表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/70

#10 焦燥

 ――夜11時。


 何度もVRヘッドセットの入っている金庫の暗証番号を母さんに問いただしても「駄目」の二文字しか返ってこなかった。


 ああ、無情。レ・ミゼラブル。


 明日から母さんは仕事で数日間家に帰らない。聞き出せるのは今しかないってのに「明日は早いからもう寝る」と言って母さんは寝てしまった。これはいよいよヤバイ。VRヘッドセットが無ければ元も子も無いぞ。


 母さんが寝静まった頃を見計らって1階の金庫の番号を母さんの誕生日やら、俺の誕生日やら弄ってみるけどどれもハズレ。ひとつひとつやって当たりを探すなんて方法もあるけど、考えただけで頭が痛くなる。くそう、こんな展開誰が予想しただろうか。


 イライラとしてきたので金庫をぶん殴る。鈍い音がしたのと、手がヒリヒリと痛くなっただけで、当たり前だけど金庫は開かない。物理的な距離は近いはずなのに、分厚い金属の壁が邪魔をしている。これほど金属を憎いと思った日は無い。


 俺を窮地に立たせる人物がDOMの住人ではなく、現実の人間とはな……盲点だった。しかも、それが母さんっていうね。あはは、笑えねー。


 開かないものをゴチャゴチャやっていても仕方がない。俺はとぼとぼと自分の部屋に戻ることにした。


 月の光が窓から差し込んできている。蒸し暑い夜だ。


 さあ、どうする。金庫に入ってあるVRヘッドセットを取り出すのは諦めた方が良いかもしれない。……諦めたくないけど、ここで時間を無駄にするのは得策ではないだろう。ならば別の手段を考えるのがクレバーでクールな男ってやつだ。


 じゃあ、新たにVRヘッドセットを購入するか? 否、俺の貯金はほとんど無くなってしまっているので新しくVRヘッドセットを買う金なんて無い。それに、シエルのアカウントは没収されたVRヘッドセットに紐づけされているし、新しくVRヘッドセットを買ったとしてもシエルでログインすることは不可能だ。


 もう一つ、前に買ったVRヘッドセットがあるけど、スカイのアカウントは凍結されているしログインは不可、これじゃあ使い物にならないね。よって論外。


 なら、とっしーに頼み込むか? 何を? 俺の代わりに指揮を執ってもらうか? 一般プレイヤーに過ぎない彼にメンバー達が付いてくるとは思えない。シエルからの伝言で「実は俺、ママにゲーム機を没収されちゃいました。だからログインできましぇ~ん」なんて言ったところで、面識のあるユリア以外信じないと思うし、メンバー達が信じたら信じたでギルドマスターの面目丸つぶれモノである。


 シャボン玉のように微かな希望が浮かんでは消えて行く。クソッ、まさに八方塞がりだ。この大事な時期にトップの俺がログインしなければ信頼も何もかも崩れ去ってしまうだろう。


 焦燥感が募っていく。夏のジメジメとした暑さが俺を不快にさせる。


 今、俺が出来る最善の手段はなんだ? 現実世界(こっち)で何か出来ること、切れるカードは残っていないのか?


 そう考えたときに、ふと浮かんだのはアリサとフィロソフィのツーショット写真。


 俺はスマホを手に取り、写真をじっくりと観察する。以前は見ただけで心が締め付けられるような気分になったけど、今は大分冷静に見ることが出来た。


 アリサとフィロソフィがベッドの上に座っている……。前に見たときは疑問に思わなかったが、2人が会っている場所は何処なんだ? 


 アリサは未成年で、当然家には親がいるだろうし、おっさんのフィロソフィを家に入れるなんてことは考え難い。逆にアリサがフィロソフィの家に行くってのも考えられるけど、こんな大きなベッドをフィロソフィが一人で使うだろうか。


 仮にフィロソフィが既婚者だとしても、未成年者を家に連れ込むなんてことが奥さんに見つかれば修羅場モノだろう。


 よって、この写真を撮っている場所はどっかのホテル……ラブホだと思う。よく見たら壁紙も独特な物だし間違いない。


 じゃあ次、このホテルは一体何処のホテルだ?


 じいっと見つめていても分かるわけがないので、文明の利器、スマホの画像検索機能ってやつを使ってみる。


 …………。


 よし、ヒットした。見事に画像の壁紙と一致している。いや、現代科学スゲーよ、凄すぎて怖いくらいだぜ。それで住所は……。


 秋栖町――。


 どっかで聞いたことのある場所だな。何処だっけ……。


 ああ、アリサの住んでいる町だよ。まだ俺とアリサが恋人関係だったときにSNSでどこに住んでいるのか聞いたことがあったんだ。


 つまり、アリサとフィロソフィの2人はアリサの住んでる町、秋栖町のホテルで会っていた、と。


 いや、過去形じゃないな。俺はここずっとアリサの行動を観察していて、不審に思ったことがあったんだ。


 毎週火曜日になるとアリサが遅れてログインすること、そして1時間ほどでログアウトしてしまうこと……。


 これはアリサだけの行動じゃない。炭鉱でレベル上げをした時にフィロソフィも同じ行動をしていた。これが意味すること……つまり、2人は毎週火曜日にリアルで会っているということだ。そして、2人はリアルで会った場所でDOMにログインをしている。


 定期的に会っているということは、毎回同じ場所で会っている可能性が非常に高い。何と言ってもおっさんと未成年の禁断の恋なんだぜ? あちこち行けばその分怪しまれ、通報される可能性も高まるんだ。


 つまり、毎週火曜日にはアリサの住んでいる秋栖町のホテルで2人は会っている。そして、明日がその火曜日だ――。


 どうせDOMにはログイン出来ないんだ。ひとつ、こっち側で行動に出てみるのも面白いかもしれないな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

新作始めました!

『クラスの美少女に僕の子供を妊娠したと言われたけど記憶にない』

こちらもよろしくお願いします! byはな

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ