不審者捕獲
いろいろあった波乱の涼風さんの一日もなんとか無傷で終え俺と涼風さんは周囲からの視線を見られながらも校門を抜け、涼風さんの家に寄ることになり、一緒に家の中に入ると涼風さんのお手伝いさんが彼女の愛用のギターを持って向かっていた。
それを見ると涼風さんは、テンション高く我が子のように抱きしめた。
そう、今日は没収期間が終わりギターが返還される日なのだ。
「はい朱里さん約束通りこれを返しますね」
「うわぁ!!!ありがとう」
「旦那様に言われましたけど、これに懲りてしっかりと勉強してください。来週中間テストなのですからいい結果出さないとまずいですよ」
「分かってるよ。それじゃ多田さん今から彼と一緒に出掛けるから後はお願い」
「あ!!!!ちょっと朱里さん」
涼風さんはギターを受け取るとお手伝いさんの話を聞かずに自分の部屋に戻って着替えの準備をしていて、それを見たお手伝いさんは呆れたようにため息をついていた。
「あの・・・・・大変ですね・・・」
「もう慣れましたよ・・・・あの子の我儘に付き合うのは、慣れたせいか逆に愛着が湧きますね」
「そうですか」
「それよりも貴方は、この前の御友人ですね。朱里さんがしっかりと勉強しているか見張って置いてくださいね」
「は・・・・・はい分かりました」
お手伝いさんの頼みに、断る理由はなく引き受けてしまい、その後着替えが終わった私服の涼風さんと共に俺のバイト先に向かった。
なぜそこかと言うと、追試の時に店長が貸して貰ったあのアパートの部屋がどうも気に入ったらしく、来週の木曜日から始まる二日間の中間テストに向けての対策ドリルを涼風さんは、俺がバイトをしてる間に作成してくれるようだ。
自分も中間テストでいい結果を出さないといけないのに、その上、俺の為にやってくれるなんてなんて頼もしい彼女なんだ。
俺もこの二周目の世界で高校の勉強も少しは思い出したから教えられるだけではなく、教えるくらいに頑張らないといけないな。
そう思いながらも彼女に合わせるように微笑みながら一緒にバイト先に向かった。・・・・・・・・なぜか返してもらったギターと一緒に
「あら、いらっしゃい。二人共」
「どうもです・・・・店長」
「こんにちわレンさん」
「坊や遅いわよ。一体どこに道草食ってたのかしら?」
出会って開口一発目で辛辣な発言されたんだけど、まぁ確かに涼風さんの家に寄ったから、普段の出勤時間と比べて遅れてきたが、それでも時間は十分に間に合ってるはずだ」
「後それと、顔がデレデレしててだらしないわよ。一回顔を洗ってからこっちに来なさい」
「ちょっと店長お客さんがいる前で暴言が過ぎますよ。これ軽くパワハラっすよ」
「なにがパワハラよ。最近の子供はこれくらいのことで文句言って甘いのよ。そんなのんで社会でやってけれるのかしら・・・・」
これでも俺前の社会ではバリバリの社会人なんですけど・・・・
いい年してあまり褒めるべきではない階級なのは、否定できないけど今の俺はあの時よりは少しは成長してるはずだ。
そんな中、間から恵さんが間に入ってくる。
「まぁまぁいいじゃないですか店長。祐輔君、念願の朱里ちゃんと付き合うことになったのだから、大目に見ててあげましょうよ」
「ふん、それもそうね。彼氏が情けない顔してる姿は、この子に見せられないわよね。坊や、しっかり頑張りなさいよ」
「はい!!!」
「がんばれ祐輔」
「うん。頑張るよ。涼風さん」
「まったく調子いいわね」
涼風さんは微笑み手を軽く振ってくれた。そうされると、俄然やる気が出てくるな。
「あ、それはそうとレンさん、今日はありがとうございます。さっそくあの部屋を再び使わせてもらいます」
「いいわよ・・・・・というか、その前に貴方が背負ってるそのギターケースはなんなのかしら?どう見ても勉強には必要ないでしょう」
「あはっ☆バレちゃいました。今日、約束通り返してもらったんです」
「そんなこと聞いてないわよ。坊や、どう見てもこれ要らないでしょ」
「はははははは、だって涼風さんが言うこと聞かないので・・・・」
涼風さんは久々の愛用ギターで嬉しくなってつい持ってきたのだ。と言っても没収期間中は俺が彼女に頼まれて持ってきた予備のギターで充分堪能したらしいけど、どうやら当の本人は本命のギターじゃないと不服のようで、今まで愛でなかった分、衝動で持ってきたようだ。
「でも、ちゃんと勉強中はしっかりとやるように釘を刺したので、それでも駄目ってんなら好きにしてください」
「えーーーーーーーーーーーー!!!祐輔-----せっかく戻ってきたのに、それはひどくない。初カノの言葉信用できないわけ?」
「そ・・・・そうじゃないけど」
「はいはい、分かったから怒らないの・・・・その時はそっちで考えるわ。ほら、坊やの仕事の邪魔にならないように、サッサとあの部屋に案内するわよ」
「はーーーーーーーーーい。じゃぁまたねーーーー」
「うん」デレデレ
「坊や、さっき注意してんのにまたデレデレして、サッサと動きなさいよ。あたしが戻って来るまで準備してなかったらタダじゃ置かないわよ!!!!」
「はいーーーーーーーーー」
やばっ!!!浮かれすぎてガチで怒られた。これマジで店長が戻ってる間に着替えてなかったらやばいぞ。急ぐように試着室に入り着替えることにした。
「ふぅ~~~~~~~~~なんとか間に合ったかな」
死に物狂いで着替え、俺は急ぐように厨房に向かった。他の従業員やバイトの様子を見るからにまだ店長は戻ってきて内容だな。
さて、ネクタイを強く締め接客に入るか。そう思いながらホールに向かうと客の食べた食器を持って片付ける恵さんと会ってしまった。
「あ、祐輔君お疲れ。結構着替えるに早かったね。安心して店長まだ戻ってないわよ」
「ええ、それは助かります。それよりもお皿少し持ちましょうか?」
「平気よ。ところで祐輔君ちょっといいかな?」
「はい?」
「朱里ちゃんとどこまでしてるの?」
「ぶっ!!!!」
突然のことなので吹いてしまった。恵さんは随分と興味津々な顔をしていた。
「進展って言われても今日は、彼女がクラスのみんなに付き合ってることをバラされましてね。何人かが、俺に殺意的な眼差しを向けたくらいですかねぇ。涼風さん人気あるし……」
「へぇ、結構大変ね。確か彼女有ここらで有名なグループだから結構過激なファンなのがいるかも知れないわね」
そうなんだよな。特に明日ヶ原とか明日ヶ原とか、俺いつかあいつに刺されてもおかしくないな。
あれ?そういや今日の昼休みに不審者ぽいの遭遇したな。あれ一見大したことないからしばらく放置したけど打ち明けていいのかな?
「どうしたの祐輔君?」
「いえ、なんでもないです。仕事終わったら話します。こんなところでいつまでも喋ってたら店長に怒られますしね」
「そうね。仕事頑張りましょう」
「はい」
こうして俺達は店長が来る前に身体を動かすことにした。今のこの世界は一周目と違い全く予測が出来ない新ルートだ。
不安はいろいろあれど今まで培った経験が有ればなんとかなるはずだ。
『プルルルルルルルルルルルルル』
「はい、もしもし あ、店長どうしたのですか?」
そんな時、突然店内の自慢の洒落た黒電話から音が鳴り響き真っ先に取った。どうやら店長からの電話のようだ。
「え?祐輔君ですか?分かりました。すぐに向かわせます」ガチャ
「恵さん店長ですか?」
「ええ、なんでも祐輔君を今すぐ店の裏まで来て欲しいらしいわよ」
予感的中、もしかしてさっきの件でめちゃくちゃ怒られるんじゃ…とにかく行かなきゃな。
不安が過りながらも俺は言われるがままに、裏口に向かったのだが、扉越しからなにやら騒ぎ声が聞こえる。
「ちょっと待て待て待て!!!近づくなオッサン!!!」
「うふっ、元気いいわね最近の若い子は。あたしそういう子好きよ」
扉を開けるとなぜかゴリ本が店長にチョークスリーパーをかけられ悶え苦しんでる姿があった。
なんなんだこの構図は・・・・
ただでさえ絵にならない男と不敵な笑みをして技をかけてるオカマのデュエットなんて誰得だよ。
「・・・・何やったんすかあんたら」
「あ!!!!クドウ助けてくれ〜〜〜〜オカマに殺される〜〜〜〜」
「なにが助けてくれよ!!!随分と虫が良すぎるじゃないかしら。さっきから朱里ちゃんをつけてたストーカーの癖に」
「アレは、違う。俺は好きな子の後ろをつけるという趣味があるんだ!!!」
「それをストーカーと言うのよ!!それにアンタ朱里ちゃんから聞いたけど昼休みの時覗き見してたじゃい?」
「あーーーーーーーーそうだけどギブギブギブ!!!」
ゴリ元は、白目を向きながら自分の罪を自白していた。もしかしてこいつが昼休み俺らの行為を覗いてた不審者か?
なら話は早い。
「店長。そいつ好きにしていいですよ。それじゃ俺忙しいんで、さらば」
「うふっ♡了解!!!」
「待てーーーーーーーーーーー!!!」
その断末魔を聞きながら俺はゆっくりとドアを閉めた。
これでやつも懲りるだろう。
なんだかモヤモヤが晴れてスッキリして気分が良く、気持ちよくバイトができた俺であった。




