#19 月夜の都
≪ギルド戦専用エリア・月夜の都≫
月夜の都。名前の通り、フィールドは夜のマップで大きな丸い月が頭上で光り輝いている。そして、その下に広がる小さな建物たち。遠くには教会っぽい建物見える。月夜の都は一応街を舞台としているのだけど、生活感がまるでなく、人類が滅んだ後のような物寂しい雰囲気を漂わせていた。それなのに美しさを感じてしまうのは何故だろう。これがわびさびの精神ってやつなのかね。
「……シエルさん、この戦いが終わったら昔のこととか話してくれるんですよね」
街の景色に魅入っていると、後ろに居るユリアに話しかけられる。
「ああ、約束だからな」
そう、約束したんだ。この戦いが終わったらユリアやモチツキに俺の過去などを全て話すと。理由も話さずにここまでついて来てくれたのだからこれは当然の義務だよね。これは俺にとって最後の戦いであり、フィロソフィとの決別でもあるのだ。
【バトル開始!!】
戦いのファンファーレが鳴る。こちらの人数は80人、向こうは43人とこちらの優勢だ。ルールは前と同じくフラッグを7つ集め、敵の陣地に持ち込んだら勝ち。時間内に勝負がつかなかった場合は終了時点で多くフラッグを持っているギルドの勝利となる。
俺のギルドメンバー達は四方に散らばりフラッグを探す作業に出る。俺もスタートと同時に駆け出すが、今回の俺の役割はフラッグを探すのでは無く、敵を倒すことだ。少しでもこちらに有利な状況を作り出して前に進む。王道的な戦い方だが、やはりこれが堅実であるという結論に至った。
というのも、このフィールドは全体的に薄暗い上、障害物となる建物が多く存在している。フラッグを探すために迂闊に前に出てしまえば建物の陰から敵に奇襲にされる可能性が高い。それを防ぐために、フラッグを集める人と味方を狙っている敵を狙う人……なんだかややこしいから、奇襲班とでもしておこう。とにかく、2つの役割に分けたのだ。
そろそろフィールドの真ん中辺りに着く、ということは敵も同じ場所に来ていてもおかしくはない。交戦地になるのであろう場所で俺は建物の陰に隠れ、辺りの様子を伺う。
すると、目の前に敵の姿が見えた。俺は静かに魔法を唱え、敵に命中させる。
「……【クロスファイア】」
高額装備で魔力が増強されていたお陰で一発で仕留めることが出来た。気分はまるで暗殺者。敵からすれば何が起こったのかも分からなかっただろう。俺は敵が出てきた道の前にトラップとして炎の紋章を敷いて、所々にオートミサイルの魔法陣を描いていく。
『フラッグ1つ目見つけました!』
『こっちもゲットです!』
ギルドメンバーから連絡が入る。フラッグを入手したということはそれだけ敵に狙われやすくなるって事だ。俺は一旦自分の陣地の方に戻るために敵側に背を向ける。
ヒュン!
耳元で風を切る音がした。地面には弓矢が突き刺さっている。
弓矢が飛んできた方を振り向いて確認すると、建物の上に弓矢を持った女プレイヤーが俺を狙っていた。
「……あらぁ、見つかっちゃったみたいねぇ」
月に重なるようにしてレミという名前の女プレイヤーが妖艶な笑みを浮かべている。知らない子だな。時間の無い中、急いで入れたギルドメンバーなのかな。
「ちっ、面倒だな……」
同じ遠距離アタッカーでも無詠唱で攻撃できる分、弓矢持ちの方が有利だ。しかも、上からの攻撃となれば圧倒的に分が悪い。俺は相手の狙いを逸らすように、敵を中心として円形に走り抜けて時間を稼ぐ。
「ウッフフ! 逃げ惑えー!」
次々と飛んでくる矢を避けていると、しきりに飛んで来ていた弓矢が一切飛んで来なくなったのに気が付く。
念のため建物の陰に隠れて屋根の上を見てみると、レミが居た場所にはもちこが居て、こちらにガッツポーズを送っていたのが見えた。その振る舞いはまるで電脳世界を生きる忍者。俺に気を取られている内にレミを倒してくれたみたいだ。
「サンキュー、もちこ」
ジェスチャーでお礼を伝え、俺は旗持ちを守る為に自分の陣地に戻っていく。既に自分の陣地側にも敵が攻め込んできていることに危機感を感じながらも、確実に敵を仕留めながら自分の陣地に戻っていく。
『3つ目入手しました!』
『フラッグ、2本、敵から奪いました!』
フラッグ集めの方は順調のようだ。時間の経過具合を見ると、残りのフラッグは既に敵の手に渡っていると見ていいだろう。
「OK、一旦合流しよう。フラッグ集めチームは全員護衛にきてほしい。奇襲班は引き続き敵の殲滅をして有利な状況を作りだすんだ。もしフラッグを手に入れたら俺たちに合流してくれ!」
ギルドメンバー達に指示を出し終えると、ちょうど旗持ちの姿が見えたので俺も合流する。そこにはユリアも居た。
「あっ、シエルさん!」
「来てくれたー!」
「よう、お前たち。護衛も十分いるみたいだな。ここらの敵も倒したから今のうちに前に進もうぜ」
「はいっ!」「了解!」
旗持ちを守るようにして、周囲に気を配りながら前に進んでいく。
「ぐああぁぁッ!!」
順調に進んでいると思った矢先、味方の護衛が一人、突然炎を身にまといながら悲鳴を上げた。
「くそ、敵の炎魔法にやられたか……」
これだけ気を配っていても完全に敵の位置を察知するのは難しい。味方が狼狽えている中、俺は敵がどこに潜んでいるのか必死で探す。
「シエルさん危ない!」
俺の後方に居たユリアが即座に【バリア】を発動させる。俺に向かって飛んできた火玉は透明な壁にぶつかり、散り散りになって消えた。
「――そこかッ!」
敵の位置を見つけた俺は素早く魔法で反撃する。断末魔が聞こえ、コソコソと俺たちを狙っていた魔術師は消滅した。
「助かったよ」
「いえ、シエルさんがご無事でなによりです」
もはやゲリラ戦になりつつある。嫌な戦いだ。ユリアのサポートがあってしても、前進するたびに護衛が一人ずつやられていく。いつ誰が倒されるか分からぬ恐怖の中、それでも俺たちは進まなければならない。
静かな攻防を繰り広げながらも、ついに敵の陣地まであと少しという目印でもある教会のところまで来た。
その時、見覚えのある影が目の前に現れる。視界が悪くても明らかに異質なオーラを放っているプレイヤー。
「探したで、シエル……」
それはフラッグを2本握りしめたフィロソフィだった。獣のような唸り声を上げて剣を構えている。その構えは既に攻撃の準備が出来ていることを示していた。
「来るぞ!」「来ます!」
「【三龍刃】!!」
俺とユリアの声と同時にフィロソフィがそう叫びながら剣を大きく振り出す。剣から3匹の龍の残像が放たれ、俺たちの方に向かってやってくる。どうにかその技を躱すが、避け切れなかった味方はもろにその技を食らってしまう。龍の残像が胸を貫通し一気に3人の護衛がやられてしまった。
「シエルさん、大丈夫ですか?」
「俺はいい、ユリアは他の護衛のサポートを頼む」
「……まだまだや!!【赤影の一閃】!!」
今度は旗持ちを狙った攻撃。さっきの攻撃を躱したせいで、ここからでは守り切れない。このままではせっかく集めたフラッグが相手の手に渡ってしまう……。
――そう思った時、カキーンと攻撃を弾く音が聞こえた。
「【風車】っ!」
その声の主はモフモフだった。持ち前の俊敏な動きで瞬時に俺たちの前に現れ、棍をクルクルと回してその攻撃の軌道をずらしたのだ。
「グッジョブ、モフモフ!!」
「へへん、もっと褒めてもいいんだよ!」
安心したのも束の間、フィロソフィは次々と攻撃を繰り出していく。モフモフが機敏に動き回って俺たちを守ってくれるが、このままでは埒が明かない。
「シエルぅ、どうすればいい~?」
「……ここは俺にまかせて先に行ってくれ!!」
なんて死亡フラグ全開のお決りの台詞を口にする俺。だけど死ぬつもりはないぜ。
俺が目で合図してやると、モフモフは攻撃を弾きながらユリアや旗持ちと共に敵の陣地に向かって走っていく。
「そうはさせるか!」
フィロソフィは逃げていくモフモフたちに追撃を狙おうとするが……、
「【マッドサンダー】!」
俺が咄嗟に魔法を唱え、出現した電撃がフィロソフィに向かって真っすぐ伸びていく。
フィロソフィは一瞬どうするか迷ったようだが、モフモフたちへの追撃を諦めて、剣でその電撃を受け止めた。
「ぐッ!」
剣から伝わった電撃がフィロソフィの身体を駆け巡る。麻痺状態にはならなかったようだが、こちらに気を向けるという目的は達成されたので良しとしよう。
「お前の相手は俺だぜ、未成年との淫行者さんよぉ」
俺は剣を向けて挑発してみせる。フィロソフィは剣に帯びた電気を払いながら悔しそうに俺を睨みつけてこう叫んだ。
「シエル……ずっとお前が目障りだったんや! 俺の前で這い蹲れ!」




