二人だけの合言葉
電話越しの店長の声により冷や汗が流れる。涼風さんがいなくなった?
訳が分からんぞ。
「ちょっと待ってくださいよ。店長それってどういう事ですか?」
『坊や落ち着きなさいよ。あたしも今来たから状況は分からないわ。とりあえず彼女と変わるわね』
「彼女?」
『ク~~~~~~~~~~ド~~~~~~~~ウ』
そう言うと店長は誰かに電話を替わろうとし、しばらくすると電話越しから怨念ごもった声が俺の耳の中に響き渡った。
なんなんだこの陰気な声は・・・・・・ってこの声明日ヶ原か?
「さっきのオッサンの話は大体聞いた。わたしのいない間に随分と勝手な企みを考えたようだねぇ。どうやって殺してほしい」
「ちょっと待て明日ヶ原、今はそんな事言ってる場合じゃないだろう。それよりもいつ涼風さんが消えたのか説明しろ!!!」
「クドウの癖に随分の口を訊くんだな。・・・・まぁいいとりあえずお前に情報を分けてやる」
明日ヶ原は上から目線ながらも涼風さんがいなかった経緯を説明する。
どうやら涼風さんの家で勉強合宿した明日ヶ原達友達数人は今日も変わらず喋りながら勉強をしていたようだ。
どうやら今日は涼風さんのお手伝いさんである杉山さんがいないので、家にピザの出前を呼んで、ピザを食べながら休憩したのだが、勉強を再開して少し経ったとき涼風さんが、なにかと理由をつけて部屋を出たのだけど、それから10分以上経っても戻ってこず、心配して家中をを隅々探しても見つからなく、代わりに一通の手紙が置いていたようだ。その後、店長が涼風さんの家に訪問してから今に至るようだ。
その貴重な情報を分けてくれたので、俺も包み隠さず得た情報を明日ヶ原に共有した。電話越しだが俺の持った情報に珍しく話を聞いてくれた感じがしたが、個人的にはその手紙の内容がすっごく気になるのだが・・・・
そう思った時、明日ヶ原はその内容を懇切丁寧に呟いた。
「『みんなごめんねーーーーーアタシちょっと自分探しの旅に行くから探さないでね。どうしても探したいなら、自力で探してみそ♡ヒントは前からアタシが行きたかった場所だよーーーーそれは前もって約束した場所だから分かるよね?それじゃ行ってきまーーーーーす』だ。その言葉ってのに心当たりがあるかぃ?」
「・・・・・・・・・・・」
突如明日ヶ原が涼風さんの声真似をするもんだからつい笑いそうになった。いかん。ここは笑うな。・・・・・・・・けど
「クドウ?どうした・・・」
「すまん。後でかけなおす。分かったら教えるわ」
「ちょ・・・」ブチッ
「ははははははははは!!!」
電話を切り、それと同時に大爆笑した。
あの堅物レズのキャラ崩壊ボイスなんて一周目ではありえないだろ。
マジで似合わないっての!!!今は笑う状況じゃないけど、どうしても笑ってしまう。やばい!!!!笑い死にしそうだ。
しかもそれを近くの佐々波と後輩女子がいるもんだから揃ってドン引きをしていた。
「おい久東頭大丈夫か?」
「すまん。佐々波もう少し付き合ってくれ。緊急事態なんだ」
「そのふざけた顔をみるからに緊急事態に見えないのだが・・・」
全くもってその通りだ。とりあえずなんとか平然な顔にするように努力する。
そして佐々波にさっきの話をそのまま伝え一緒に考えることにする。
が、俺と同様に難しい表情を浮かべ、『そんなことならお前の方が詳しいだろ?』とジロリと睨みついてきた。
そんなこと言ったってな・・・・前から行きたかった場所って思いつくのは、涼風さんのお母さんが眠る墓を思いつくのだけど、あそこは行きたかった場所とは違うし、第一約束なんて、俺がしようと思ったらその前に別れさせられたからそてないんだよなぁ。
「たくっ、ちゃんと涼風と付き合ってんのなら思い出せよな」チッ
そんな舌打ちすることなくない?こっちだって考えてるけど、最後に会ったのが湧かれた時しか・・・・・・・・・・・
いや待てよ。確か涼風さ、その前日に俺の事を心配してか何通メールを送ったって言ってたな。その時俺は、縦宮の言葉に惑われ逆に考え事をしてたからそのメールに一度も既読してなかったな。
すぐさまに携帯を取り出し、メールを開く。すると案の定その別れた前日に涼風さんからメールが届いていた。しかも20通以上も・・・・・
その件名の内容と時間を確認すると・・・・
19:27『大丈夫?』
19:38『コラーーーーーーーーー返事しろーーーーーーー』
19:47『祐輔大丈夫?』
19:59『明日どこで勉強する?』
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20:49『中間終わったらどこ行く?』
20:58『候補Aにする?』
21;04『候補Bにする?』
21;15『候補Cにする?』
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22;02『寂しいよ。祐輔・・・』
22:18『返事してねぇ・・・・・』
22;34『相談してよ・・・・でなきゃ泣くよ』
23;01『寝ちゃったの?話がしたいの』
とこんな感じでメールが4時間近くも来ていて、最初は強気で返信して、デート場所を誘っていたのに段々と気弱になってるのが見える。
なんでこんな身近なメッセージを俺はスルーしたんだよ!!!
マジで俺は間抜けすぎる。とりあえずそのことを佐々波に見せるとなぜか青ざめていた。
「気持ち悪!!!」
「第一返答にそれはないだろ?こっちは本当は嫌だけど助けを求めてるんだぞ」
「嫌なのは余計だ!!!それよりもいくらなんでもこのメールの数はおかしいだろ?これが俗にいうメンヘラか・・・・・・くそっビッチの癖にメンヘラ化マジでとんでもない女だな」
それ元カレの俺の前に言う?確かにここまでメールをされると少し違和感を感じるのだけど、それを素のままで言うお前もおかしいよ。
違和感?そうだ。涼風さんの性格を見るとメールや電話の返信はすぐに来るけど、返信がこないと感じると病的に送信するのはしないはずだ。
前に、涼風さんのメールの送信が来た時、少しうたた寝して1時間も放置してたけど、今回みたいな返信の嵐は来なかった。むしろ、こっちからの送信した後の返信メッセージは少し注意をするくらいだ。このことは以前マキさんと何気ない話で同じことを体験したようだから間違いない。
そうだ。このメッセージの中に答えがある。特に疑いがある8時49分に送ってきた内容を開く。
『件名;中間終わったらどこ行く?
祐輔、きっと疲れてるんだね。なら中間終わったらデートしない。候補は5つあるから考えて
候補A ○○遊園地でのデート
候補B 近場の山でキャンプ
候補C ××ビルで肝試し
候補D 前のライブハウスでのライブを見る
候補E 墓参り
さぁどれにする♪』だ。
なんだこのメールの内容は・・・・
明らかに今後の出来事を予想したかのメッセージだ。
まさか涼風さんは、この時点から縦宮の事を怪しいと睨んだんだな。
ならあの時ちゃんと教えてくればいいのに、なんでこんな回りくどい事をするんだ。
とりあえず推理をしよう。まず次のメールにある『候補〇にする?』という内容のメールがあるのだが、それはそのデート先の一日のデート内容だ。
5通ともデートの待ち合わせは勿論日にち、時間もてんでバラバラでそのデートの内容もヒントに繋がる感じがしない。
それを佐々波に説明するが、俺同様にチンプンカンプンだ。
単純に考えれば一周目の時と同じように涼風さんが墓参りするところに
襲撃されると思うから、墓地に彼女がいると思うのだが一周目と比べ襲う日にちが違う。
と言ってもこの世界は前の世界線と違うから多少の日にちのズレ関係なく今日襲われる可能性がある。
それに墓場だけではなく縦宮のホームグラウンドであるあのライブハウスも怪しい。
こうなったら5つの場所に虱潰しに探すか・・・・・・
いやそれだと恵さんや店長に感ずかれ俺の暴走を止めるかもしれない・・・・
くそ、早く涼風さんの場所を探さないと。心の内のイライラが段々と込み上げそうになる。それは俺同様に佐々波も一緒だ。
「馬鹿!!!なんでもいいからヒントをよこせ。一応涼風の事を隅々まで知ってる仲だろ?その時になにか漏らしてないか」
「うるせぇ。なに平然そうに卑猥な事言ってるんだ?そんなの知ってたら初めから言ってるわ!!!」
「なにが卑猥だ!!!そんな思考してるお前の方が卑猥だわ。変態ボッチやろう!!!」
「なんだと!!!」
「あの・・・・・ちょっといいですかぁ」
お互い殴り合おうとした時、さっきの後輩女子が話に割り込んで来た。
「先輩。その彼女さんとなにか二人だけの合言葉とかないでしょうか?例えば他人と一緒に居る時にサインを出すんで。親指を2回振るだったらみんなと別れた後に公園に落ち合うとか、右手の甲を見せたら誘いを断るとか・・・・・・」
「お前、あいつとそんなことしてたのか・・・・後でみんなにバラシてやる」
「なんで知ってるんですか!?」
それはアンタが自ら喋ったことだろ?全く馬鹿馬鹿しい・・・・・・
ん?二人だけのメッセージ?
確か1つだけそういうのしてたな。
あの時みたいに指を向ける。どこか適当な場所に・・・
「C915」
「なんだそれ?」
「それだよ。それが涼風さんとのヒントだよ!!!確か、そのフレーズに似たメールがあったよな?確か候補Cの廃墟デートをするやつ。そのメールが来たのは夜9時15分・・・・・・・・間違いない」
「マジかよ。お前すげぇな」
「おだてても何も出ない。無論これが正解だと言い難い。涼風さんの性格ならもっと問いをややこしくしてからかってやろうと考えていただろうが、今はその答えにたどり着くしかない。早くここに向かわないと・・・・・・
いや待て。俺が向かったら恵さんに止められる。だったら自分でそこに向かうしかない。なんせ、別れたと言っても涼風さんは俺の大切な人だから・・・・
「佐々波!!!!自転車貸してくれ!!!後で返すから」
「はぁ?お前恵さんと来てなかったのかよ」
「いいから貸せ!!!後恵さんがここに来たらなんとか誤魔化してくれ」
「けどな・・・」
「頼むよ親友!!!!」
「ちっ・・・・・・分かったよ。相棒の頼みを助けるのが親友のやることだ。後で約束を守れよ?」
「感謝する」
やれやれとため息を吐きながら佐々波は自転車を貸してくれた。助け舟を送ってくれた親友と後輩女子を後に俺は、借りた自転車でこぐ。
その時後ろから親友の声が響く
「ちゃんと涼風に男らしいとこ見せてやれ。親友!!!!」
バーーーーカ。デカい声出したらバレるだろうが・・・・・
けれど、そういうのも悪くない。




