明日ヶ原楓⑦
体育祭の開会式が終わり、第一種目の競技が始まる前に涼風さんの号令によりうちのクラスは、一斉に集まり円陣を組む。
「よーーーーーーーーーし!!!!みんな頑張るぞーーーーーー!!!」
『おーーーーーー!!!』
「・・・・・おーーーーー」
まるで一昔前の青春ドラマを思い出すような勢いで皆盛り上がっており、元々大声を張るのが苦手の俺でも、一丸となって声を上げ叫んだのだが、明日ヶ原を含む一部のクラスメイトは、そのテンションが合わない為あえて小さい声を出して誤魔化していたが、涼風さんはそれを見逃さなかった。
「ちょっとアッスーもそうだけど、一部声が小さいのがいたよ。 もっと大きい声出さないと駄目だよ」
「悪いねぇ朱里ぃ。 生憎わたしは、熱血ドラマは大好きだが、声を張るのが苦手なんだぃ。とっ・・・・それより、朱里ぃこっちの方は中々大きくならないねぇ?」もみぃ
そんな状況を尻目に明日ヶ原はいつものように涼風さんにセクハラを仕掛けていた。
「ちょ・・・・・アッスー、こんな状況で揉まないでよ!!!てか、みんな止めてよーーーーーーー」
もはやこの行為はうちのクラスの恒例行事だ。 明日ヶ原の変態プレイで緊張がほぐれた俺達のクラスは、楽しみながらクラス優勝を目指すのだった。
だが、現実は厳しく、事前に俺達のクラスと同様に事前に練習をし、真面目に優勝を目指しているクラスもいるので、それらによってことごとく首位を取り逃がしたのだ。
その結果午前の競技を終え、残りの競技は残すところ二つの時点で、うちのクラスは五クラス中四位で、一位との差は大きい。
これを逆転するには、その二つとも一位を取ることが理想的なのだが、その競技の一つが二人三脚だった。
これは非常にまずい状況だ。うちのクラスで真面目にその競技練習をやってたのは俺と明日ヶ原のグループしかいない。 そう仮に俺らのペアが一位をとっても他が勝たなければ意味がないのだ。
『これより二年生による二人三脚が始まります』
そんな気持ちのまま競技が始まる。
この学校の二人三脚のルールは各クラスの選抜された四人のペアが別に四レース行い、その合計点がクラスの点数に獲得されるのだ。
そしてその第一レースは俺と明日ヶ原のペアで、前に出る。
俺が不安になってるのをよそに黙々とお互いの足にタスキを巻く。
そして、その瞬間耳打ちで呟く。
「クドウ、なにを不安になってるんだぃ?数日前はあんなに粋がってたのに、随分情けないもんだねぇ」
「あ、明日ヶ原・・・」
「大方クラス委員だから優勝しなければいけないという重圧にかかってるのだろうけど、そんなの気にしちゃいけないねぇ。 ほら、同じクラス委員の朱里はそんなこと微塵も思ってないだろぅ?」
「あ・・・・・・」
『頑張れーーーーーーーーー二人共ーーーーーー!!!!』
指した方向を見るとそこに涼風さんが映る。その姿は一生懸命大声で俺達クラスを応援して楽しんでいた。いや、涼風さん達だけじゃない。うちのクラスメイトや他のクラスも純粋に楽しんでるんだ。
たく・・・・・いつの間に俺は、そういう初歩的な事を忘れたんだ?
俺は涼風さんに振り向かせる為に、二周目の世界を頑張ってるのだが、それ以外にも目的がある。
それは一周目では獲得できなかった青春だ。一周目では怯えながら学生生活を送ったのだが今は違う。
目的を得ることで、これまで話したことがない明日ヶ原やそれ以外のクラスメイトと話す機会ができた。
まだ、リア充グループみたいなアゲアゲなノリにはついていけないけど、中には、こいつのようなクールで熱血な人間がいる。
こいつらがいる限り俺は楽しめれる。
そう思うとふと笑ってしまう。
「明日ヶ原ありがとう。俺楽しむよ」
「楽しむのはいいが、どうせなら一位を目指した方がいい」
「ああ、例のプランで行っていいか?」
『位置についてーーーーよーーーーい』
「はぁ面倒くさいねぇ・・・・」
『どん!!!』
明日ヶ原のため息とともに合図がなりスタートする。
(ニャー、ニャー、ニャー、ニャー、ニャー、ニャー、ニャー)
それと同時に俺達は、お互いに聞こえる範囲内で猫の鳴き声を呟く。
本番で、しかもこんな場所でやりたくないのだが、これは明日ヶ原がいう息があった連携というもので、お互いそう呟くことでタイミングのズレを無くしやすくする方法のようだ。
猫好き・・・・もとい可愛いもの好きな明日ヶ原にとっては満足な方法なのだが、俺にとってはとても苦痛だったが勝つためには、こんなプライド捨ててやる。
「はぁ・・・・・はぁ・・・・・はぁ・・・・」
この方法のお陰か予想以上に歩が進み、気が付けば先頭をとり・・・・そして、一位にゴールできた。
俺達は即座にタスキを外し、俺はまず息を大きく吐きながら大の字になって休む。司会のアナウンスで俺達のグループが優勝することを理解すると笑みが止まらなかった。
「はははははは優勝できた・・・」
「だろぅ。それで一位がとれないわけがない」
ちらりと明日ヶ原を見ると、汗を腕で拭って顔を隠していた。表情は見えないのだが、恐らく満足してるような感じをしてるようだ。
こういうのも悪くない。
その後、後続のペアが走ることになり、俺はクラス委員なのでみんなよりも大声で応援をしたが、他のメンバーはあまり練習してないので、いい結果が取れなかった。
その結果最後のリレー競技をしなくとも俺らのクラスが優勝するのは、事実上不可能となった。
「みんなお疲れーーーー。アッスーに久東君頑張ったねーーー」
俺達二人三脚組は、すぐにクラスのテントに向かい不甲斐ない報告する。 涼風さんはそんな結果でも、元気よく励ましてくれ、俺達にタオルを投げてくれた。
その慈愛で俺は泣きそうになった。
「ううーーーー」
「あり?久東君泣いてる?」
「さぁ、あんなやつよりも、頑張ったんだから朱里もそれなりの代償を払ってくれると嬉しいんだが・・・」
「ひっ・・・・・・最後のリレー頑張ってきます!!!」
明日ヶ原のセクハラで危険を察知したか涼風さんは逃げるかのように最後の種目であるリレーに向かった。
「ちっ、朱里のやつうまく逃げたねぇ。 なら、園崎で我慢するかぃ」
「へ?アッスー?ちょ、ちょいちょい・・・やめ・・・・て」
涼風さんがいないので、代わりに園崎にターゲットを写しセクハラをしていた。
疲れてるのに、性欲が収まらないやつだな。
「久東、お疲れ。それにしてもお前達、意外に連携良かったな?これも練習の成果ってやつか?」
「さぁね。俺、ジュース買ってくけど一緒に行くか?」
「いや、あんま喉が乾いてないからいいわ」
「そうか」
佐々波に誘いを断られ、ジュースを買いに自販機に向かった。
次は、涼風さんが参加するリレーなのだが、その前に男子のリレーが先なので、その間にジュースを買いに行くとにする。
「よし。さてと戻るか・・・・・・ん?」
適当にサイダーを選び俺は、女子のリレーが間に合うよう、すぐに元のクラスのテントに向かうのだが、そこには先ほどセクハラを堪能していたはずの明日ヶ原がいた。
「なんだ、セクハラはもう摂取できたのか?」
「まだ、足りないが、お前と話したいことがある」
「な、なんだよ急に? もうすぐ涼風さんのリレーが始まるぞ」
「すぐに終わる」
突然の真剣な表情で俺は固まり手が震える。
「まぁ、怖がらなくていい。クドウはまだ、朱里の事が好きなのかぃ」
「そ・・・・・そうだけど、お前はそれを認めないんだろ?」
「確かにねぇ。正直朱里がわたし以外のやつに貞操を奪われるのは嫌だ。けど、話すくらいなら許してやる」
「へ・・・・いいのか?」
「図に乗らないで欲しいねぇ。別に認めたわけではない。ただ、お前のとこの猫が気になっただけだぃ。あの猫ともう一度会いたいから、朱里と関りを許す・・・・・ただそれだけだ」
明日ヶ原は珍しく顔を赤らめながら告白する。
まさか、マグロ丸がいたお陰であいつに許しをもらえるとは思わなかった。
「なら今日の放課後俺の家よるか? マグロ丸も大喜びだ!!!」
「なにを言ってんだぃ。今日早速行くとは言ってないだろぅ。なにを浮かれてるんだぃ?全くしょうがない奴だねぇ・・・・」
俺の失言で明日ヶ原は、くくっと小さく笑う。
『次に女子のリレーが始まります』
「おっと、もうすぐリレーが始まるぞ。いくぞ」
「・・・・・・まったく元気だねぇ。とはいえこっちも朱里の雄姿を見るために頑張るかぃ」
もうすぐ涼風さんのリレーが始まるので疲れを気にせず全速力で走り何とか間に合った。
ちなみに女子のリレーの結果は、涼風さんにバトンを渡すまではうちのクラスは三位だったが、彼女の快進撃により次々と抜き、結果リレーは一位をもぎ取った。
総合結果及び、クラス順位は、そこそこいい結果で終わったが、一周目以上に楽しむことができたのだが、個人的に二人三脚はもうやりたくないと思った。
この話で明日ヶ原編は閉幕です。
次回は、いよいよ涼風朱里攻略の後半戦が始まります。




