ルートB 薄れ行く記憶
「おい、アンタ大丈夫か?」
「ん~~~~~ここは・・・・・・痛い」
突然の野太い声で俺は目を覚める。視界に最初に映ったのはどこにでもいるよう中年男性だ。どうやら俺はその人の声で目を覚めたようだ。
的確に返事をし起き上がるのと同時に激しい疲労感がし視界も定まらない状態になった。
俺は何をしてたんだ?
「なぁ、アンタ大丈夫かい?」
「う・・・・・平気です」
ボーっとした頭を押さえながら俺は立ち上がり、ぼやけた視界の中で周囲を見渡す。
ここは・・・・・・・どこだ?空を見ると満天の星々ととその上に輝く三日月が見える夜空の元、地上ではなにかの騒ぎがあったか周囲には人だかりがあり、目の前には、コンクリートに突き刺さってる鉄骨が映る。
しかも倒れた俺との距離はほんの数センチだ。
というか俺、もう少しで死ぬところだったんじゃ・・・・・アレ、この光景どこかで見たような。
「まったくヒヤヒヤもんだぜ。お前さん会社帰りか知らねぇが、随分と疲れた顔で帰り追って、鉄骨が落ちた時に声をかけてもボーーーーーーっと見上げるだけだからこっちまで心臓が止まるところだったぜ。それもあってかいきなり気絶しやがって・・・・・・まったく運がいいやつだよ」
「・・・・・・・・・会社員?」
「なんでぇ。死にそうになったから記憶がぶっ飛んだのか?」
会社員?何を言ってるんだ?俺は学生・・・・・・・ってアレ?
俺いつの間にかスーツ着ているし、なにより背も懐かしい感じに伸びている。
ふとポケットをまさぐると家のカギに財布に最新機種のスマホにそれに名刺入れがありそこには一周目で死ぬ前に自分が勤めた会社名と自分の名前が示されていた。
間違いない。どうやら俺は一周目の世界である元の世界に戻ったんだ。
しかしどうやって元の世界に戻ったんだ?
確か涼風さんが外国に引っ越しする前に涼風さんのお母さんの墓参りをしてそれからその帰り際に・・・・・・・帰り際になにをしたんだ?
石段を降りて以降の記憶が・・・・・・
ズキン!!!!!
「ぐわぁぁぁぁぁ!!!!」
なんだコレ?無理に思い出そうとするとそれを拒むかのように頭が割れるかのように痛い!!!
それに頭痛が走るごとに、二周目の記憶が段々と薄れてしまう。
なにがどうなってんだ?
「おい、しっかりしろ今から救急車を呼んでやる」
「へ・・・・・・・平気です。ありがとうございます」
スマホを片手に救急車を呼ぼうとする中年の手を払いのけふらついた身体でこの場を後にする。
「はぁ・・・・・・・・・はぁ・・・・・・・」
歩くたびに、二周目・・・・・・いや、夢の世界で起ったことが薄れてしまう。
アレ?涼風さんと勉強会をした場所はどこだったのかな?告白の場所は?
最後に向かった場所は?
ダメだ・・・・・涼風さん関連だけではなくバイトした場所や店長の本名や前職も・・・・・・・それらすべての関連したものが、抹消されてしまう。
なんとか時間切れになる前に、この世界の涼風さんに会わないと・・・・・
ふと、目に入った居酒屋に目を向ける。
ここは・・・・・・・
「いらっしゃい。何名様ですか・・・」
「あの・・・・・・・」
店員の病んでる俺の姿に驚きながらも案内してくれた。
そうだ。今日ここで二年時の同級生が集まってるんだった。
案内された先の見慣れたかつてのクラスメイトと再会する。
「はぁ・・・・・・・・はぁ・・・・・・みんな」
ざわざわ・・・・・・・・
無論一周目の俺は、二周目という幻想世界とは違い、佐々波を除いてロクに会話をしたことがないやつらばかりなのだ。無論向こう側も俺の顔を見て覚えてるはずはない。
実際俺の顔を見て、その殆どがポカーンと口を開き、一同が『お前誰?』と言わんばかりに口をポカーンと開け、さっきまでの賑やかモードが一変お通夜のように静まり返っていた。
「お前久東か?随分久しぶりだな」
「佐々波?」
こんな俺に声をかけてた来たのは、唯一の親友の佐々波だった。
あの落ちこぼれの野球部員が一変俺と同じようにビジネススーツを着こなし、髪も坊主頭かららしくない七三分けに風変わりしていて、立派な大人になっていた。
最後に会ったのは大学の卒業の時に一緒に遊んで以来の事なので、なんだか懐かしく感じてしまっている。
「というか、めちゃくちゃ汗だくじゃねぇか。くさっ!!!ちゃんと風呂に入ってからこっちにこいよ」
「うるさいよ・・・・こっちは仕事帰りでいろいろあったんだよ。そう言うお前も自分の鏡を見てみろよ。頭皮が薄くなってるぞ」
「お前・・・・・・本当になにがあったんだよ。今までこんな人前で冗談を言う性格じゃなかっただろ?」
「いろいろあったんだよ・・・・」
久しぶりの友人のジョークをサッサと終わらせ周囲を見渡す。
アレ・・・・・涼風さんらしい人物はいない。まだ来てないのか?
いや、来てないんじゃない。もしかして・・・・・
「なんだぃ、見慣れない顔がいるようだねぇ。せっかくの祝いに茶々をいれないでくれないかぃ」
聞き覚えがある声で振り向くと大人バージョンの明日ヶ原だった。
変わった口調は昔と変わりなく、同窓会だってのに着物姿で来ていてより一層遊び人感が増していた。
さらに、佐々波が横から耳打ちすると、明日ヶ原は大学卒業後、地元に戻り巷で有名な空手道場の師範をしてるようで、噂だと近所の悪ガキを更生させるために空手を教えたりと色んな意味で伝説を生んだ人物になったようだ。
後、この同窓会に来たのは、ただ純粋に昔の女友達をセクハラしに来たようだが、一番の目的の涼風さんが来てないのでご立腹中である。
「す・・・・・すまんな。明日ヶ原。ほら久東、今あいつは涼風がいなくて機嫌が悪いだから向こうに行こうぜ」
「その前に聞きたいことはある。涼風さんはここに来ないのか」
「あ?」
「お。おい!!!」
佐々波の静止を払いのけ明日ヶ原に問う。勿論そのセリフは禁句だった為明日ヶ原はより苛立ちを見せるが、退かずに立ち向かう。
「なんだぃ。お前どこのどこだか知らないけど、なんでそんな事に答えちゃならないんだぃ。つらそうにみえるから見逃す。大人しくかえってろう。」
「同じクラスメイトの久東だ。と言ってもここではあんまり関りが無かったな。もう一度聞く。涼風さんは今どこにいるんだ。知ってる情報を教えてくれ」
「・・・・・・・・・・」
俺の鬼気迫る問いに場は静まり一気に冷めていた。みんなごめん。久しぶりの再会なのにぶち壊す真似をして。今の俺は夢の世界の記憶が薄れて余裕がないんだ。
殴られ覚悟で睨んでいる明日ヶ原に眼光を飛ばす。
「はぁ・・・・・・・やれやれ。なんだいそのお通夜みたいな空気は・・・・・せっかくの同窓会を台無しだねぇ。けど最後に朱里に連絡をかわしたのは今日の夕方だけど、朱里はすでに国内にいると。ただ大切な用事があるから同窓会に来るのは難しいようだ」
「そうか・・・・」
「これで充分かぃ?ならサッサとどこにでも失せろぉ」
大切な用事・・・・・・もしかしたら・・・・・・
すかさずスマホを取り出し記憶が完全に消える前に、今の時刻を見ながらメモ帳の機能を使い手がかりの場所を書いた。
「痛つぅ」
頭痛は今より増して強くなってる。こりゃまもなく二周目の記憶が消えそうだな。マジで急がないと・・・・・・
みんなの心配を押しぬけここから出る。と、その前に
「佐々波。短い間だけど久しぶりに会えてうれしいよ。それと明日ヶ原も感謝する。もし世界が違ってたら俺達は猫好きの同志になれたかもなぁ・・・じゃあな」
我ながらダサく感じるほど、言い残して去った。
ハハッ俺がここから消えると、場は一気にざわめき始めた。どうやら俺のカッコ悪い登場に愚痴をこぼするだろう。
後は好きに楽しめ。俺がいない方が冷え切った場は元に戻るはずだろうさ。
それよりも俺は向かわなきゃいけないんだ。あの場所に・・・・・・・
今も軋む頭が砕けようと関係ない。
俺の推理に間違いがなければ絶対にあの場所と時間に、あの人が来てるはずだ。
それは子供の時の古い約束。今もずっと待ってる。
俺がこの世界で堕落した生活を送ってる間彼女は今まで探し待ってたんだ。
店の扉を開け再び夜空を見る。その星々を見ながらふらついた身体で千鳥足になりながら歩みながら消えゆく夢の記憶を振り返え、涙を流す。
これはマグロ丸が作ってくれた軌跡の結晶。
そのおかげで俺の役割を思い出した。この先彼女が来ようが来ないか関係ない。
ただ、俺は謝りに行かなくちゃいけないんだ。
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「まったく嵐のような男だねぇ。佐々波ぃ。久東?と仲がいいんだろう?わたしの記憶だと昔とはだいぶキャラが違うが・・・」
「俺も同じだよ。あいつが人目を見てハキハキ喋ったりするのは初めてだよ」
「そうかぃ。あれから10年くらい経ったんだ。キャラ変わりくらいあるだろう」
「というか。意外に思ったのだが、お前猫が好きだった・・・・・グハァッ!!!」
「忘れろぅ!!!!というかなぜあいつは、わたしが猫好きなのは知ってるんだぃ・・・・・まぁどのみちもう会うことないんだ。サッサと忘れて左近寺あたり久々のセクハラ・・・・もとい身体の付き合いをしようかねぇ」
「相変わらずおっかない女だ・・・・・」
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