夜中の公園での演奏会
コンコンコンコン
「もしもし私ですけど、朱里さん開けてもいいですか?」
「ん?」
涼風さんの部屋にて読書をしてどれだけ経ったか、俺は扉越しから聞こえるお手伝いさんのノックの音で我を取り戻した。
いけっね・・・・何度か読んだはずの本なのに、久々過ぎたかつい集中して読んでしまった。
俺は持ってた本を横に置き涼風さんの方に目を向く。
「ぐぅぐぅ」
すると涼風さんは、白のクッションを枕代わりにし、仰向けになって熟睡しており、その口元からよだれが垂れており、クッションを500円玉くらいの範囲に濡らしていた。
そしてその口元から彼女から発する心地よい寝息が俺の耳元にまで届く。涼風さんは、ノック音をしたにも関わらず、微動だにしなかった。
確か俺が本を読んでる姿を意味もなくずっと眺めておくって言ってなかった?道理で今まで読書中にちょっかいを受けないわけだ。
「もしもし、朱里さん!?返事をしてください」
お手伝いさんは、構わずにさらに強くノックをしたが、彼女は狸寝入りでもしてるかのように動かなかった。
てか、そろそろ起きてくれよ。このままだと俺が涼風さんに変態的な行動をしてエッチないたずらをしてるのではないかとお手伝いさんが思ってしまうだろ。
「入りますね」ガチャ
「!!!!!!!」
うおっノックしてないのに入ってきて、飛び上がってしまった。まだなにもしてませんよ。
そのお手伝いさんは、部屋に入ると俺の挙動よりもぐっすりと眠っている涼風さんの方向に目をやると、ため息を軽く吐いていた。
「ああ~~~~やっぱりぐっすり寝てたですかしょうがないですね」
「え?あの・・・・」
「ごめんなさいね。朱里さん普段夜中に起きているせいですから、昼間によく寝ることがあるんですよ。貴方も同じ学校の生徒ならばよくその光景は見たことあるのでしょう?」
「ええ、まぁ・・・」
確かにお手伝いの言う通り学校での生活では、午前は普通に授業を真面目に聞いてたけど午後になると、眠気と必死に戦っていて、半分以上は途中から脱落して寝てたな。
文字通り昼夜逆転の生活をしてたようだ。
「まったく、ギターを没収されたのになぜ、夜中にまで起きてなにをしてたのですかねぇ。ほら、朱里さん起きてくださいよ」
「ん~~~~~~~~~」
お手伝いさんにトントンと起こされ涼風さんは、寝起きの雄叫びと共にピクッと動きぼんやりとした表情で起きていた。
涼風さんの家を後にし、時計を見るとすでに夜の7時を過ぎていた。
その帰り際の道中、あのお手伝いさんと帰路が同じなために、しばらく一緒に帰ることになり、その帰り際に売店でコロッケを奢ってくれた。
どうやらあの時間呼んでくれたのは、俺のこともそうだけど、自身の勤務時間が終わったのでそれを涼風さんに報告するためだったようだ。
途中分かれ道なので、コロッケを片手に一礼し別れた。
ここまでなら一見この日は、結局涼風さんに温水プールの誘えず、ただ時間だけ経って帰ることになるのだが、勿論ここで終わるはずもない。
俺は笑みをこぼしながら、お手つだいさんと話してる途中に、来ていた涼風さんからのメールを見てそれを実行することにする。
俺達のターンはこれからだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「はい。言われた通りのものを持ってきました」
「ど・・・・・どうもマキさん。すみませんご迷惑をかけてしまって」
「いいえ、構わないです。それでは、アカリの事をお願いしますね」
とある駅前俺はマキさんと合流しお礼をいい深々と頭を下げた後、渡されたものを受け取りその場に立ち去った。
そして少し離れた場所で預かった物であるギターを人目がない路地裏で確認するため送られた画像とそのギターを見合わせる。
うん。画像と同じモデルと色合いに、ボディには三日月のステッカーとイニシャルのA・Sが刻まれてるどうやら彼女のもので間違いない。
俺は確認したギターをケースに入れ約束の場所に向かう。これから涼風さんと再度会う為に・・・・
そう、これも涼風さんから送られたメールの指示だ。その内容は、
『久東君、さっきはうたた寝してごめんね。その代わりなんだけどこれからアタシの予備のギターを取りに行ってくれないかな?そしたらまた会えるから♡』
という内容だ。
その後、涼風さんから電話が来ており、そのギターはどうやらこの事態を想定して最後の予備をバンドリーダーであるマキさんに預かってるようだ。
どうやらマキさん側も涼風さんからそのことについて説明されたようで時間内にギターを持って来るらしい。
俺は一旦家に帰り早々と晩飯を終えた後、自転車をつかい、マキさんと待ち合わせした駅前に向かいそのギターを受けとることになったのでその後、約束の時間内に彼女が指定した場所に向かうのだ。
けど、少し気掛かりなことがある。
その待ち合わせの時間とは9時15分というあいまいな時間帯だ。
9時ちょうどや30分なら分かるけどなぜ、その中間なんだ?
なぜ涼風さんはその半端な時間を選んだのか分からない。
「げっ、もう9時じゃん」
携帯を見るともう9時ジャストで、もうすぐ約束の時間帯だ。俺はフルスロットルで自転車をこぎ間に合わせるようにする。
「ぜぇぜぇ・・・・・なんとか間に合ったぞ・・・」
ヘロヘロになりながらも俺は、自転車をつけ、その場所に入る。
たどり着いた場所は、涼風さんの実家近くの公園だ。
そういや俺ここには、生前の祖母ちゃんとよくここで遊んでいたな。
なつかしいな。
その公園は時間が時間であってか、そこに人気はなく静けさを増しており、明かりだって、公園の街灯と天に浮かぶ三日月のみだった。
おまけに今の時期は十月の中旬と下旬の境目なのでとても肌寒く、くしゃみを2、3回してしまう。もっと厚着を着ればよかったかな?
そう思いながら公園の奥に進むと奥から人影が見え、そこには涼風さんがポツンとベンチに座って携帯片手に待ちわびていた。
「涼風さん・・・・お待たせ・・・」
「・・・・・・・・・来てくれたんだ」
「え・・・・・・」
俺は上機嫌になり涼風さんに近づき声を出すと涼風さんは俺に気がつくのだが、
なぜか、俺を見ると泣きじゃくるかのように涙を流し、声もかすれていた。
まるで、生き別れた兄妹が再び再会するかのように・・・
「え?え?涼風さんどうしたの・・・なんで急に泣いたの」
「え・・・・・アタシ泣いてたの?ご・・・・ごめん。あはははなんでかな。目にゴミが入ったのかな?」
涼風さんは誤魔化すかのようにハンカチを出し涙をふき、自身の顔を何べんか叩くと正気に戻っていた。
そして改めて言われた通りギターを渡す。
「はい、これ。言われた通りのものだよ」
「ごめん。ありがとうーーーー使いパシリのような事をしてごめんね」
「いやいや、ギター弾けないから取りに行ってほしいとか実に涼風さんらしいよ。それよりも外に出て大丈夫なの。」
「大丈夫大丈夫。もう外に出てもいいってパパに言われたから」
そういや涼風さんは昨日の時点で、その父親から外部との連絡と同時に学校に復学してもいいて言ってたな。ただ、涼風さんは学校がめんどくさいだけで嘘をついて仮病してたらしいけど・・・・・・おっとこれは秘密にしてくれと言われたっけ。
「それよりも涼風さんなんで俺をわざわざ使ってまでギターを取りに行かせたの?自分で行けば・・・」
言いかけた時彼女は、俺の口に向かって黙ってくれと言わんばかりに縦に指を指していた。
「シーーーーーーねぇ、せっかくだから一曲聞いてかない?」
「え?」
そう言うと彼女は、大胆にも夜中の公園にてギターを響かせていた。
「え?じゃないよ。前約束したでしょ?アタシの歌声が聞きたいって?これが最高の舞台じゃない?」
彼女は大きく手を上げそう言った。
三日月が照らす中での夜のコンサートでしかも客は、俺一人・・・・・
これはとても貴重な体験だけど・・・・・最寄りの家の騒音トラブルにならないかな?まぁ本人曰く一曲なら大丈夫だろう。
「じゃあ・・・・・・歌います・・・」
そう呟き、彼女の十八番である、あのバラード『crescent Moon』を歌いだした。
彼女の甘い歌声と音は、この公園内に響かせていており、それを合わせるかのように手拍子をする。
「♪♪♪♪♪♪♪♪」
この曲は以前、一周目の世界や音楽スタジオで何度か聞いたのだが、今回のは一味違う。
ところどころ本人のアレンジがあり、なによりただならぬ悲壮感が漂っていていて、聞いてるこっちも悲しくなるような感じがしてしまった。
だが、その音楽も永遠に続くことはなく、たった3分弱で終わってしまい。俺は静かに拍手をする。
その後演奏を終え、公園にベンチに人段落している彼女に俺は紳士的にコーラを渡す。
「はい、お疲れ様」
「あ・・・・ありがとう久東君」
お礼を言われ涼風さんはそれを一口飲んだ。
「あれ?もしかしてコーラ嫌いだった」
「いやいや、そんなことないよ。あまり喉が渇いてなかっただけだから・・・・・それよりも久東君月がきれいだね」
「・・・・・・・・うん」
そう呟き俺も目に映る三日月を見る。その大きさは、このように手をかざすと掴めるくらいの小ささだけど今まで以上に輝いて見えてしまった。
なんかとてもいいムードだな・・・・・
「久東君・・・・」
「え・・・・・・・なに」
「あれぇ?・・・・・そんなに驚いてどうしたのかな?もしかしてエッチな事を考えたりしてたのかな?」
「え?そんなの考えてないよ」
「もう、照れちゃって。可愛いね」
この感じまたいつものように、からかう感じだな。俺は警戒しつつ彼女の方を見ると、さっきの雰囲気とは別に、真面目な顔でこっちを見ていた。
「涼風さん?」
「久東君。君は知りたいよね?アタシが好きな王子様ってやつを・・・・・それ今教えよっか?」
その答えに対しいろいろ不安はあったが、無言でうなずいてしまう。




