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明日ヶ原楓③

体育祭の種目が決まりうちのクラスは、昼休みや放課後を中心に体育祭に向け、種目練習を強制ではないが、日が暮れるまでやることとなった。



他のクラスなら間違いなくこんなに遅くまで練習をやらないのだが、クラス委員の涼風さんがクラスメイトに熱心に声をかけていたのだ。



しかもあの涼風さんが嫌いな佐々波でさえも、彼女の強引さと明るさに押し負けて仕方なく参加をしてくれたのだ。それくらい涼風さんは、周囲を引き込むほどの才能の持ち主で、うちのクラスは、最低一回くらいは、練習に参加していたのだ。一人を除いてだが・・・・・



その人物は、意外にも涼風さんを敬愛していたあいつだった。 その理由は、俺と二人三脚のペアがそれほど嫌だったか不明だが、練習には一向に顔を出さずに下校していたのだ。



なので俺だけが練習できずに、毎回クラスメイトが身体を動かして練習してるとこをただボーっと傍観してたのだ。



さすがにその姿を見かねた涼風さんは、俺に明日ヶ原の説得をするという無茶な事を頼んできたのだ。

彼女によるとどうやら明日ヶ原はゲーセンでサボっているようで今からそこに向かう事となった。






「はぁ~~~~~~なぜこんなことになった?」

今の俺はとても憂鬱な気分で、足がとてつもなく重く、ため息が止まらない。それくらい不安でいっぱいだった。


確か明日ヶ原は、あの涼風さんの頼みでさえ断ったんだよな。そんな相手に俺が向かっても相手にされないのは、分かるはずだろう。



俺はそう思いながら、涼風さんから渡された、長方形の包みをカサカサと揺らしながら眺めながら歩く。


確か、明日ヶ原にこれを渡せば機嫌がよくなるって言ったんだよな。感触からして食べ物じゃなく、なにかキャラ物のキーホルダーのようなものが入ってる感じがするな。



女の子なんだからこういうキャラ物のアクセサリーとかが、好きだったり・・・・・なわけないよな。明日ヶ原に限って。




あいつが好きなものは、性欲まみれのおっさんが好きなものとほぼ変わらないから、可愛いのと無縁なはずだ。うんそうに違いない。




気がつくとすでにゲーセン前につき、俺は、さっそうと中に入る。

うん、相変わらず騒がしい場所だ。



ゲーセンか・・・・そういや一周目の大学生時代は、勉強のストレスを発散するために、クレーンゲームにドハマりしてたな。バイトもしてなく、親からもらった小遣いとお年玉の殆どをそれに費やしてたな。

あの頃は、なんでそんなくだらないものに金を使い込んだんだと後悔を覚えてたわ。



懐かしのクレーンゲームを目を逸らし、俺は明日ヶ原を探してるが、なかなか見つからない。




「どこいったんだあいつ・・・・・・ん?」

そんな時、ふとスロットゲームのコーナー付近でうちの制服らしき人物がいたようで近づくと案の定明日ヶ原だった。


やつは、無気力な表情で片手だけボタンをポチポチと押すだけの作業をしていたが、よくよく見るとそれがアタリの連続のようで、出口からメダルが滝のようにあふれ出て、やつの隣にはメダルケースが、5ケースも積まれていた。


嘘だろ・・・・下校してまだ、数十分も経ってないのに、こんなに勝ったのかよ。

前々から遊び人みたいな風格をしてたけど、完全に勝負師のソレじゃないか。



こいつの才能ならギャンブルだけで飯食ってそうな感じがするな。



とりあえず俺はさりげなく隣に座り恐る恐る挨拶する。



「よ、明日ヶ原・・・」

「チッ。クドウかぃ。なんか用か?」

俺を見ると早々舌打ちでイライラしていた。完全にご立腹だな。




「クトウな・・・ちょっと話があるけどいいか?」

「後にしてくれないかぃ?今いいとこなんだけど・・・・・っていうか邪魔。帰ってくれ」

出会って数秒でこの仕打ち・・・・俺どんだけ嫌われてるんだよ。俺もこいつの事大嫌いなんだが、これでもクラス委員だから引き返すわけにはいかない。

まずは、涼風さんに渡された包みを渡す。




「これ、涼風さんからなんだけど・・・・これで話を聞いてくれないか?」

「ん?朱里が?」ガサゴソ

興味津々な感じのようで、スロットを中止してその包みを開けると、可愛いトラ猫の

ストラップが入っており、携帯を取り出しすぐにつけていた。

っていうか、普段気にしてなかったけど明日ヶ原の携帯には猫やら犬のストラップをふんだんにつけてるようだ。





「なんだぃ。わたしにそんな趣味があるのが、悪いのかぃ?」

「そんなことはない。同性しか目が無いから、こういう動物みたいなものも好きなのは意外だなっと思って」

「別に、わたしは可愛い瞳をしてるものが好きでついでたくなる癖があるんだぃ。ちなみにそれは、朱里を含めてのダチは大体知ってる」

「そ・・・・そうなのか」

「笑わないのかぃ」

「なんで笑うんだよ」

「いやぁ、少しでも笑う素振りをしたら一発蹴りを入れようと考えたが、そう簡単にうまくいかないもんだねぇ」

鼻で笑ってるんだけど、どさくさに紛れてなんか物騒な事言ってんだけど。コワッ



「で、お前が来たってことは、朱里に頼まれたのかぃ」

「それもそうだけど、俺も一応クラス委員だ。悪いけど一回だけでもいい。クラスの行事には、付き合ってくれないか・・・・」

「・・・・・・・・・・」ジロッ

その言葉に対して明日ヶ原は、探るかのように、ジーーーーーと俺の顔を見つめていて、ふんふんと頷いた。





「お前・・・・随分前と変わったねぇ」

「は?」

「前は、うじうじして、よく朱里の事を見ていてとても気持ち悪い印象がある男子としか思ってなかったよ。けど・・・・・・今は前と比べて少しだが、引き締まって、落ち着いた顔をしている。正直に言えばわたしはその顔が一番好きだ」

「そう言われると光栄だな・・・・」

「だが、その眼が気に食わない。この諦めない曇り一つもないキラキラとした感じ。まだ朱里の事を狙ってるだろぅ?」

なぜ・・・・・・そんなことが分かるんだ?もしかして超能力者?




「図星だろぅ。わたしは人を見る眼があるからねぇ・・・・大体人の考えてることは分かる」

「で、俺はその、変態Aに入るってことか?確かに涼風さんは気になるが、あくまで友人として好きだ」

本当は異性として好きだが、ここで本音は言いたくない。



「朱里から聞いたよ。お前、あのエロオーナーから朱里を護ったんだっけ?言っとくけどわたしは、あの男から何度も朱里を護ってるんだ。うぬぼれるなよ」

落ち着いた表情から段々感情を表していた。よっぽど涼風さんが大事だと思ってるんだな。



「うぬぼれてなんかない・・・・・・っていうか、そもそも俺、お前を行事に参加するために話をしたのにいつの間にか涼風さんの話題に変わってるんだよ?」

「そうだったねぇ。お前を見るとついイライラしてたよ。そう言えば行事の参加ねぇ・・・・・いいよ。受けても」

あれ?意外と受け入れたな。




「ただし条件がある。ついてくれるかぃ?」

そう言われると、明日ヶ原にクレーンゲーム前に連れて行かれた。目の前にはさっきのトラ猫と同じデザインのクッションがクレーンゲームの景品として置かれていた。

まさかこれを取れというのか・・・・




「お前に1000円を渡す。これを使ってこの商品を取れたら、練習に参加することを考える。もしできなけらば諦めてくれ・・・」

「分かったやる」

断る理由なく、その1000円札を両替してクレーンゲームに立つ。そして大きく息を吸う。




「ふん。うまく取れるかねぇ。言っておくがわたしはこれに挑戦して3000円も無駄になった。いくらお前がオタクでもこれは取れないだろぅ・・・・・・って聞いてるのかい?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

俺は、額に人差し指を当て集中する。無論その集中で明日ヶ原の声なんて聞こえない。脳内で成功するイメージをしているんだ。



・・・・・・・・・・・よしとれる。

顔をパンパンと叩き硬貨を入れる。




結果は・・・・・





「よし取れたぞ」

「な・・・・・・・・・・なんだと」

わずか800円でトラ猫のクッションが取れ、それを明日ヶ原に渡す。

その顔は、驚きを見せ震えが止まらなかった。



フッ・・・・・・一周目の大学生時代ゲーセンに入り浸って良かった。



まさかそれで培ったクレーン技術がここで行かせるなんて夢にも思わなかったな。

腕も昔と比べて落ちてないから予想以上に成功して良かった。




悔しがる明日ヶ原の顔を見せ俺はガッツポーズをする。




まさか取るとは思わなかったのであいつは貰った座布団を強く握りしめ床に尻をついた。

ギリギリと歯ぎしりする音をしたが、しばらくすると心が折れ、賭けに負けたことを受け入れた。




「くっ・・・・・・仕方がない。約束は約束だぁ。明日は行くことにするよぉ」

明日ヶ原は、そう言い残すと、そそくさと帰っていった。



その後、涼風さんからメールが来て、明日ヶ原は明日から二人三脚の練習に参加すると報告があったようだ。

明日から大変だな。








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