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幻想ではなく現実を・・・・

「その話をする前に、うちの家の話をしていいかな?といっても、大抵の話は先ほど話したけどその続きね。アタシのママ・・・・いや母さんはね。あまり記憶にないけどとても明るく元気な人で、いつもアタシの事を遊んでいてそれはそう優しかったんだ・・・・・けどその母さんもアタシが四歳の時に・・・・・心筋梗塞で亡くなったんだ」

「え・・・・」




「あの時はアタシも幼かったから詳しくは分からないけど、後から聞いた話だとアタシが生まれる前から身体が弱かったようでいつも家に籠って海外勤務の父を待っていたの。けど、あの人は母さんが危篤の状態にも関わらずいつもと変わらずに仕事をしてたようなの。そして、母さんが死んだ後の数日後、とっくにお葬式が終わってたのに今更帰ってきたの。母方の親戚は勿論のこと父方の両親は総出で父を責めていたのだが、父は顔色変えずに仏壇に頭を下げるだけだった。アタシはそれが許せなかった」

そう言いながらぎりぎりと歯切りをし怒りを見せていた。今でもその父親の行為が許せなかっただろう。



「アタシは幼きながらも泣きながら父を何度も・・・・・・なんども叩いて怒りをぶつけてたんだ。けど父はそれを怒るどころか、まるで機械のように顔色一つ変えずに、ただ顔色変えずにアタシの頭を軽くさするだけだった。こんなことなら、いっそ怒ってほしかった」

「・・・・・・・・・・・」





「アタシは今もそうだけど父のその無表情な・・・・生気が抜けた顔が嫌だった。母を愛してくれなかった父親に・・・・だからアタシは四歳で人生初の家出をしたんだ・・・確か季節はこの時期だったかなぁ・・・・」

「家出って怖くなかったの」

「それは、怖かったけど・・・当時のアタシは決意が固かった。幼稚園の時に誓っていたカバンの中にいっぱいお菓子を入れただけで一生生きてくと決意したからね。馬鹿だよね。それだけじゃ人間生きていけるはずはないのに・・・・・」



家出か・・・・俺も小さい頃は母さんや祖母ちゃんとと些細な事でよくケンカして家出をしようとしたけど、根っからのヘタレだからすぐに折れて母さんにすぐに謝ったな。

やっぱり涼風さんは小さい頃からおてんばだったんだな。憧れるよ。




「それで家で当日、人目を盗んで何も考えずに走っていた。でも気が付いたときには行ったことが無い場所にいて迷子になったの。懐かしいね。当時迷子になった場所は家からさほど離れたことが無い場所なのにアタシ、べそべそと泣いてたんだ・・・・・・・」





「場所が分からないから元の場所に戻ろうとも分からなく、周囲には知らない大人が歩いていて話しかけることができなかった。中には話しかける人もいたけど、胡散臭い感じがして逃げてたな。・・・・・・・それでなにからも逃げに逃げまくって・・・・時間だけが過ぎ夕暮れになっていた。そんな時あの人に出会ったんだ。王子様に・・・・」





『びぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん・・・・・・・ママぁ・・・・・・・・・ママぁぁ』

『ねぇ、どうしたのキミ?もしかして迷子』

『え?誰・・・』

『ボク?・・・・・・ボクは・・・・』





「涼風さん?」

「わ!!!!びっくりした」

「いやいやビックリしたのはこっちだよ」

話の途中でなにかに浸るように無言になるんだもの。めっちゃ心配したわ。

ともかく涼風さんは正気に戻ったので話は続いた。





「あ・・・・・ごめんごめん。話を戻すと、迷子の途中にその王子様って人にあったんだ。と、いっても名前とか名乗らないで顔もうろ覚えだから分からないけどね。一つ分かることは、アタシと同年代くらいかな?」

「そ、そうなんだ・・・・・なんか複雑だな」

「それでその男の子は、いきなりアタシの手を繋いで走りいったんだ。最初はとても戸惑ったけど、次第にその子の事を頼りたい気持ちになったんだ。まるでとらわれたお姫様を救い出す王子様のように」

先ほど前暗い表情だった彼女は、その例の男の子の話をすると童心に戻ったように興奮気味で早口で語っていた。

どうでもいいけど王子様とかお姫様とか、普段の涼風さんが言わないワードばっかり言うのだからとても違和感を感じるのだけど、ここに突っ込んだらまずいよな・・・・

とてもメルヘン過ぎるんだけど


「で、その男の子が連れて行ってくれたのがこの公園なんだ」

「え・・・・・この公園なんだ」

「懐かしいね・・・・・あの頃は今と違って遊具は結構あったのに今は殺風景だね」

「うん。ここも随分変わったね」

ここの公園は昔俺も利用したから分かる。俺達が高校生になる間この公園・・・・・・いや、全国の公園の一部の遊具は、子供の安全を阻害してしまう理由で撤去されていて今と変わった風景なり変わったのだ。これが時代の流れというものだが、なんだか心寂しく感じてしまう。




「で、その男の子はその公園でなにを・・・・」

「ただ隠れてただけ。だってアタシ逃げてる身だよ。それなのにそれを放棄して遊ぶのおかしくない?」

「そ、それはそうだよね」

「彼と公園の茂みに隠れてただけでアタシは勇気をくれた。逃走中会話と言う会話はないけど、緊張で高鳴ってた心臓の鼓動だけでお互いはコミュニケーションを取れたと思うんだ」

「涼風さん・・・・・その後は、どうだったの?」

そう言うと、彼女は静かに横に振った。




「なにも・・・・その後の結末はあっけないものだった。夜中にまで隠れてたけど結局、アタシの家のものに見つけられて、長い逃走物語はそれでおしまい。あの男の子も家族の元に戻りアタシは、親戚やお手伝いさんにこっぴどく叱られしばらくは部屋に閉じ込められてそれでおしまい。結局パパはそんな事をしても全く怒らなかったけどね」

「・・・・・・」

「どう?おもしろかった?」

一連の話を聞いて俺はどう答えればいいか分からない。

ただ一つ言えることは涼風さんはその男の子について今はどう思ってるのかと言う事だ。






「涼風さん・・・・その人のこと顔も名前も知らないって言ってたけどその人の事は未だに好きなの?」

「・・・・・・・・」コクッ

静かに縦に頷いた。なんで・・・・・なんで今なにをしてるか分からない人間をまだ追いかけてるんだよ。

けどそれは俺と同じだな。

一周目の俺・・・・・生前の俺も社会人時代は、今どこにいるか分からない『涼風朱里』という反空想的な初恋の相手のことばかり考えて仕事に集中できずそれが理由で、上司に叱られ同僚に笑いものにされることがあった。




今思えば当時の俺の行動はとても馬鹿らしかった。そんな届きもしない幻想に手を伸ばしても得れるものはなにもない。・・・・・・なにもだ。

なら今俺に出来ることは、今届くチャンスをものにするだけだ。

身体を震わしながらポケットからチケットを取り出し強く握る。




「涼風さん・・・・・・本当にそれでいいのかよ」

「え?なにが・・・」

「なにがって、顔も名前も知らない男の事だよ。そんな事をしても相手は覚えてるかどうか知らないんだよ」

「なにを言って・・・おかしいよ。君・・・・・」

涼風さんは大声を出している俺に、ただポカーンと悲しそうにこちらを見てたが構わずに続ける。




「おかしいのは涼風さんだ。そんな幻想を追いかけるなんて陽キャの涼風さんがしてはならないことだ。そんなのは涼風さんらしくないんだ。涼風さんらしく元気よく現実と向き合ってくれよ。それでも・・・・・・それでも君がどうしてもその王子様という大切な記憶が大事なら俺が、その記憶を塗りつぶしてやる。俺がこれから楽しい場所に連れてやるから・・・・・」

「これは・・・・」

「俺と・・・・・・・明日プールに行ってください」

まるでプロポーズといわんばかりに頭を下げ涼風さんにチケットを向けた。

涼風さんはまだ開いた口は塞がらず呆然としていた。

うん。我ながら頑張った。断れてもいい。大切なのは真剣にぶつかる気持ちだ。





「ぷ・・・・ぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷ」

「え・・・・」

「あはははははははははははははははははははははははははははははははははは。なにそれ、バッカみたい。めっちゃウケるんだけど。なになに?熱血先生に影響されてんの?あははははははははははは笑いが止まらないんだけど・・・・笑い殺すつもり?」

え?え?なにその笑い?軽蔑の笑いなのそれとも賞賛の笑いなの?どっちなんだ。





「本当は行く気はないんだけど・・・・・めっちゃ面白いもの見せたから特別に行ってあげるよ」

「え?本当に?」

「たーだーしー面白くなかったらそく帰るからそれでいいよね?」

「えーーーーーーーーー」

「えーーーーーーーって文句言わないでよ。子供じゃあるまいし。アタシの楽しい思い出を塗りつぶしてくれるんでしょ」ずい

「う・・・・・・・うん」

いきなり顔を近づかれて心臓がバクっとしてしまった。ここは引いてなるものか。





「う・・・・・うん頑張るよ」

「よし、決まりじゃあ明日よろしくね」

「こ、こちらこそ」

手を差し伸べられ、情景反射で手を握り温もりを感じそれと同時に強い風が吹き荒れる。

この風が後の事態に凶と吉・・・・・どちらになるかは分からない俺は、思いっきり彼女を楽しませるしかないんだ。




「けど、明日かーーーーーいきなりだなーーーーー明後日でいい?」

「チケット明日なのでお願いします」

「はい、今ので−3だからね。これが後7点溜まったら強制帰宅だから」

「善処します」

いきなりこの調子だが明日挽回するしかないな・・・・・

よしがんば・・・・・・・・・・・・







あれ?俺家に海パンあったっけ?






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