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幼少期の記憶

涼風さんが引っ越す?どういうことだ。全く理解ができない。

突然の事で口が開いたままで塞がらなかった。涼風さんのお父さんはそのリアクションを気にせず静かに母さんが出してくれた紅茶を静かにすすった。

しばらく静まりかえり、テレビの音と二階にいるマグロ丸の鳴き声だけが俺の心の叫びを代弁してくれたような気がした。それに加え極度の虚無感を感じてしまう。




「実は前に君と出会って別れた後、朱里と次いかなる問題を起こせば私の言う通りを聞いてもらうと約束したんだ」

「それが転校ってわけですか?」

「その通りだ。家政婦の杉山さんは口を堅くして朱里の好き勝手を黙っていたが、ある程度は、私の耳に入ってる。もちろん君が朱里と付き合ってることもだ。それはともかく今まで目つむっていたが限界だ。朱里には高校卒業後にロサンゼルスの知り合いに預け留学させるつもりだったがどうやらその期間を早め再教育させるつもりだ。勿論向こうの大学を卒業しても朱里と会う機会はない。残念ながら君と朱里の付き合いも一時の思い出になるだろう」

「そんな・・・・」




せっかく苦労してまで彼女を救ったのにこの仕打ち。そんなのないだろう。

それに元はと言えば縦宮が勝手に向こうからちょっかい出していて、涼風さんは何もしてないだろう。

けど、そんな事を説明してもこの人にとっては俺や涼風さんの言葉はすべて言い訳だと判断してるからなにを言っても通じないだろう。

けど、こっちだって一周目分で培ってきた知識と場数を踏んでいる。

誠意をみせるために立ち上がり自身の家で頭を床に下げ土下座をする。





「何の真似だね?」

「祐輔・・・・・アンタそこまで」

「お願いです。どうか涼風さんの引っ越しを撤回してくれませんか?最近の僕は、他人の顔を見るだけでビクビクしているほどの極度の小心者で、こんな僕に好き好んで積極的に話しかけたのは貴方の娘さんです。朱里さんのお陰で今まで自堕落だった自分を目覚めさせたんです」

と言っても目覚めたのは大分先の話だ。人は後悔した後に何かを欲する生き物だ。

その証拠に一周目で高校を卒業して完全に彼女の事を忘れようと思ったができなかった。自身の携帯にある涼風さんの画像を見ることが癖になるくらいに眺めて、何度も後悔した。

そしてその願いの果てに二周目を手に入れ、困難を乗り越えた。けどその結果が一周目と変わらない。これが運命ならしょうがない。でも涼風さんの左腕に後遺症がないから運命は変えたはずだ。それだけで満足だ。





「なにか勘違いをしてるようだけど私は君に意地悪をしてるつもりはないんだよ。本来ならもっと早くに海外に過ごさせようと思ったが、朱里はこの街を愛していたから離れることを拒んだんだ。私も今まで仕事で遊べなかった代わりに朱里の事を好き勝手にさせたんだ。この不愛想な私がいない方が朱里はいい子にしてくれる。そう願った。けど、そうじゃなかった。朱里は自分自身チャンスを潰したんだよ」

「そんな・・・・・・・そこをなんとか・・・僕が朱里さんをちゃんと見守りますから・・・」

「ダメだ。これは決定事項だ」

途中で涙が流れ喉が詰まりそうになり訴えても結果は同じだった。どんなに恥をかいても俺は、所詮子供の思考を持った大人。泣けばなんでも叶えてくれると思うくらいの我儘だ。そんな幼児的行為をして訴えても折れるはずはない。そんなことは分かってたんだ。でも・・・・・・でも・・・・こんなのないじゃないか・・・・







「う・・・・・・・う・・・・・・・う・・・」

「祐輔・・・・・もう諦めなさい。アンタは十分に頑張った。涼風さんこんな馬鹿息子の為に二度もお会いに来られて申し訳ございません」

「いえいえ、久々にお会いしたら息子さんは思ったより成長して驚きました。朱里と同じ年ごろなのに先ほどの大人びた礼儀に謝罪。是非とも数年後うちの会社に面接に来てほしいですね」

「うちの息子ですか?それは嬉しい限りです。オタクの会社に採用できるよう、きちんと再教育しておきますね。おほほほほ」

今なんて言った?俺はこの人と二度も会ったって?





「ちょっと待ってください。先ほどから久々に会ったって言いましたけど、それって以前夜道であった以前に会ったことですか?」

「そうか。やはり君は覚えてないのか?かくゆえ私も思い出したのはつい最近だがね。そうだ。君は小さい頃私とうちの娘に会ってるよ。そのことは話されてないんですか」

「すみません。そこは祐輔がすでに知ってると思ったのであえて口出しはしてないんですよ」

「ニャーーーーー」

なにがどうなってるんだ?全く状況が理解できない・・・・・・

マグロ丸が二階からこっちに向かって声がするのと同時に頭の中から封印してたものが、うっすらだがビジョンが見えた。




それは遠い記憶の果て。当時うちの両親が共働きだったころ、当時保育園児だった俺はよくうちのおばあちゃんに向かいに来てくれた。

当時うちの母さんは設計士の仕事を務めていて、超がつくほどの多忙で父さん同様なかなか帰れなかったことがあった。

なのでよく亡くなったばあちゃんが迎えに来てくれて、ばあちゃんの家の周りで遊んだ記憶があった。

ばあちゃんはいつも笑っていて俺に良くしてくれたのは覚えてる。

そして俺によく言ってた言葉が『困ってる人が要れば迷わずに助けな』という言葉だった。




そんなとある日保育園帰りだった俺は、ばあちゃんにお小遣いを貰ったので近くの駄菓子屋に向かったんだ。行きつけの駄菓子屋には、ばあちゃんの幼馴染がやってる店だった。今は隠居して店は無くなってたが当時はよくその駄菓子屋に一人で行ききするほどの通だった。

そんな帰り道、時間帯は夕暮れの頃だったかな?

俺は帰り際に泣いてる声が聞こえていた。そこはおそらく無人の家の塀の内側でどこかの幼稚園の服を着ていた女の子がうずまくりながら泣いていたんだ。

顔は、当時子供だったのでそこまで覚えがなかったが少なくとも俺と同年代の長髪の女の子だった。



『びぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん・・・・・・・ママぁ・・・・・・・・・ママぁぁ』

そこは自分の母親を必死に叫んでいた。初対面の相手なので緊張していてしばらく声がでなかった。それもそのはず昔の俺は生粋のコミュ障同年代の保育園の友達でさえまともに声が掛けれないのに見知らぬ子に声を掛けるなんてなおさらだ。



だが日は段々と暮れ暗くなる。そしたらもっと怖い目に合うはずだろう。意を決して声を出したのは覚えてる。



『ねぇ、どうしたのキミ?もしかして迷子』


『え?誰・・・』


『ボク?・・・・・・ボクは・・・・王子様だよ。君を助けに来た』

そう言って手を指し伸ばした感覚があった。

あの頃は童謡をよく読んでいて、シンデレラとか白雪姫の王子様ってのも憧れていた。

保育園の劇では、人前では話せないくらい暗くハキハキと喋れなくて目立った役はやらせてもらえなかったけど、一度はこの王子様っていうのもやりたかったんだ。

例え信じてもらえるのが一人の女の子でも・・・・・



それから俺は、その女の子に特に理由を聞かずに買ってきた駄菓子とその女の子の幼稚園バックに入ってたお菓子を交換しながら影に隠れていた。

しばらくすると女の子はポツリと『帰りたくない』と呟いていた。

そのセリフになぜか俺は一緒に逃げようと話したのは覚えてる。



当時の俺の思う王子様像ってのは、お姫様を助けるためなら後先を考えないというバイオレンスな考えをしてたと思う。

とにかくその考え通り行動しその女の子を誰もいない世界の果てに連れ去ろうとしたんだ。




その後の事は涼風さんが公園で話した時と一緒だ。

一緒に逃げた場所があの公園の遊具の中に隠れたんだ。暗くなってからずっと・・・・

寒くなってもお互い抱き着きながらお菓子を食べることで寒さと空腹を防いでいた。

が・・・・・・王子様気取りはあっという間に終幕し、大人に見つかり二人そろって両親や見ず知らずの人に怒られたのは覚えてる。

アレ・・・・・・・・なんで急にこんな事を一気に思い出したんだ。

意識を現実に戻した俺は無意識に涙を流していた。




「ニャーーーーー!!!!」

「祐輔・・・・・アンタなんで突然泣くの?」

母さんやマグロ丸の声で自身の袖で涙を拭った。

なぜだ・・・・この悲愴感は?ただでさえ涼風さんの別れで悲しくても我慢できたのになぜこんなに溢れてくる。



この涙は、別れだけじゃない。今まで涼風さんをあの女の子と同一人物と分からなかった己の鈍感さに情けなくて泣いてるんだ。





「うっ・・・・・・・うっ・・・・・うっ・・・・・」

「すまないね。変な事を思い出させて」

「嫌な思い出じゃないです。むしろ感謝してるんです。貴方の娘さんに合わなかったら俺はずっと暗い人生を送ってました。それは会ってからも数十年あまり変わらかったけど・・・・・それでも娘さんと会うだけで新しい世界を開けたんです。とても感謝してます。俺は生涯彼女の事を忘れないと・・・・例え海を越え彼女が別の男性と好きになり結婚して子供を授かり幸せな家庭を気づいても俺は影から応援しながら地味な生活を送ります」

これが俺の決心。この二周目の世界でも俺は涼風さんを愛することができなかった。

けど、人生は長い。

俺に出来ることは前の世界で得た知識で前より給料がいい仕事・・・・・いや別に前と同じ職場でもいいかな。

できるだけ仕事に結果を残して前の世界より出世して最高の独身生活を送るんだ。






「その輝かしい目・・・・・・朱里の言う通り優しいだな。分かった君に朱里と最後に会う話をさせよう。ついてきなさい」

「はい・・・・でもなんで」

「勘違いしないでくれ。君に情が湧いたわけではない。最後の時だから好きに話していいだけだ。君も朱里とやり残したことがあるのだろう?それじゃお子さんを少しかりますね」

「はい・・・・どうぞ」

意外。見ての通りとてもお堅い人が気を使ってくれた。俺を認めた・・・・・いや、多分気遣いなのだろう。

母さんも俺を見ると『行ってきな』と言わんばりに顔で促した。

これが、涼風さんと面と向かって会う最後のチャンスかも知れない。

覚悟をして涼風さんのお父さんの後ろについていく。






「祐輔。最後に朱里ちゃんにいいとこ見せなさいよ・・・・・・・・ってあれ?マグロ丸は?」

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