつもりだが、「くさやん」というキャラクターを思いついた時に、突き進む力を抑えることができなかった。

友人Aへの連絡も、期待に胸を膨らませての連絡だった。しかし、お金にならない、著作権の問題との回答に、それもそうだなと一転して納得してしまう晴れ男であった。


晴れ男は、電話を置いてノートに付け加える。


 お金がかかる

 著作権に問題がある

 お金にならない


そしてため息をつきながら、氷の解けたアイスコーヒーを飲みほすと、喫茶店を出る。

特に落胆した様子はない。とにかく次のアイデアを考えることに意識は変わっていた。めげないというよりは、楽しんでいる様子だった。本人はまじめに取り組んでいたのだが。絶対に成功してやる、そんな気持ちが彼を突き動かしていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ