番外編 涼風悟の苦悩
この話は、ルート前の朱里と祐輔の親の会話です。
第66部の『運命の二択』の後の話ですので、これを拝見した後に67部以降を見るのをオススメします。
これでフィナーレです
祐輔と朱里を見送った後、涼風朱里の父、悟は再び久東家に戻り、久東祐輔の母親に昔話をしていた。
涼風悟の人生は、外科医で母親は有名私立の高校教師の間の子に生まれたお坊っちゃんだったが、その父親は悟が産まれてほどなくして不倫をしてしまい、多額の慰謝料と豪勢な家を貰う事で離婚が成立したので、彼は生まれ持っては父親の顔は知らず、代わりに母親は、その慰謝料があるから仕事を辞め、悟は母親と使用人に挟まれて過度の英才教育を施されていたので、遊ぶという自由に遊ぶという考えはなかった。
加えて悟の母親は、少々ヒステリックな部分があり、ストレスが原因で過度な薬の服用もあってか、自分が思い通りにならなければ思いきり怒鳴ったり、周囲にあたり散らかしたりするのだ。実際悟のテストの答案結果に1問でも間違いがあればわめきながら悟に手を出すのが当たり前で、それを止めようとした使用人でも気に入らなければネチネチと言葉巧みに嫌がらせをして強制的に辞めさせていたのだ。
それであってか悟は自分の意志で友達を作り家に連れて行こうと思えば、母親が威圧的な態度をとってわざと怖がらせたり友達の行為に少しでも気が食わない事があれば、付き合いを辞めるようにと怒鳴られたり、挙句の果てにはその親御さんの悪態を授業参観で広めたりとするので、友達が晴れていて悟は孤独になり、逆らえば母親になにかされるか分からないと恐怖を覚え奴隷のように扱われたのだ。
少しでも母親の機嫌が損ないように成績を維持して、有名私立中学、高校を通い、国立大にも進学することができた。
そんな母親の下で過ごし、誰とも深く関わろうとしない悟の前にもついに運命の相手が見つかった。その彼女との馴れ初めは大学2年の時同じ授業を受けてる時に、遅刻し、息切れしながら隣になったことがきっかけだ。
その彼女は色白で透き通るほどの長い茶髪で、傍から見ればお嬢様風に見えたが、服装は庶民の身なりに近かった。
勿論この時悟はなんとも思わなっかったが、授業後に話しかけられたのだ。
「あの・・・・・・次さっきの授業分かりましたか?」
「え?・・・・・・・・・・私にきいてるので・・・・・・ですか」
「あなた以外に誰がいるのですか?良ければ授業のノートを見せてくれませんか?」
「え・・・・・ええぇ」
それが初めての会話だった。彼女は茜という少女で、昔は裕福であったが3年前その父の事業の失敗で、父親は逃げ一気に貧乏になったようだ。茜自身は、高校後は就職することを望んでいたが、頭脳が優秀な茜の才能を腐らせないと残された母親の説得により、行かされることになり、奨学金と母親が密かに貯めてたお金とバイトでなんとか大学生生活を送れたのだ。
だが、バイトの掛け持ちと勉強の為に遊ぶ余裕がなく、彼女も友達がいない身なので、その共通点があったので自然と話しかけたのだ。
悟自身も最初は、茜に対してはうっとおしさもあったが、彼女がそれでもついてくるのもあり、なにより同じ父親が失踪した身であったので、気が付けば二人は付き合うことになったのだ。
「相変わらずよくそんな甘いものを食べられるね」
「いや、ショートケーキ美味しいでしょ。悟頭固いんだから、糖分取った方がいいよ。そしたらストレスが減るよ」
「そんなの迷信だって。よくそんな頭で国立行けれたね・・・」
「迷信でも調べさえすれば、真になるのだよ。分かったかね。主席殿」
茜は昔からの甘党でデート先には必ず甘味処に寄りショートケーキを食べることが欠かせないのだ。
その甘たるい匂いは最初は悟は鼻がつくほど嫌っていたが、食したりしないが最初と比べてその光景に慣れており、デート中にも関わらず参考書とノートを必須なのだ。
「相変わらず勉強勉強、悟ならどこの一流企業でも内定取れるんだからもう少し息を抜いたらどう?アタシみたいに控えた方がいいよ」
「君こそ人の事が言えないじゃないか。最近バイトだけではなく講義をサボってるけどこのままでは卒業できないよ」
「平気平気だって・・・・頭が固い主席殿と違ってちゃんと考え・・・・・・ゴホゴホ・・・」
「茜!!!」
「平気だから・・・・」
突然の止まらない咳で、悟は慌てて朱里の方に駆けこんだ。だが、茜は動揺せずポーチから薬を取り出し飲むとしばらくして咳がやんだ。
どうやら茜は昔から病気がちでここ数年は収まっていたが、バイトによる身体の疲労で再発してしまったようだ。
この再発の事は家族はおろか彼氏の悟には説明しておらず、ただの風邪と誤魔化したのだ。
その茜の強情さに悟はこれ以上詮索せずに、自分のできることである彼女の負担を軽減する為に勉強時間を減らしてまで茜の分のバイトを手伝うことになり少しでも茜を楽にさせようと思った。
だが悟は、生まれてずっと温室育ちの為バイトの経験がなく、失敗しまくり毎日バイト先の店長から怒鳴られてもなお、心を折れずにバイトをやり遂げたのだ。
その苦しさと楽しさの果てに二人は大学卒業でき、さらに目標の企業に就職することができた。勿論二人は結婚するという考えまで愛を成熟したのだ。
だが、現実はとても非常だ。卒業して数日後悟は不安に駆られながらも初めて母親に茜を紹介したのだが、案の定悟の母親は、烈火のごとく激高し二人に暴言を喚き散らかしていたのだ。
その理由は茜の身分が理由だ。いくら茜の家庭が過去に栄光を持っていたとしても没落した身だと自分の息子だけではなく自分にも不幸になると勝手な妄想を膨らましていたのだ。それくらいその母親の情緒は不安定だったのだ。
それだけではなく浴びせられる暴言に茜は泣きそうになっていたのが、そのきっかけで逆鱗に触れ悟は生まれて初めて母親に刃向かい言い争ったのだ。
今までの悟は母親に操られるままの人形だったが初めて自分の意志で好きになった子をけなすのがとても許せなかったのだ。
当然その母親も歯向かう我が子に頭を抱え戸惑いを隠せず、薬を服用しながら悟と言い争いをしたのだ。その喧嘩はお互いがどれだけ言い合ったか分からないくらい引き分けになっては再度会い喧嘩したりとその繰り返しで軽く一年以上は親子喧嘩をして両者譲らなかったのだ。
だがその親子喧嘩も意外な決着で終わった。当の母親は、悟の反抗で衰弱してしまったせいか、人目がない深い森に向かい自身の首を吊って自殺をしたのだ。
その悲報に悟は落胆し泣いていた。
ちゃんと話して心から認めてほしかったと思ったのだ。
まるでわざとリタイアしたかのように心が空っぽになっていたのだ。
それは母親の死後になっても同じ、悟は仕事を辞め引きこもっていた。
そんな茜は悟の事を見捨てずたった一人で仕事をしながら悟を温かく寄り添っていたのだ。
勿論茜は病弱だったが愛する人の為に命を削りながら悟と向き合っていたのだ。
その訴えがようやく悟に届いたか、再び立ち上がることができ以前の職場より給料がいいところへ再び就職することができた。
これにより二人は改めて婚約し、その一年後に娘を授かったのだ。
その子こそが朱里、二人が新しい道に歩むために生み出した愛の結晶。
自分たちが体験した苦行を娘にも味合わせない為にその子に愛を育もうとしたが、現実は非常なもので神はその幸せを奪おうとしていた。
それは、朱里を出産した際の茜への急激な体調の衰えと病の悪化だ。
これまで無理して働いた分逆に看病される時間が増え、仕事を辞め昔お世話になった使用人の杉山さんを雇い世話される日々が多くなっていた。
逆に悟の職場は給料が良い分。出張する日が多くとても家に帰れない状況だった。
本当なら、仕事を減らし少しでも多く生まれてきた娘と愛する妻と一緒に有意義な時間を過ごしたい。その気持ちでいっぱいだった。
だが、生前母が貯蓄したお金はほぼ使い果たし、その生命保険もわずかで妻が働けない中、頼りになれるのは自分だけ。
その浅はかな考えを押し殺し、休む間もなく必死に働いてた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
「悟・・・・・・・・・」
「ん。ここは・・・・・」
「しーーーーーーー朱里寝てるから起こさないでね、まったく家だってのに着替えずに寝ようとするなんて随分ズボラだね。昔とまったく変わらないよ・・・・・・・・・クシュン」
気づけば悟は、仕事で汗まみれのスーツのまま愛する妻の茜と娘の朱里が寝ているベッドを頭に乗せて寝ていたのだ。
恐らく残業と出張の連続で疲れがたまり疲労困憊の中夜中に帰宅し、何も考えずにそのままこの部屋にたどり着き眠りについたようで、どれくらい寝たのだろうか分からず記憶が曖昧だ。
その無邪気な顔に茜は微笑み窓とカーテンを開ける。
すると朝の日差しと10月の秋の涼しくも肌寒さが悟の身体を刺さろうとする。
そのせいであって、少し開けただけで、主犯の茜が大きくくしゃみをする。
そんな誤った行動に眠気は失せ呆れた表情で窓とカーテンを閉めた。
「なにをやってんだか。これ以上病気が悪化したらどうするんだ?」
「あははははは、大丈夫だって。最近身体が軽くなったから、今年・・・・・・・いや来年くらいには再び働けれると思うよ。というかその前に朱里と一緒にどこかに行きたいね」
「ん・・・・・・」
そう言いながら茜は、熟睡している幼い愛娘の頭を撫でた。
「今帰ったてことは、今日は休み?なら久々に朝ごはんなにか作ってよ」
「すまない・・・・・・そうしたいのはやまやまだけど、今日からロスの長期出張だから、少し寝た後に、再び準備して空港に向かわなくちゃならない」
「時間大丈夫?」
「うん。茜が起こしてくれたから今から準備したらなんとか間に合うよ」
「そう、なら朱里を起こすのはまずいわね。この子ずっと、君の帰りを待ってたんだもん」
「ん・・・・・・・・」
そう言いながら朱里を触れようとすると軽く揺らして声を出す。
茜は、いけね!!と言い出しそうな感じで舌を出し、ほほ笑んだ。
「悟、しばらく見ないうちに喋り方も変わって、立派になったね。前はわたしがいないと駄目な感じだったのに、これじゃわたしはお役ごめんかな?」
「なにを言ってるんだ。冗談でもそれは笑えないぞ。今こうして胸を張って自分らしく前に進めたのは君のお陰なんだ。だからこれからも僕の横にいてくれないか」
「あはははは。ありがとう悟。それを言ってくれただけで勇気がでたよ」
「わ・・・・・・・笑わないでくれ。それだと朱里が起きちゃうだろ!?」
「ごめんごめん・・・」
久しぶりに見た妻の表情の変化を見て安心した。杉山さんの話を通じた情報だと、寝たきりになって以降茜は、朱里といた時は作り笑いのように、本心で笑う日々が少なかった聞いている。
今そう思うと本当の改めて本当の笑顔を見て心底安心した。これなら本当に近いうちに病気を感知し、三人とどこか遊びに行けるとそう思っていたのだ。
自然とそれを妄想するとにやけてしまうので、誤魔化す為に悟は素早く部屋に出ようとするが、茜が直前声を放つ。
「がんばってね・・・・・・・・・貴方・・・・・・・」
そのかのじょらしくない言葉が、茜の最後の言葉だった。
茜は悟が出張したその三日後に悪化し帰らぬ人となった。
それを知ったのは、出張途中に杉山さんからの連絡で初めて知った。だが、今ビッグプロジェクトの為に途中で家に戻ることができなかった。
悟の会社は、不況が原因で会社の実績は年々下がってる一方だが、悟中心にいたお陰で回復しつつある。
その類まれない成績を残した悟は、上役からプロジェクトの責任者として任されたのだ。
今回のプロジェクトは会社の命運をかけたもの。ここで自分がいなければ会社はおろか、唯一の希望の朱里さえも幸せにできない。
なので仕方なく家族を捨て、仕事を勤しむこととなった。
それによりプロジェクトは成功し、悟は一気に地位を高め出世コースを歩んだ。
そして自然と仕事に没頭することになっていた。そうすることで愛する妻を失った悲しみを思い出さなくて済む。たとえそれが娘に嫌われようと、家族を護る為にしかたなかったのだ。
その全てを祐輔の母に語った。なお、それでも心が晴れず頭を抱え悩んでいた。
「あか・・・・・・・・・いや、妻を失ったことですべてが見えなくなったせいでわたしは大切な事を忘れてました。なぜ、私と悲しんでる娘に手を指し伸ばさなかったのか・・・・・・・そうすれば全く違う幸せな展開になれたのに・・・・・・と今でもそう思うんです」
「その答えが朱里ちゃんをできるだけ早く渡米させることなんですか?それは本当に朱里ちゃんの事を思ってる行動とは思えませんね。親ならば子供の意見を尊重させることも大切でしょうに」
「ごもっともです。私のやってることは結局は、大切なものを取り上げる毒親みたいなものでしょう。けど、これは事前に娘に話したことなんです。それを破ったならその責任として私と共に悔やみお互いを見つめなおす為に話し合いすべてをゼロからやり直したいんです」
悟は思いのすべてを祐輔の母にぶつけた。
これは朱里だけではなく、今までほったらかしにしていた父親としての罪。
周囲から否定され、どんなに娘に嫌われてもキチンと父親としてのけじめを取りたかったのだ。
その意見に祐輔の母は半場モヤモヤとしていた。
このままでは朱里ちゃんが築いてた軌跡は無かったことにされる。それは本人だけではなく周りの人間を影響を及ぼす。それこそ涼風朱里という存在は、周囲の運命を変える女の子なのだ。
「なら、うちのバカ息子に任せればいいですか?」
「オタクの息子さんですか?確かに朱里は祐輔君を信頼している。私から見ても娘を任せられる好青年だと思います。しかし、親としては。まだ早すぎると思いますが・・・・」
「なにも祐輔だけに朱里ちゃんを託すわけではありません。楓ちゃんにレンさん勿論私も全力でサポートします。朱里ちゃんは、貴方の奥さんが眠ってるこの街が好きなんですよね?なら、せめて本来の約束通り卒業まで待ってくれませんか?」
そう言いながら祐輔の母は、頭を下げていた。
この願いはただ純粋に母としての願い。
数か月までの息子は無気力で影が薄い男だったが、突然大人びて男らしくなっていた。これに朱里が関与したか分からないが、これは親として誉なことだ。
本人が過去に朱里と会った事を知ったのならその思い出の続きを描かしたいと強く願っていた。
その思いに対し悟は頭に手を添えて考えていた。
「・・・・・・・・・・・はぁ、何をやってるんだ私は。今のやってることは亡くなった母そのものだ。二の舞にならないと自覚をしていたのに、気が付けば子供の行動を優先してなかった。ただの私の自己満足だ。・・・・・・・・分かりました。娘の転校を当分の間保留します。ただし、これからの行動によりますがね」
「そうですね・その方がよろしいかと・・・」
お互いは無意識に笑い、悟は先に立ち上がりネクタイを整えた。
その顔は迷いないスッキリとしており歩み出す。
「さて、そろそろ、子供達の向かいに行くのでよかったら一緒に行きますか?馬鹿な事をしない前に・・・・・」
その問いに返事し、二人の親は未来ある子供に会うために出て行った。
今までありがとうございました。
一応朱里と祐輔の物語はおしまいです。
この二つの結末に加え楓ルートも一応構想してましたが没にしました。
反響があれば記載します。
次の作品に期待してください。次は異世界ものと恋愛ものを二つ新しく構想してます。
それではまたまた!!!!




