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運命の二択

『祐輔ぇ・・・・もうすぐご飯だよぉ』

『うん。分かってる今行くよ。・・・・・・・はぁっ今日は三日月が見える日かな・・・』

あの女の子と別れてから俺はあの紙きれの通り三日月が出る夜の日を待ってたのは覚えてる。

その子とはまだ住所どころか名前も知らない子だからまた会える保証はない。

けど約束したんだ。また会って楽しくお話をしたい。あの子とは生まれて初めての友達になれると期待をしていて、それ以来寝るのを躊躇う日が続いていた。



だが、数日後の夜。とうとうその日がやってきた。時間は何時だったか、そこまで詳しくは分からない。だけど、夜空には輝かしい無数の星々の間に浮かぶ三日月の姿。

期待したことが現実になり、嬉しさが高まり震えが止まらなかった。恐らくあの女の子もこの景色を見てるから来るはずだ。


あの公園はたまにばあちゃんが連れてくれてる場所だからメモ通りに歩けば迷わないはずだ。それにお父さんからこっそり盗んだ懐中電灯とおしゃれな腕時計があれば怖い夜道でもなんとか時間通りにつけるはずだ。迷う心配はない。

もうすぐあの子に会える。その期待感を胸に心待ちしてしていた。




『これで準備よし。さぁ行こうかな・・・・』

そして約束の時間の一時間前、リュックに必要なものをつめ、準備万端。

今家にいるのは仕事帰りで風呂上り後にお酒を飲んでるお父さんのみでしばらく起きないはずだ。それに今日は幸運なことにお母さんは仕事で帰りがめちゃくちゃ遅い。普段なら悲しいが、いなくてこれほどうれしいことは無い。

さっそくお父さんが起きないように俺は、ゆっくりと音を経てずに忍者が如く忍んでたな・・・・・そして玄関に扉を開けようとした時、思いがけないことが起きた。

プルルルルルルルルルルル

『!!!!』

「・・・・・・・・ん、なんだぁ。電話か・・・・・・・はいはい。もしもし」



それは突然の電話・・・・・・それと同時に心臓が止まるように緊張し、すぐ隠れ、寝ていたお父さんは飛び上がるように電話を取った・・・・・・




その電話は悲報の知らせ。数時間前まで元気だったおばあちゃんは突然倒れ、救急車に運ばれた。




『祐輔!!!今すぐおばあちゃんのとこ向かうぞ!!!』

『うん。おばあちゃん・・・・・無事にいて』

突然の急報で、あの女の子の事よりお父さんと一緒におばあちゃんのいる病院に車に乗っていった。

それも当然、ばあちゃんは、俺が困ってる時でもニコニコと笑いながら好きなものを買ってくれる笑顔が絶えない人だ。会ったばかりの名前も人間よりも親しみ深い人間を優先するのは人間の真理だ。それは幼い子供でも常識な事。




約束なんて頭の中から抹消され、ばあちゃんがいる病室に向かう・・・・けど、遅かった。

俺が向かった時にはすでにおばあちゃんは病室のベッドの上で静かに眠っていた。





『お・・・・・・・ばあ・・・ちゃん・・・・おばあちゃん!!!!!!!』

見ての通り状況が理解した俺は、思いっきり涙を流しばあちゃんの方に寄り添った。

その時、俺の背中を温かい手で押さえるお父さんと後から来てくれた母さんが俺と一緒に泣きながら抱き着いてたのは覚えてる。

それ以降・・・・・約束なんてものは、完全に忘れて行き完全にふさぎ込んでいたんだ。

このことを曖昧だがすべて涼風さんに話した。

その真実を知ると何を言えばいいか分からないように無言になっていた。




「ごめん涼風さん・・・・ずっと待ってたんだよね。あの公園に」

「なんで・・・・久東が謝るの?そんな事聞かされちゃ責められないよ!!!」

突然謝る俺に、優しく怒った。そうか・・・・涼風さんもこの時期お母さんを亡くしたからその気持ちが分かるんだ。





「けど、それでもショックだよ。約束を忘れたとはいえ、小学校で再び会ったのにアタシの存在を忘れるなんて。アタシずっと待ってたのに・・・・」

「そ・・・・・そんなの俺は知らないよ。それに初めて小学校で君の事を認識したのは小学三年の時のクラス替えだよ。それにあの時は、涼風さんは今のように髪を短くしたから分かんないよ。それだったら君の方から声をかけてくればいいのに・・・・だってこの時点で俺があの時あった男の子って事を知ってたよね」

「知ってたよ・・・・・けど、確証がなかった。だってアタシが知ってる王子様は明るくて元気な人を想像してたから・・・・久東君を見たらそれとはまったくの対照的なイメージだから本当かどうか分からなかったからなかなか話せなかったの。だって人違いとかちょうハズイじゃん」

確かに言ってることは分かるよ。けど、思ったことをズバズバ言う涼風さんには恥ずかしいなんてあるのか?



「あ・・・・・今アタシには恥ずかしいのは無縁とは思ってない?一応アタシだって乙女だから恥ずかしくて遠慮することはあるよ。それに・・・・こんな暗い子があの王子様だと思いたくなかった。だってその姿は、あの時のようにグズグズと泣いてたアタシと一緒だったから」

「・・・・」

そうか、今までのような明るい彼女になれたのは俺と出会った影響なのか。

つまり俺と出会わなかったらかつての俺みたいに陰気で暗い人間になってたってことになってたのかな?

でも、その姿ならお互い共感できるからこれまでと違った出会いと親しみ方になるかもしれないな・・・・





「あーーーーーーあ、せめて自分から思い出してほしかったな。それなら誘惑しなかったのに・・・・あれ超恥ずかしかったんだよ」

「え?なんのこと?」

「ほら、思い出してみてよ・・・アタシが君にいろいろセクハラまがいな事をしてたこと・・・」

恥ずかしそうな顔を手で隠しながら指で俺の股間を指す。

あ・・・・・もしかしてあの時のことか?涼風さんが唐突にビッチぽく下ネタ発言しながら俺を誘惑してたのは・・・・・・

もしかしてアレは演技だったのか・・・そう感ずくと自然と縦に振っていた。

道理でおかしかったんだよなぁ。いくらギャルで下ネタ好きでも経験者ばりに誘うのはいつぞやのエセツンデレばりにおかしかったんだよな。


「だってぇよく世間から聞くじゃん。オタクはよく遊んでる派手めなギャルが好きだって。それみたいにいやらしく誘ったら嫌でも思い出すかなーーーーーなんて・・・」

「はぁ・・・・・そんな事を考えたのか」

「なんでため息なの」

そりゃ吐くよ。そんな単純な理由でビッチを演じるなんて、そんな偽りな姿で言いよったら下手したら幻滅するよ。俺はそうはならないが・・・・




「あのね・・・涼風さん。君は今まで通りありのままの姿を貫いた方がいいよ。君は人徳があるから普通にしたら人は寄って来るけど、偽りの姿を演じたら縦宮みたいな勘違い野郎がまた寄って来るよ。これは最後のメッセージだよ」

「最後・・・・・」

その言葉を吐いたとたんに涼風さんは思い出したかのように涙を流していた。

無論俺も流したい。けどここは我慢だ。この場所は涼風さんのお母さんが眠る地であり俺のばあちゃんが眠る場所だ。恥ずかしい姿は見せられない。





「えへへ本当に最後だね。もうちょっとしたら会えなくなんだね・・・」

「うん。もうすぐだ・・・・・けど、君には音楽がある。利き腕は大丈夫?」

「平気見ての通り動けるよ・・・・・・痛!!!ちょっとヒリヒリするけどギター弾けるときには支障がないよ。けど、WitchWigのみんなには申し訳ないかな。せっかく新しいライブハウスに映ったのにみんなと長く活動できないなんて・・・・・けど転校するのはまだ先だからみんなとは一度だけセッションできるよね。その時は久東君来てくるよね?」

「うん。きっと行くよ・・・・」

その時突然抱き着かれる感触が走った。





「うわぁぁぁぁん!!!!!!みんなと別れたくないよぉぉぉぉぉぉ!!!!」

気づけば俺の顔の横には涼風さんが近づき、声にならないほどの悲鳴を奏でていた。

今まで我慢して感情を抑えていたが溢れ来る悲しみによって爆発していた。

涼風さんが今どんな顔をして悲しんでいるのか分からない。けど、その温かく悲しい抱擁でなんとなく分かる。

彼女は誰よりもこの街と人々を愛していた。・・・・・・・できるだけ長くここに居たいと願っていた。

その理由は俺が過去を思い出し、真新しい青春を楽しむ事。

それが涼風さんが目指す新しい物語だった。

けどその物語はたった1ページで終わってしまう。

つくづく俺の鈍感さにイライラする。俺が過去を思い出せば済む話なのに・・・・

彼女の悲しみにつられ俺も自然と号泣し叫ぶ。そこに恥ずかしいと言う気持ちもない。

心底愛して人にすべてをさらけ出すんだ。これならあの二人は許してくれるはずだ。




「久東君、キスしよっ」

「するよ。いくらでも」チュッ

躊躇いなく俺達は2度目のキスをした。今回のはこの前みたいなフレンチキスではない。かくゆえ獣のようにむさぶるディープキスでもない。その中間のようなものだ。

舌を口の中に入らないくらいの紳士的かつ奥深いような口付けだ。

それを数回繰り返すると、泣いてふやけた顔でお互い見つめ合う。

2回目のキスのせいか興奮し熱くなり緊張さえ感じなくなった。







「あはははははすごい顔・・・・」

「君の方こそ・・・・・」

「ねぇ、久東君最後の頼み聞いてくれるかな?」

「なんでも聞くよ。できる限りなら」




「ねぇ、だったらアタシと一緒に何処か知らない場所に連れてくれない?」

「え?」

なにを言ってるんだ。

一見冗談に聞こえる一言だが、当の本人は真剣な顔で見つめていた。

この時俺の頭の中に二つの究極の選択肢が浮かんでしまう。




A.涼風さんの言う通りすべてを捨てて逃げ出す。

B.断る













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