明日ヶ原楓②
「ねぇ、アッスー本当にこんなことしていいの?流石にやばくない?」
よく見ると、明日ヶ原の後ろには、あいつと同じリア充グループの女子A、Bこと、左近寺と園崎がおり、その二人は、捕まっている俺を見てなんだか申し訳なさそうな顔をしていた。
なるほどこの三人が気絶した俺を椅子に座らせて手錠をかけてたんだな?
というか雰囲気からしてなんかあちら側は訳ありな感じがするのだが・・・
「なにを言ってるんだぃ?わたしは、この男に報いは必要だと思うんだ。口を挟まないでくれるかぃ?」ギロリ
「ひぃぃぃぃぃ」
恐る恐る反論する二人に対し、明日ヶ原が口出し無用と言わんばかりに、睨みを飛ばしていた。 怖気づいた二人は、小さく縮こまり涙をポロリと流しながら互いに抱き着いていた。
普段適当な態度の彼女は、補習後の放課後に見せた時の・・・・・いやそれ以上の迫力を見せており、ゆらりと俺に近づき俺と目を合わせるために腰を下ろす。その瞳は完全に人殺ししそうな勢いで瞳孔が開いていた。
今の様子だと失言をしただけで、暴力を受けそうな感じだから冷静に言葉を選ぶしかない。
「明日ヶ原、なぜ、そんな事をしようとするんだ?生憎俺は、お前にこんなことをされるような悪いことはしてな・・・・」
スッ
話の途中、突然首筋から冷たい感触が走る。その正体は俺を拘束していた手錠の鍵で、それをまるでカッターナイフで切り裂くように首筋をなぞっていた。
「なにぃ、とぼけてんだぃ?お前は重大な罪を犯した。それは、言われなくても分かるだろぃ」
「涼風さんか・・・・・」
「正解。といっても、そんなこと馬鹿でも分かるだろぅ?」
そう言いながら明日ヶ原は、怒りを抑えながらも冷静に自身の携帯を取り出しその画像を見せる。
「これ見覚えがあるだろぅ」
「それは・・・・・あの時の」
そこに写されたのは、こないだ俺と涼風さんが一緒に下校した時の写真だ。それだけではなく、ラノベを選んでる瞬間や、俺が涼風さんのパンチラを見て、顔を赤らめいている瞬間まで写されていた。 なんでこんなのが・・・
「覚えてるだろぅ。この光景を・・・実はこの園崎が、あの時の下校中偶然二人の姿を見て、写真を撮ったんだぃ」
「・・・・・・」
すぐさまに園崎の方に目を向けると、後悔の念があってか目を逸らしていた。 それに構わず明日ヶ原は、会話を続ける。
「最後のパンチラは置いといて、これだけならば、わたしも怒ることはない。だが、問題はここからだぃ」
ここから?・・・・・・・まさかアレも取られてるのか?
その心配をよそに目の前に動画が流れる。それは、あの後一緒に行ったファミレスでのやり取りだった。
『ほら、久東君、あーーーーーん』
『いや、あーーーーーんって流石にまずいんじゃ・・・もし学校の連中に見られたらどうするの』
『大丈夫大丈夫。ここ店の奥だからそう簡単に見られないんだって。ほら、アタシのおごりだから、思いっきり味わってよ』
そう、涼風さんが悪乗りで俺の右隣に座り、さらにカップル限定の特大チョコパフェを注文してそれを食べさせてくるシーンだった。
まぁ一言いうとイチャイチャシーンだな。あの時の涼風さんはパンツ見られたせいかその腹いせで俺をいじり倒しリアクションを楽しんでたな。 改めて自分の属性がドMなんだなと認識してしまった。
「く、なぜなんだ・・・・・朱里がこんな冴えないやつとイチャイチャとーーーーー。わたしでさえ朱里に食べさせられたことないのに・・・・・」
その一連の動画を見ると、明日ヶ原は急に悔しがるようにドンドンと床を叩き、嫉妬をしていた。
いや、気持ちは分かるけど普通の友人なら嫉妬する感情は湧かないはずだ。
そして話の続きを聞くと、撮影後に園崎は明日ヶ原にこのことを打ちあけたようで、明日ヶ原は、涼風さんに秘密でこの偽ラブレター作戦を企てたようだ。
思えばあのラブレターのイニシャルのASの間に句点がついてない次点で気が付くべきだったな。あのASは、涼風さんのイニシャルではなく明日ヶ原本人を示してるからな。
クソ・・・・・浮かれすぎて気が付かなかった。
「さぁて、つまらない話はここまでにしようかぃ。二度と朱里にちょっかいできないように再起不能にしようかぃ?」
そう言いながら明日ヶ原は殺る気満々で、拳を握りしめた。
「ちょっかいって・・・・俺彼女とクラス委員だから話す機会はあるから。無理だろ?」
「安心しなよ。代わりにわたしがやる」
そんなのできるわけないだろ!!! 後、顔からにじみ出ているにやけ笑いは止めてくれ。
仮にも同じクラス委員になったら涼風さんに良からぬことするだろ!!!
「さぁ、歯を食いしばるかぃ」
やばい。殴られる・・・・助けてくれ。おい、左近寺、園崎ヘルプミー
「・・・・・・・・・・・ごめん」
今ごめんって、言いながら目を逸らしてなかった?元はと言えばアンタらが元凶なんだぞ。
そんな理不尽なことあるか?
そう思いながら明日ヶ原の拳を受けようとするその時、空き教室に涼風さんが飛び込んできた。
「ちょっ!!!何やってんのアッスー!!!」
「あ、朱里ぃ。なぜここにいるんだぃ?」
間一髪、助けてくれて、すぐにこちらに向かい明日ヶ原から鍵を奪い俺を解放した。
「涼風さんありがとう・・・」
「どういたしまして。どうも久東君の様子がおかしくて後をつけてたら、偶然隣の空き教室からアッスー達が出てきて、久東君を気絶させたんだよね。その後は状況知るために、様子をうかがってたんだよ」
「どうせなら、すぐに助けてほしかったかも・・・・」
「ごめんごめん。なんでこうなったか、動機が知りたかったからね」
涼風さんは、舌を出し可愛く謝罪をしていた。 その後は、明日ヶ原達三人に向けて目を光らせた。その様子は少し怒ってるようだ。
「ねぇ、三人とも、話を聞かしてくれるかな?」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
「ごめん。朱里ちゃん。こうなるとは思ってなかったの・・・」
「そうそう、クドウが朱里にちょっかいかけてくるって聞いたからちょっと話が聞きたかっただけで・・・」
「黙ってくれるかな?アタシはアッスーに用があるから」
「ひぃ」
あの二人はこれまた、鋭い眼差しを向けられ再び縮こまり抱き着いていた。
「ねぇ、アッスー詳しく聞いてもいい?出ないと、絶交だから♡」ニコリ
「そ・・・・・・・・それだけはやめてくれぃぃぃぃぃぃぃぃぃ」
これまでとは一転、明日ヶ原は、発狂しながら涼風さんの足を握り縋りついていた。その様子を見下す涼風さんのニヤリ顔・・・・
うん・・・・完全にSだな。
その後、あの三人は俺に謝罪をしたが、涼風さんによる説教が待っており、俺を残し消えていった。
そして後から涼風さんのメールが来て『きつく注意したから安心して』と返事があり、すべて丸く収まったようだ。
そして、その日の翌日。 登校時教室に入るとふと明日ヶ原の方に目を向ける。
「おはよう」
「おはよう。久東君」
「ふん・・・・」
俺を見るとすぐに目を逸らし、顔をプクッと膨らしていた。
見る限りご立腹だな。
それもそのはず昨日の謝罪であいつだけは、誠意がこもってなかったな。
まぁ涼風さんのそばにいるから、仕返し的なことはないだろう。
俺は、いつものように佐々波と話をし、しばらくすると先生が来て、HRが始まる。
その内容は、もうすぐ体育祭が始まるのでその種目をくじ引きで決めるようだ。
どれもめんどくさくやる気はない種目なのだが、実はその中には、恋愛を求める男女にはチャンスと言われる競技がある。
それは二人三脚で、各クラス五チーム作ることになるのだが、問題の組む相手は、男女混合なのだ。これは、うちの学校では伝統的な事で、この二人三脚でカップルが成立した事例がある。
問題はその二人三脚の出場メンバーなんだが、俺は勿論涼風さんと組みたいのだ。
それを見越して俺は、前回のクラス決め同様に、マグロ丸から運気を貰いラッキーアイテムであるつまようじを自身の筆箱に入れてるから、今回も大丈夫だろう。
俺は、余裕を見せくじを引く。
そして結果発表・・・・・・・
俺がやる種目は、黒板に書かれていた。
二人三脚
〇久東・明日ヶ原ペア
終わった・・・・・・・・・・・
よりによって昨日ひと悶着おこした明日ヶ原が相手だった。
それは、相手である奴も同様なので、隣の席の明日ヶ原から、かすかに舌打ちが聞こえた。
ちなみに涼風さんは最終種目のリレーのアンカーで、本人が好きな種目だけあって喜んでいたが、俺達はその真逆な感情を抱いていた。
それくらい明日ヶ原と組むのは嫌だ。




