ルートA 永遠にこの地で…
A.涼風さんの言う通りすべてを捨てて逃げ出す。
・・・・・・・・・・・・・
「ちょっと待ってよ。逃げ出すってどこに逃げるんだよ?」
「ただ好きな人が一緒ならどこでもいいよ。知り合いがまったく知らない遥か田舎町・・・・・・・ううん島でも、誰もいない未開の土地だっていい。久東君が一緒なら苦労はしないよ」
「・・・・・・・・・」
逃げだすか・・・・・現実的に考えれば計画性がなく、経済的にも安定しない。この先苦労するのは間違いないだろう。
けど、なんでかな?この気持ちに異様に共感できるのは・・・・
思えば俺も一周目の世界のブラック企業で働いたときもそんな感覚があった。
このまま一生社畜になり、レール通りの冴えない人生を歩むよりももっと自由に生きる方法がないのかを・・・・・
その答えは結果的に二周目の人生を歩むことである意味叶ったのだが、最終的にこの世界でも好きな人と離れ、また社畜になる道が待っている。
本物の恋を知った俺はこの先いい女の人に会っても惚れる気はしないのだ。
それに万が一涼風さんが留学から偶然この街に戻ったとしても、あの厳格な父親は俺と結ばせるつもりはなく、俺よりもはるかにスペックが高いどこかの御曹司と結ばせるつもりだ。
いくら俺が死に物狂いで勉強しても生まれた環境や才能や容姿がすることはない。文字通りの詰みだ。
それなら一度リセットして二人とゼロからスタートした方がいいのではないか?
ふと悪魔のささやきのようなものが俺を誘おうとする。
もう好みは一度捨てた身、何をしようが自由だ。恐れなんてないはずだ。
勇気を出し涼風さんの手を握る。
「分かったよ涼風さん。君の言う通り、君が満足するまでどこにでも連れてってやる。このセリフはとてもクサイけど、言わせてくれ・・・・・今度こそ君を泣かせない。君だけの王子様ってやつになってやるよ」
「・・・・・・・・・・・ありがとう。祐輔それでこそアタシの最愛の人だよ。それじゃ行こっか」
今の超恥ずかしいセリフ普通なら冗談で笑いこけてるはずが、彼女は笑うどころか受け入れてくれた。それくらい逃避行が本気なのだろう。
そして涼風さんはせかすように俺を強く引っ張り無理にでも走らせようとする。勿論墓参りの片付けをしっかりとしてだ。
こうして俺の二周目として逃避行が始まろうとしている。涼風さんは童心に戻ったかのように俺の手を強く握るかのように生き生きとし墓地から出るための石段を跳ねるかのように降りてった。
「ちょっと涼風さんそんなに引っ張らなくても・・・・・石段だからこけるって」
「いやいや、急がなきゃダメだって!!!足がつかないように今の内近くのぎ口座を降ろして隣の県に移らなきゃいけないよ。それとお金もあまり使わずに、収入が出るまで節約しないと・・・・・」
まるでこのような事がすでに起きることを想定してたかのように隙のない計画を立てていた。
すごいよ涼風さんは・・・・・君となら生涯最高の逃避行ができ・・・・
「ほぅ・・・・・この街をすぐに出るか・・・一体君達はなにをするつもりかね?」
「パパ・・・・・・なんで」
開幕わずか数秒・・・墓場から出ようとした途端見覚えがある黒の車体から俺の母さんと涼風さんの父さんがでてきたことですべての計画が水の泡になった。
「なんでって・・・・今日は母さんの命日なのだろう。夫として来るのは当然ではないのかね?とはいえ最近は多忙で命日の日には行けなかったがね。一年ぶりだが母さんは許してくれるだろう」
そう言いながら涼風さんのお父さんは車からお供え用のお花と先ほど俺達が行った店のケーキ箱を手にしていた。もしかしてこの人もここに来る前に全く同じルートを寄ってたのか?
「一年ぶりってパパは去年も墓参りに」
「そうだ。それでも命日の一週間範囲には必ず寄ってはすぐに現場に向かっている。知らなくて当然だ。それよりも先ほどいかんせんセリフを耳にしたようだが、話を要約すると君たちは、計画もなしに駆け落ちまがいの事をするようだな」
「駆け落ち?祐輔アンタ、また馬鹿な事を!!」
「違うって母さんこれは誤解だって!!」
「そうだよ。今から祐輔と一緒に幸せな人生を歩むの!!!だからパパは邪魔しないで!!!」
ちょっと~~~~~涼風さん、なに一世一代の計画をバラしてるの~~~~~そんなの火に油だよ!!
「逃避行か。それはお前だけの身勝手な意思だろう?無理に付き合わされる久東君の気持ちを考えたまえ」
「はぁ。なに言ってんの。勿論久東君も一緒に行くって決めたもん。ねぇ祐輔」
「勿論さ。俺は死ぬまで涼風さんと・・・・」
「本当にそう思うのかね・・・」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
「う・・・・」
俺の言葉を半強制的に打ち消し涼風さんのお父さんは無言の威圧を放ちながら俺の事を凝視する。
その鋭い眼光で怒りがこもったような声を放ちながらジリジリと俺を近づこうとする。その態度に俺の母さんも一、二歩下がり引くほどに静かな怒りを感じていた。
それくらい俺の・・・・いや、俺達の生半可な行動に激怒してるんだ。
「君に聞いてるんだ・・・・・黙ってないで答えなさい」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
その冷たい声と威圧のせいか手足が震えてしまい思ったように反論ができない。
こ・・・・怖い・・・・どんなに脅されようと俺は、涼風さんと一緒に・・・・
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!
言う通りに・・・・・
「す・・・・・・・すみませんでしたぁ!!!!朱里さんに強引に付き合わされて、断ることができませんでしたぁ!!!」
「祐輔ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
気が付くと俺は土下座をしていた。その無様な姿に涼風さんは、勢いよく突っ込まれた。
それと同時にさっきまでの威圧は解放され、手足の震えが解かれた。
俺の無様な態度を見て涼風さんは怒りどころか呆れもなかったが、普通に好感度がちょいと下がる感じがした。
そんな涼風さんにこっそりと耳打ちした。
「ちょっと、祐輔なにやってんの?さっきまでの威勢はどしたの?」
「(ごめん・・・君のお父さん怖すぎるよ。作戦はもう少し先まで延期に・・・)」
「(いやいや、確かにパパがここにいるのは運が悪いけど、そこで諦めるの?王子様なんだから何とかしてよ)」
すまない。王子様だってできないことはできないんだ。無能な俺を許してほしい。
「朱里、あまり彼を責めるんじゃないよ。責めるべきは・・・・・・」
「ひっ・・・」
俺を無視し、涼風さんのお父さんはそのまま娘の方に歩みそして、手を高らかと上げた。その行動に彼女はビクッと震えながら目を閉じていた。
これ、前みたいにビンタをするつもりだ。止めるように叫ぼうとしたが・・・・
その手は叩くどころか、優しく抱き着き頭をさすっていた。父親らしいその行動に彼女はキョトンとしていた。
「え・・・・・・」
「私にある。・・・・・・すまなかったな今まで放置をして。そして、しばらく見ないうちに大きくなったなぁ・・」
「え・・・・ちょっとなに・・・」
「すまない。今のは忘れてくれ」
その抱擁はほんの一瞬だったが、氷の表情の涼風さんのお父さんの顔は優しく笑ってるように見えたが、すぐに元の険しい顔に戻った。
「ちょっと。なんなの?意味わかんないんだけど、そんなことしてもアタシの意思は変わらないから」
「変わらないとは彼と一緒にこの街を出ることなのか?」
「そうだよ。どうせ祐介とはもう会えないんでしょ。だったらそうさせてよ」
「だからお前は永遠に子供のままなんだ。自分の身勝手な考えで久東君の未来を失うことになるんだよ。お前はいつから人の人生を左右するほどの立派になったんだ?」
「う・・・・」
たしかに涼風さんのお父さんの言ってることは正論だ。なにも間違ってなんていない。
けど、それじゃ納得ができない。前に出ようとするが母さんがふさがり呟く。
「まちな。最後まで話を聞きな」
え?最後まで・・・
その言葉が気になったか立ち止まってしまつた。
「本当に彼が好きならばこの街に残っても構わない。だから身勝手な行動を控えてくれないか?」
「え?なんて・・・今、ここに残っていいと言ったの?」
聞き間違いなんかじゃない。俺も聞こえた。今涼風さんがこの街に残っていいと自身の父親が言ってくれた。これは夢なのか?
そう思った直後涼風さんがこっちに向かって突っ込んできた。
「裕介!!!!!」
「ちょっ涼風さん!!!危ないって!!!」
「危なくてもいい!!!!怪我してもいい。ずっと君と一緒に入れるなら死んでも構わない」
突然と溢れ出す涙が俺の腹部に冷たく当たる。その可愛げがある姿に俺は優しく顔を振れお互いの顔を見つめる。
「うん。予定は狂ったけどずっと一緒だ。あの時ように君をエスコートをするよ。この長年住み続けたこの街で」
「祐介ぇ・・・・・うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「アラララ、女の子を泣かしちゃってホントアンタはどうしようも無いバカ息子だよ。言っておくけど、アンタが朱里ちゃんとかけ落ち未遂のことはマジで怒ってるから、後で説教覚悟しといてね」
「母さん。一体なにをしたんだよ。あの厳格な涼風さんのお父さんが変わったのは普通おかしいだろ?」
「さぁね。一つ教えるとしたら、自分と向き合うことだろうね」
そう言い残すと母さんは、用意した花束を持ちながら、亡くなったばあちゃんの墓参りにすると言っていた。
しばらくすると涼風さんは泣くのを止めて、改めて自身の父親と向き合った。
「パパ、本当にありがとう」
「ふん。だが、これが最後のチャンスだ。次私の耳に悪行が届いたらその時は」
「分かってるよ。それじゃパパも一緒にママの墓参りに行こうよ。久しぶりの親子三人で」
「そうだな」
「それじゃ祐介、この後パパと一緒に過ごすから続きは学校でね♡」
「うん。またね」
まるで恋人ではなく普通の友人のように今日は別れた。
確かにまだ再び付き合ったことではないけど、この場合どうなるんだろ?
とりあえず明日の学校でその全貌が明らかになるのかな?楽しみ過ぎる。
そう思ってるとニヤけてるといつのまにか涼風さんのお父さんが一度こっちに向い一言言い残してから、娘の後を追いかけるように駆け出した。
『娘の事を頼むよ』




