最初で最後の特別なお墓参り
「娘は私の車の中にいるから少し待ちたまえ」
外に出ると涼風さんのお父さんは真っ先にそう言いながら例の高級車に向かいドアを開け、中に向けて大事な話をし、ホンの少し時間が経つと涼風さんが車から出てきてくれた。
あの事件の影響か頭と腕に包帯は巻いているものの深い傷ではないが、顔色はそんなに良くなかった。
恐らく俺と・・・・・・いやこの街と別れるのが寂しいのだろう。
「や・・・・・・・ヤッホー久東君久しぶりだね」
「涼風さん」
涼風さんは無理に元気にしようと無理して笑いながら手を振っていた。
その真相を知ってるので見ているだけで痛々しかった。
「それじゃ二人共、一時間だけ自由な時間をあげるから決して余計な事をしないように。その間、私は君の親御さんと大事な話があるからね」
「は・・・・・はい」
そう言い残し涼風さんのお父さんは再び俺の家に入っていた。
一体なんの話をするのだろう。少し気になったが、涼風さんはそれを防ぐように俺の手を強く握っていた。
「ねぇ久東君。最後のデートになるんだけど、行先はアタシの好きな場所でいいよね」
「う・・・・・うん。好きにしていいよ」
「やったー。じゃあサッサと行こうよ。早くしないとあのクソ親父が追っかけてくるからレッツゴー!!!」
「ちょ・・・・・待って」
時間制限があってか強引に俺の手を引っ張りなにも告げずに向かっていた。
行先は大体想像がつく。だからこの日を人生で一番大切な日にしようと思えるように、俺も全力でやり残したことを付き合うべく思いっきり駆けた。
俺達が向かったのは以前見た夢の時のビジョンとほぼ同じ光景、近所のお店で花と果物そしてケーキをウキウキとした表情だ。
たった一つ違うのは、その映像に『俺』が加わったことだ。
「ねぇ久東君どのケーキにする?なんならおんなじショートケーキにする?最後くらいアタシに奢らせてよ」
「いや、いいよ気遣いなんて。それにこのショートケーキはこれから大事な人に渡すんでしょ。だったら同じものを選べないよ」
「ふーーーーーん。パパそこまで喋ったんだ。・・・・・・・・・じゃあ店員さんシュークリームも追加ね」
「かしこまりました」
『これでいいよね?』と言わんばかりに俺に向けて親指を立てた。
その後涼風さんに奢ってもらったこの店の目玉商品の黒糖シュークリームを無言で食べ、荷物をもちながらあの場所・・・・・涼風さんのお母さんのお墓に向かった。
「ママ・・・・・・いやお母さん今日は、元カレを呼んだよ。それとね。しばらくっここには来れないかも知れないよ・・・・」
そう言いながら彼女は、線香を上げながら呟いた。先ほどひしゃく
で水を上げた影響かお墓はとても美しく輝いていた。
元カレ。確かにあの時別れて以降復縁をしていないし、第一恋人同士になったとしても涼風さんは引っ越しするから意味のない事だ。
俺は彼女との恋愛を完全に見を引くことになった。
彼女の祈りを終え続け様に俺もその墓の下で頭を下げ手を合わせる。
涼風さんのお母さんとは一度も会ったことはないが、これだけは言わしてください。
俺がいない間どうか海の向こうで守ってやってください。
こうして短いが墓参りは終わった。ちなみにケーキとかの甘いものはカラスが食い散らかさないように明日涼風さんが回収するようだ。時間的にこのまま家に帰れば約束をまもれるだろう。だが、涼風さんとはここまでまともな会話がない。せめてなにか別れの言葉でも・・・
『あのさ・・・・』
偶然か俺と涼風さんはお互い違う方向を向きながら同じ言葉をはもってしまった。
なにこれすごく恥ずかしいんだけど。
「なになに・・・・久東君?言いたいことがあるなら先にいいなよ」
「え・・・・俺?でも涼風さんの方が早かったから」
「いいから早く。遠慮深い男は嫌われるゾ」
可愛く舌をペロッと出しながら強引に俺の方に目を向けた。ああ・・・・・このやりとり本当に久しぶりだ。
「涼風さん・・・・・・なんで教えなかったんだよ。昔俺と会ったって事を・・・」
「あははは。やっと気づいてくれたか。遅いゾ。アタシの王子様は」
輝かしい太陽が後ろで輝かせながら涼風さんは手を後ろに向け腰を前かがみになりながらウインクしほほ笑んだ。
まるで美術館で飾ってそうなくらい最高の絵だった。
「気づいたってのは語弊があるかな?正確には最後まで知らなかった。君のお父さんが教えてくれたからすべて思い出した。そして・・・・・・君に謝らなくちゃいけないことがある」
「なにかな?謝ることって・・・」
短い髪で彼女はクルクルと髪をなでているのと同時に勢いよく頭を下げる。それと同時に秋のそよ風が俺達の周囲に吹く。
「昔・・・・・・・約束をすっぽかしてごめん」
「・・・・・・・・・」
涼風さんはなにも答えなかった。そうだよな。あの時子供ながら大事な約束をしたのにすっぽかされたら怒るに決まってるよ。
後悔と懺悔が合わせながらあの時の事をゆっくりと思い出す。
それは空に三日月が輝いてる頃だった。二人で隠れてるのをお互いの両親に怒られてる直後だった。
『うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁん。ごめんなさい!!!!!』
『びぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!!!!」
『あらあら二人共こっちにおいで!!!!辛かったねぇ。寒かったねぇ。おばあちゃんが温めてあげるよ』
俺達は顔が赤くなるくらい涙を流していたのを覚えている。その時うちのばあちゃんが初対面の涼風さんに対しても優しく声をかけて一緒に抱きしめられてるのを覚えてる。とても暖かく感じ辛いことも吹き飛んだ。
その後一緒に分かれる直後涼風さんは幼稚園バックから紙を取り出し、とある暗号を二人分書いてその一つを俺に渡した。
それは俺達が再び会えることを示す合言葉。お互い忘れないように紙に書き残し再びあの公園に落ち合うように時間と日時を暗号化した。
それが・・・・・
「C915・・・・・・・・Cは三日月の形をしてるからそして915は時間。つまり月が見える夜の9時15分に再び会うことを約束してるんだ。そうだよね。涼風さん!!!」
「・・・・・・・・・・・・」
無言だが少し反応してくれた。そうだ。以前夜の公園で涼風さんと合流する時の事を思い出してみろ。
俺が来ると嬉しく『来てくるたんだ』と感涙していた。
あの時もあの時のように三日月が輝いていた。いや、その少し前の楽器屋前で会う事もそうだ。場所は違うが俺と涼風さんは三日月の元で会う事をずっと待っていたんだ。
なのに、俺は来なかった。
「あはははははははは。やっと分かってくれたんだね。遅いよぅ。あの時からアタシずっとあの紙に書かれることをずっと見て三日月が出てたら、親の目を盗んであそこに行ったんだよ。なのに来なかった。・・・・・・・・今なら教えてくれるよね?」
沈黙の末枯れたような笑い声を囁き、質問する。
約束を忘れても、それでも欠かさず来る彼女はその答えを待ってるんだ。
その真実は辛く悲しいが、それを言わなけらば涼風さんは縛られた過去を解放されないんだ。
「ばあちゃんが亡くなったんだよ・・・・・・・あの場所で約束をした時の数日後にね・・・・」
「え・・・・・・・・」
真実を聞かされ涼風さんは驚愕し、口がひらっきぱなしだ。
だがそれは事実だ。その真実について辛く混濁した記憶の糸を手繰り寄せながら話す。




