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闇との対面

涼風朱里サイド





「ここでいいです」

タクシーの運転手さんに料金を払いとある廃墟の前にいる。

廃墟って言っても1、2年前までに使われていたようで真新しさがある無人の建物だ。




ホンの数時間前アッスー達と家で勉強会をやってのけ、頻繁に彼女のセクハラを受けながらも苦手な数学に目を向け退屈な時間を過ごしていたのだが、数時間前レンさんから連絡が入り、レンさん愛用のGibusonnと同時に久東君と出会えるチャンスを貰えた。久東君とはあんな別れ方をしたから会いたくなかったけど、Gibusonnを貰えるのなら行こうと思ったのだけど、今のアタシにはそれを貰う資格はない。





今日は運命を変える日だ。

自身の胸に手を置き心臓の鼓動を感じ、片方の手には用意してた懐中電灯を使いながら昼間なのに光が少ない廃墟の奥を進む。

本来こんな無人の建物に入ってはいけない場所は、子供の頃なら興味本位で入りたくもなるが、アタシはそうは思わない。




正直アタシは過去のトラウマで暗くて静かな場所に抵抗があり、今でも少し寒気を感じるくらい臆病だ。

街灯がある場所やみんなといるなら平気だけど、これらが無ければそこから一歩も歩けず恐らく泣いてたかもしれない。

だから無駄に元気キャラを演じて周囲を盛り上げてるのだ。

笑っちゃうよね。普段夜中に歩き回るギャルが夜を怖がるなんて。そんな事みんなに知られたら笑いものだ。こんなのは絶対久東君には知られたくないよ。

と言ってもその久東君はアタシが突き放したから今更仲直りなんて出来ない。



久東君はこんな夜遊び好きで身勝手なアタシよりももっといい女の人と巡り合えるはず。

今の久東君ならきっとそれができるはずなのだから。




アタシはそんな彼の事を忘れるかのように吹っ切れ、とある応接室に入り、スタンガンをいつでも使えるように常にポケットから握りしめる。

あくまで護身用だ。それくらいこの先は修羅の道でなにが起こるか分からない。だから一時の油断もなくそこ入る。



そこにはすでに先客がいて、そこに残されたボロボロのソファーをくつろぎ、スマホを眺めていたが、アタシの気配に気づくと飛び出るかのように振り向いた。




「おっ、朱里じゃねぇか!!!なんだよなんだよ。来てたならちゃんと連絡しろよな。そしたらちゃんと迎えに来るのによ」

「縦宮・・・・」

縦宮はいやらしく笑いながら左右をユラユラと揺らしながらアタシに近づく。

こいつの見下した雰囲気が昔生理的に受け付けない。

その手はねっとりとした感じで肩に触れ、それと同時に激しい悪寒を感じてしまい、反射的に後ろにのけぞってしまった。

痛っ!!!その結果後ろに壁があることを忘れて激突してしまった。

それを心配してか縦宮はますます寄って来るがすぐに横に移動し素早く起きた。




「おいおい、大丈夫か・・・朱里ぃぃ。ほらてを出せよ・・・」

「寄るな。卑怯者!!!!」

「卑怯者?何言ってんだ。俺は今日は何一つ卑怯な事はしてないぜ。その証拠に、今日お前が来るの分かって敢えて他の連中は呼ばなかったぜ。俺達が真実を語るのに邪魔者はいらないだろう」

マジこいつ何言ってるんだ。婚約者が勝手にアタシの事を愛人扱いにし、勝手な妄想を広げまくる。もはや女たらしというより病気としか思えないよ。



「そういうお前こそ、誰も連れてこなかったじゃん。楓が来るのかと一瞬ひやひやしてたがどうやら俺の言いつけを守ってくれたようだな」

「それはこんな事を送られたらなにも言えないないじゃない!!!」

その言葉に怒りを震わせスマホを取り出し画像とメール内容を縦宮に見せた。

それは駅前のファミレス前に向かおうとする縦宮の自撮り画像に久東君が映っている画像だ。そしてその内容『朱里、今日偶然お前の彼氏と出会って今日の一連の事件の話聞いたわ。とても気の毒だな。その件について久々にお前と真面目に話したい。でなければ彼は悲しい目に会うよ』

という内容だ。






確かに縦宮のライブハウスに独立して以降、その縦宮から逆恨みで脅迫まがいなメールやいたずらメールやストーカーされることが度々起こることになった。



事のきっかけは、アタシがマキさんを引き抜いてからだ。それ以降のマキさんのファンはアタシの事を気に入らず逆恨みで執拗にいたずらをされたからだ。その時助けてくれたのが縦宮で、ちゃんと圧力を与えたのかそれっきりその人らのいやがらせはなくなり、正直彼には助かっている。



けど、その『頼りになる』=『好き』と勘違いしそれ以降アタシを口説き始めたのだ。正直縦宮の口説きはくしゃみみたいなもので、タイプの女がいればすぐ口出す

からほっとけばすぐ飽きると思ったけど、飽きずに現代まで続いてる。

あの時、放置にしなけらばこんな現実にならなかったと非常に後悔している。

今回の件だってそう。どんなに嫌がらせを受けても口説かれても、アッスーの姉さんに言えばすめば話だったのに。



けど出来なかった。アッスーのお姉さんは、縦宮の幼馴染でその悪いことを知ってた上で愛し、結婚をした後その女癖が治るように必死に愛せば、その癖は治ってちゃんと振り向いてくれると努力をしてたはずだ。

そしてなによりこいつが犯罪行為を起こすとなると益々アッスーお姉さんは、ショックになってしまう。

しかし耐えた結果がこれだ。アタシの薄い期待は案の定打ち砕かれた。



だからこれ以上事態が悪化しないように、あえて久東君と別れた。そうすれば久東君は被害は及ばない。そしてその対価としてアタシを差し出せば久東君は幸せになれる。だからここに来た。





「久東君と別れた。だからアンタの言う事は何でも聞く。望みならばWitchWigを抜け、アンタのライブハウスに戻り、ソロで活躍しプロでもなんでも目指してやる。アンタの愛人でも飼い犬になろうが構わない。だからこれ以上アタシの周りの人を巻き込むのは止めて!!!」

パチパチパチ

その反応に縦宮は不気味に拍手をし再びニタニタと笑っていた。



「いいねぇその言葉をずっと待っていたんだよ。感動しすぎて涙が出そうだぜ」

「なら・・・・・・・」

「ああいいぜ。お前の言う通りその願いは叶えてやる。その代わりこの場で俺の言う事を聞け」

「望み?・・・・・・・・・・きゃぁ」

その時、一瞬宙に浮かんでる感覚が走る。視界でなにかを捕らえることもなく、ほんの一瞬の無重力体験を終わった頃には右半身が思いっきり叩きつけられ、その衝撃か仕込んでたスタンガンはこぼれ落ちてしまい滑りながら壁に当たったのがアタシの視界に映った。それが吹き飛ばされた後の次に認識した光景だった。

そしてアタシの左腕は見上げている縦宮に腕を絡らんで、さらに重心を左半身に乗せられてるから重くて一向に動かないよ。





「痛っ・・・・・な・・・・なに」

「スタンガンかよ・・・・・お前こんなの使って俺に立ち向かうつもりかよ?おっかないなぁ」

怖がった素振りを見せながらふざけた口調をしながら強く左腕を締め、関節がとても痛い。

縦宮は一度笑いを止め静小さなトーンで呟く。




「俺の望みは今からお前の左腕折ってやる。それでこれまでのバンド人生を終わらしてやる」

「な・・・・・・・なにを・・・・」

サラッと呟く狂気の言葉で凍り付いた。この冷徹の目・・・・まさしく本気だ。冗談言う感じじゃない。



「何って?もう一度言わないと分かんないの?今からお前の腕を折る。そしてこのことを周囲に言わないように脅しとして恥ずかしい写真をとる。これで分かった?」

「なんで・・・・・」

「だってお前俺の事信用してないじゃん。それと同じにお前の事を信用しないから用心の為に動画を残す。それ以外になにがあるんだよ」

「そ・・・・・・・そうじゃない。なんでアタシの腕を折んの?こっちが迷惑かけてんのにふざけんなよ!!!!アタシがお前のとこを勝手に抜けたことか?ちゃんと理由を説明しろよ!!!」

そうだ。こんな事納得できるわけがない。非力ながらもジタバタして抵抗するが、武道経験があるだけで、まったくアタシの身体が動かない。

しばらくすると縦宮はため息を吐きながら理由を説明する。





「はぁ・・・・・確かに、お前の言う通り俺を裏切ったことが理由だ。けど、その半分は嫉妬だな。俺は内心朱里・・・・・・お前を妬んでいた」

「妬む?」

「そうだ。確か前に言ったことがあるか?俺も一時期ギターをかじってたんだよ。高3の時にな。あの頃親父のコネで夏フェスを見に行った時、そこでスカモンのレンの音楽を聞いた感動したよ。今までこんな素晴らしい音楽があるかってくらいに泣いたよ。そんでそれからそれを真似するかのようにギターにのめりこんで、さっそく親父の金でギターを買ってもらってやったんだが、生憎俺は音楽は使うより聞くのが得意なのか・・・・・・それとも高校の時にハマって遅くやってたか分からないが俺には才能が無かった。親父がレコード会社の社長って言っても息子が決して音楽の才に恵まれるわけがない。その証拠に幼い時にピアノ教室に通っても一切楽しいという感じがせず苦痛しかないくらいつまらなかった。代わりに空手をやってた方が数倍楽しかったけどな。それで二度音楽に挫折した時、朱里お前と偶然出会ったんだよ」

覚えてる。縦宮と最初に会ったのは家の近くの音楽ショップだ。レンさんと同じデザインのギターを物欲しそうに見てると縦宮が声をかけてきてくれて、店員さんの許可を貰ったうえで一回音楽を聞かせてくれないかと言われたの覚えてる。

勿論アタシは初めてのギターで少し緊張しながらもギターを引いた。レンさんの曲を見真似でね。






「あの時は驚いたよ。初心者なのに俺よりセンスが良くて素晴らしい音色を響かせるなんてよ。プロ顔負けで感動したよ。それと同時に嫉妬した。なんでこんな素人のクソガキごときが、俺のようなエリートよりも劣るんだってな!!!」バキバキ

「痛い!!!痛い・・・・・ちょっやめ・・・・・・たすけ・・・・」

それを語るごとに徐々に感情を高め自然と力が強まってくる。

こいつ・・・・・本当にアタシの腕を折るつもりだ・・・・・

これはまずい。早く誰か呼ばないと・・・・




「うるせぇ!!!」

「おご・・・・」

口に付着する埃と砂利で口が埋まりながらも声を出そうとするが、その直前に頭部から踏まれる感触が走りアタシは再び床に叩きつけられた。



「なに俺の昔話の途中で勝手に割り込んでんだよ。クソアマ!!!さっき俺の言うこと聞くって言わなかったか!!!あ?」

「ぐっ・・・・・・・・ぐっ」

怒りに任せた縦宮は何度もアタシの頭を踏みつける。

痛みなんて感じないくらいに意識が朦朧として、痛みの感触が無い。これなら折られても泣き叫ぶ心配はいらないかな?







「おっ、やっと黙ったか。さてとお前のバンド人生を終わらすか?」





何を言ってるか分からない。恐らくこれからアタシの左腕をこのダルダルな両手で木の枝のようにへし折るのだろう。



これが最後ならせめてもっとギターを引きたかった。もっとみんなの前で歌いたかった。

もっと久東君と仲良くなりたかった・・・・・・・・・






久東君・・・・・・・さようなら







「やめろーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」

「なに!?」

え?




聞き覚えがある声がし、それと同時に衝撃を感じ、それと同時に開放した感触があった。

意識が戻りぼやけた視界で見上げる。その姿は、とても頼りない背中だがここ最高で希望が持てる男の子の後ろ姿だった。





やっと来てくれたんだね。アタシの王子様・・・・・


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