薔薇という名の花は、名前を変えても
やられてばかりで悔しいので、今世界を貶めているコロナに、マイナス以外の意味をもたらせないかと考えました。何か少しでもプラスを生み出したいし、それができるのは自分自身だけだと、わかってはいるのですが。意地でもハッピーエンドにします。
「お前も、とんでもない名前になっちゃったよなあ。」
にゃあ、私の同居猫コロナは特に興味なさげに応えた。あくびをして寝転ぶ。
「ごめんね。名前今からでも変える?」
にゃあ、さっきと変わらない鳴き声を返された。コロナは、今度は体を起こして私を見据えていた。けれど真意は読み取れない。
いつからかテレビをつけなくなった。
毎日同じことばかり繰り返すワイドショーが嫌になったからだ。どうせ見たところで気が滅入るだけで、状況は変わらない。
最初はあんなに不安をあおるだけ煽っていたくせに、今ではやたら前向きな発言をもっともらしく、いかにも私は暗い中の希望の光、みたいな感じで押し付けてくるのが嫌だった。
バラエティもどんどん人がいなくなっていって、みんな枠の中に入っていってしまうのが虚しかった。テレビの枠の中にさらに枠の向こう。何よりそんな遠くからも明るく振舞おうとしているのがだんだん辛くなって、見られなくなった。希望を持ち続けるのは難しい。慣れてしまった方が早い。このもどかしく先の見えない、どこまでも厚い曇り空みたいな毎日に。
就職が決まって、ペット可物件への引っ越し、念願に手に入れたこの大切な相棒に、コロナという名前をつけたことに特に深い意味なんてなかった。ペットショップに行ったとき、一番小さくてまるまるしていて、他の猫みたいに俊敏に動けず、転がるようにとてとて歩いていた。そんな不器用そうな姿が可愛らしくてこの子に決めた。なんだかコロコロしているから、なんとなくコロナ。本人はどう思ってるか知らないが、私は響きもよくて気にいった名前だった。
ご飯をおいしそうに食べるコロナ。別に名前が人騒がせなウイルスと同じだからといって、彼女の何かが変わるわけではない。それはわかっている。けれど、ここまで連日聞かされたうんざりするような空気をまとう響きは、確かに気を重くさせる。かといって、一度つけた名前を変えるのも、なんだか抵抗がある。それになんか、私は悪くないのに屈するみたいで悔しい。
「まあ、いいか。」
コロナはコロナだ。私にとってのコロナは君だけだ。この黒くてころころして温かい、今の私の唯一そばにいてくれる大切な子。名前がなんだ。関係ない。
彼女の名前がコロナでも、彼女は変わらない。彼女の名前に何を感じるのかは私次第だ。私が決められる。
「コロナは、私の大事な人を守ってくれるんだよねえ。」
ふざけた口調で問いかけると、今度は返事をくれなかった。食事中だったからかもしれない。急に不安になって、思わず抱き上げてその温かいぬくもりに顔をうずめた。わかってたけどめっちゃ身をよじって逃げられる。
「ごめんごめん。」
諦めて携帯のラインを開く。一昨日から熱が下がらないという父に、どんな言葉を掛けたらいいのか考えていた。