明日ヶ原楓①
「涼風ぇぇぇぇぇぇお前のことが好きだぁぁぁぁ!!!!!良かったら付き合ってくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」
ある日の休み時間、隣のクラスからバタバタとうちの教室に向け走り、窓越しから暑苦しい野獣顔を晒しながら恥を構わずに叫ぶ男がいた。
奴はゴリ本、あの涼風さんに何度も告白しては、必ず玉砕してしまう敗北者だ。
っというか何十回も振られたんだからいい加減に諦めろよ・・・・
俺も諦めが悪い方だけど、あっちの場合は、心が強化ガラスでできているくらいメンタルが高すぎだろ。
「ごめん、何回も言ったけど無理だから・・・いい加減諦めてくれないかな?」
「なぜだ・・・・なぜ俺の魅力が分からんのだ。俺の短所を教えてくれ!!!!」
答えは、8割型顔と残りは諦めの悪さだろう。そろそろ気づいた方がいいだろ?
「何故だ。何故拒むのだ。もしかして他に好きな男が・・・・ぶげっ」
その時窓から入ってきそうな勢いのゴリ本が突然華麗な蹴りを受け、廊下の壁際まで吹っ飛ばされていた。
その正体は涼風さんと一緒に居るレズの明日ヶ原だった。奴は、イヤホンからでも漏れているほどの大音量で音楽を聴き、それに合わせてステップするように歩き、ゴリ本を睨んでいた。
「無様だねぇ・・・・毎度毎度、汚らしい面を朱里の前にさらしておいて、恥ずかしいと思わないのかぃ?」
「いや・・・・俺は、ただ涼風に告白を・・・・ひっ」
反論しようとすると、明日ヶ原はパンツが見えようとも構わずに、長い足を高く上げ、倒れているゴリ本の右隣りへとギロチンがごとく音を立てて落とした。
これにより、さっきまで強気だったゴリ本は泣きべそをかいていた。
おいおい、近くに教師がいなくて正解だったな。いたら完璧に停学確定だぞ。
「さぁ・・・・・帰るかい?」
「帰る、今は帰る・・・・・だが、次こそは・・・・・次こそは・・・・」
そう遠吠えを吐きながらゴリ本は自分の教室に帰っていった。体格が全然違うのに、明日ヶ原どんだけ強いんだよ・・・
「アッスーありがとう」
「なんだぃ朱里ぃ!!!お礼なら別にいいだろぃ。その代わり思いっきり匂いをクンカクンカさせてくれぃ。っというか、朱里じゃもの足りないねぇ。お前達のも堪能するかぃ」
「ちょっとアッスーなんであたしまでぇーーーー」
全てが終わると、いつものレズレズモードの明日ヶ原に戻り、いつもがごとく同じリア充仲間の女生徒にセクハラまがいの事をしていた。
はぁ・・・・・相変わらずの狂人っぷり。こいつより上の変人は、この学校にはいないだろうなぁ・・・・・
この明日ヶ原楓は、俺と同じクラスメイトで、涼風さんを攻略するのに最大の壁だ。
細身の身体からして、あの柔道部のゴリ本を屠る強さを持っている。
知ってる情報はあまりなく、他県から高校進学してきたので中学以前の情報がなく、掴みどころがないのだ。
っというか知りたくもない。
正直こいつさえいなければ涼風さんに普通に声をかけることができるのに・・・・
はぁ、どうしたもんかねぇ・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ふぅ・・・・・疲れたぁ」
その日の放課後、俺はいつものようにこのままバイト先に行こうと思う。
二周目の世界で二週間くらい過ごした俺は、そろそろこの世界に慣れを感じたのだが、9月の下旬・・・・・つまりもうすぐ体育祭の時期が来るのだ。
正直俺は体育祭が大嫌いだ。
その理由は、俺の今の低スペックな体力が関係しているのだ。
俺は元々運動神経が悪く、例え二周目の一日目で、本来の目的であるマッスル計画をしていても、そう簡単には体力の向上ができないというくらい貧弱なので、無理に前に出ようとするとか恥をかくのが目に見えているのだ。
まぁ、うちのクラスの男子は脳筋が多いからめんどくさい競技には参加することはないし、気長に楽しめるな。
そう思いながら俺は下駄箱から靴を取りだす。
パサッ
「ん?」
その時、俺の下駄箱から一通の可愛いシールがそこらに貼られていたピンクの手紙が落ちてきた。
その時電流が走る。
「こ・・・・・・・・・これは、まさか」
ラブなレターなのか。
もしかして誰かの入れ間違いかも・・・って裏面に俺の名前が書かれてるし!!!
しかしこの状況どうしたら良いものか?まずは、周りに人がいないか見渡すとするか。
よし、誰もいないな。
開けようとす・・・
「久東君どしたの?」
ポン
「!!!!!!」
はっ・・・・涼風さん!!!いつの間に後ろに・・・・
さっきまで誰もいなかったのに、気配遮断スキルEXかよ。
「わっ・・・・なにその手紙?もしかして、久東君も貰っちゃいましたか?クククク」
「し・・・・・・・失礼しました・・・」
「ちょ・・・・久東君!?」
突然の涼風さんの登場に身体が反射的に動き、すぐさまに男子トイレの便器に座る。
ドクンドクン
落ち着け・・・・静まれ心臓の鼓動。深呼吸しろ・・・・
これ・・・・・・現実だよな。俺初めてラブレターを貰っちゃったよ。
オカシイ・・・オカシイ・・・俺一周目ではこんなの貰ったことないのに、なんで急にこんな強制イベントが起こってしまうんだ。
気を取り直して今一度手紙を開けよう。
『放課後、二階南校舎の奥の空き教室で、お待ちします。
親愛なる久東クンへ ASより』
この、見覚えがある可愛らしい文字に、イニシャルのA・S。
間違いない。アカリ・スズカゼだ。
うん。確かにこれは辻褄が合うな。一周目にラブレターが来ないのに二周目に来るってことは、とどのつまり俺が必死に彼女にアピールしたからに違いない。
そうこうしてる場合じゃない。さっそく涼風さんがいる空き教室に向かわなきゃ。
ん?なんか違和感があるな。確かラブレターを手に取る時、当の本人の涼風さんがいたような・・・・・・
まぁ、本人が直接読んでくれたかの確認だろう。
気にしない。気にしない。
俺は、さっそく約束通りの空き教室に向かった。
ふぅ~~~~~~~ようやく、長年言えなかったことを爆発するときが来たんだな。
ようやく届きそうで届かなかったこの手を摑めるんだな。
神様もしくは女神様がこの世界に本当に存在するのなら、言わせてほしい。
やり直しさせてくれてありがとうございます。この恩は一生忘れません。
心臓は、緊張で今も爆発しそうで高鳴りが収まらないが、意を決して扉を開ける。
「し、失礼します・・・・・・・・・・ん?」
この時違和感を覚える。教室に入ったのに、涼風さんらしい人影は見当たらない。それどころか・・・・・・
トン
「ぐ!!!!」
な、なんだ?突然後頭部からすごい衝撃が走って・・・・・・意識が完全に飛んでしまった。
「ん・・・」
そして次に目が覚めると、俺は椅子に座らせられ、しかも手足には手錠をかせられて身動きができない状態になっていた。 一体何が起こってるんだ。
カシャカシャ♪
すると、微かに聞こえる音楽が流れ、頭を上げると目の前には見覚えがある顔の明日ヶ原がいた。
やつは手錠の鍵を片手にクルクルと回しながら、不敵な笑みを浮かべこちらを見下ろした。
「ようやく目が覚めたかぃ」
俺の人生どこで間違えた?
いきなりバッドエンド突入じゃないか!!!!




