二周目の俺は姑息に生きる
涼風さんのライブ観戦から翌日、俺は軽くあくびしながら登校し、校門を過ぎる。
普段なら休み明けの学校及び出勤は、通常ならば昨日のサザ〇さんが終わった時点で憂鬱に感じるが今日は別だ。
なぜなら今日、朝起きてから、涼風さんから『久東君、おはよう。今日も一日頑張ろうね』というラブコールが来てたのでやる気に満ちあふれているのだ。
まだ彼女とは付き合ってはないが、本人から友達発言・・・・これ、小さな一歩だけど、陰キャで『彼女できない=年齢+二周目の世界で生活した日数』の俺にとっては第一歩だ。
もしかして、今もこうして声をかけられたりとかなんて・・・・そう簡単に都合よく・・・・
「おはよ!!久東君!!!」ポン
「ふぃお!!!」
ウソぅ!!!!噂をすればものの数秒でかけられちゃったよ。フラグ立てすぎだろ。
「あははははははははは、なにそのリアクション、超ウケるんだけど、あはははは」
「そりゃ突然声をかけられたらそんな反応するよ。涼風さんだって、突然明日ヶ原にセクハラされたら驚くでしょ」
「うっ・・・そう思うと、久東君のリアクションなんとなく共感できるね・・」
「でしょうね」
「まぁそれでも久東君のリアクション可愛いから止めないけど♪」
止めないのかい!!!不思議と彼女からはMではなくSの片鱗を見せてるのは気のせいだろうか・・・・
まぁそれはともかく俺達は同じ下駄箱に向かい、靴を入れ替えるのだが、涼風さんが自身の髪の毛を上げながら屈して自分の靴箱の扉をあけると手紙が5通落ちてきて、それを見るとため息をはいた。
これってまさか、例の手紙なんじゃ・・・
「あちゃーーーーーまた来たか。まぁライブ後にはくるのはしょうがないけど・・」
「涼風さん?まさかこれ、ラブなレターじゃ・・・」
「惜しいファンなレターだけど。 ほらよく見てよ」
彼女にその手紙を渡され見ると可愛いデコレーションシールが貼られ、そこにはバンドの感想とか思いがつづられていた。
『朱里先輩♡昨日のライブばっちりと見ました☆・・・・相変わらずカッコイイ演奏で惚れ惚れしました・・・・・・』
おっと、これ以上読むと悪い気がするから途中で読むのやめよう。
「ありがとう。確かにファンレターだったね」
「そうでしょ、中には2通ほどモノホンのラブレターがあるけどね・・・・」
はいはい、本物のラブレターね・・・・ますます俺にとってはどうでも・・・・って本物!?
「じゃーーーーーん。ここの二通に、本物のラブレターが来てました。えーーーーと相手は、フムフム・・・一年の子か。結構可愛い字書くね・・・・もう一人はと・・・・・・げ、またゴリ本か・・・・・」
「ゴリ本?誰?」
「ほら、隣のクラスの藤本!!!あのゴリラみたいな顔したやつ。はぁ~~~~~これで通算32回目か・・・・・・うっざいな」
涼風さんは怪訝そうに舌打ちをし、後ろの髪を掻きむしった。
藤本?一周目の記憶によると、確か事あるごとに涼風さんにちょっかいを出す、柔道部のやつだったか・・・・
あまりしつこいようで毎度毎度明日ヶ原に理不尽な暴力を受けていた可哀そうなやつだな。
「またアッスーに頼むか・・・けどさすがに可哀そうになってきたかも」
「涼風さん大丈夫なの? もし怖かったら昨日みたいに、僕が助けるけど」
「あははははははははは、気持ちは受け取っとくよ。とても嬉しいけど、止めといた方がいいよ。縦宮と違ってゴリ本は気性が荒いからすぐ吹っ飛ばされるよ?」
「マジか・・・・」
もう森に帰れよゴリ本・・・・
「はははははは、モテるのは辛いなーーーーーでもアタシ的には、まだ誰とも付き合う気はないんですけど」
そう言いながら涼風さんは先に上靴を履き上機嫌で自分の教室に向かった。
まだ誰とも付き合う気がないか・・・・そういえば、一周目でも彼女に彼氏がいたという記憶はないな・・・・彼氏を作るのはめんどくさいのか・・・・またはすでに好きな人がいるのか分からない。
俺は、彼氏を作る気がない相手に恋人になれるのだろうか?
いや、今そう考えるのは止めよう。今は彼女を追いかけよう。
「おはよーーーーーーみんな」
「おはよう。朱里」
「ふっ・・・・」
「きゃあ!!!」
教室に入ると涼風さんはいきなり明日ヶ原に耳元をフッと吹きかけられ、へなへなになったところでセクハラを仕掛けられている。
てか明日ヶ原いつの間にか涼風さんの死角に入ったんだよ。忍者かな?
「ちょ・・・アッスー、ちょっと、またぁーーーーー」
「朱里、すまないねぇ。昨日は家の手伝いでライブに来れなくて・・・・だからその代わり・・・・耳を噛まさせてくれないかぃ」カプ
「ちょ・・・・・だから耳はやめてよーーーーー恥ずかしいじゃん」
「いい悲鳴だねぇ・・・・ゾクゾクするねぇ」クンカクンカ
へ・・・・・・・・・変態だぁーーーーーーーーー!!!!
そう言う思うほど明日ヶ原の同性への欲求がすさまじすぎて・・・・俺を始めリア充グループは勿論のことクラスメイトが手を出せないほど一帯が百合百合しかった。
しばらくすると、明日ヶ原はピカピカなほど顔が爽やかになって、その反面、涼風さんは、よだれをたらしピクピクと震えながら干乾びていた。
「ふぅ・・・・・・堪能、堪能!!! また、半日くらい養分を貰おうかねぇ。はぁ、それにしても相変わらず日がまぶしいねぇ・・・だから太陽は苦手なんだよねぇ・・」
吸血鬼・・・・・いやサキュバスかな?
「大丈夫?涼風さん?」
「へーーーーーき。へーーーーーーき。いつものこと・・・といっても・・・・今日はハードすぎる」
そう言いながら彼女は口元のよだれを拭い自身のカバンを置き、いつものリア充グループに向かっていて、俺はその枠に入れなかった。
それもそうだ。俺は涼風さんと友達になったけど、涼風さん達リア充グループに入るのとは違う。いくらクラス委員で雰囲気が風変わりしても、クラスの認識では俺は名前が覚えれないほど空気で陰気な人間だ。
明日ヶ原の言い分も理解できる。俺みたいな場違いがいたら涼風さんの格が下がってしまう・・・だから俺は、あえて目立たず、コソコソと姑息に涼風さんと接することを決めた。これなら、誰も傷つかないはずだ。
そう思いながら一回涼風さんから視界を外しいつもの調子で佐々波と接する。
「よぉ、久東、昨日はお疲れだったな」
「それはいい。いいから先日貸したラノベを返せコノヤロー」
「お前眉間に顔を寄せてどうした?すっげぇ怖いぞ。てか最近のお前、やけに強気じゃね?」
「気のせいだ。サッサとだせ。馬鹿野郎!!!」
「だから、なんで機嫌が悪いんだよ?S(涼風)のことか?Sのことなのか?」
「S?誰だそいつは?匿名A(朱里)と呼べこの野郎。馬鹿野郎」
佐々波。お前の言う通り少し機嫌が悪いかもしれんが、許してくれ?
これも俺がヘタレなせいなんだ・・・・
「・・・・・・・・・・・・・・・」




