#17 モフモフのお家
俺の心の中は自分でも驚くほどに清々しいものだった。最初から迷いなんてものは無かったけど、今回の件でそれがよりハッキリとした。倒そうとしていた敵は倒すべき敵になり、自分の行動を正当化させる新たな理由が出来たんだ。悪役はやっぱとことん悪じゃないとね。良心の呵責に苛まれることも無くなるし、アリサは素晴らしい一役を買って出てくれたよ。
人間関係っていうのはちょっとしたことでヒビが入り、それがやがて大きな溝になる。小学生のときなんかは、友達と喧嘩しても先生が仲裁に入り、何の感情もこもっていない「ごめんなさい」で喧嘩は仲直りしたことになり、次の日は喧嘩したことも忘れてその友達と実際に仲直りできているんだからすげーよな、小学生って。
それなのに何時からだろう。人と人との関係がこんなにも複雑なものになってしまったのは。小さい頃はもっと世界は単純なものだと思っていた。成長するにつれて自分を取り巻く世界は何重にも絡まった糸のように複雑になってしまったんだ。そんな世界が嫌な自分もいるけど、アリサのことを許せない自分がいて、そんな俺も世界を複雑化させている一人なのだよね。
この世界は憎しみで満ちている。
しかし、あんなことがあったせいでアリサとは話しづらくなってしまったな。イコール初心者のフリをしてアリサを利用する方法はもう使えなくなったのだ。やっぱり感情に流されるのは良くなかったな、と反省。
まあプラスに捉えるとすれば、これ以上取り繕う必要も無くなったとも言える。そろそろ敵対心を明確にしてもいい頃合いだろう。何かフィロソフィを突き落とすような手を新たなに考えなくては。
『シエルー! 久しぶり~!』
俺のどす黒い思考を掻き消すような、明るい声でフレンドチャットが届く。懐かしい声、わたあめの声だった。絡みがなかったから存在を忘れかけていた……。
『モフモフか、久しぶりだな』
『パーティ組んでいることが多いからなかなか話しかけられなくて、ずっと一人で遊んでたんだよぉ』
『なんだ、気にしないで話しかければよかったのに』
モフモフは意外にも気を遣うようなタイプだったようだ。
『そうは言ってもねぇ。ほら、お邪魔しちゃ悪いでしょ?』
『はぁ? お邪魔ってどういうことだよ?』
俺は半分呆れながら返信する。
『気にしない、気にしない♪ それよりもね~お家を建てたんだよ! 良かったら遊びに来ない?』
家を建てた? 家ってとても初心者には手が出せないような金額だったはずだが、一体どうやって……。
純粋に気になった俺は、モフモフの言う“お家”に遊びに行くことにした。
≪ウェスタンベル・住宅街≫
「じゃじゃーん♪」
モフモフが両手を広げて見せてくれたのは、自分の身長の数十倍もある大きなお菓子のお家。扉や壁がクッキーになっていて、屋根はソフトクリーム、てっぺんにはサクランボが乗っている。同年代の女子が見たらSNS映えするーとか言って盛り上がるかもしれないけど、俺には食べたら胸焼けしそうな家だなあって我ながら風情の無い感想しか出てこなかった。見ているだけでも胃がムカムカとしてくる。俺はおっさんなのかもしれない。
ふと扉を見ると、武器屋の看板がついていることに気が付いた。
「あれ、モフモフ……もしかして武器屋でも経営しているのか?」
「ふっふっふ、よく分かったね。実は武器屋モフモフ店として商売を始めたんだ~!」
「マジかよ。で、景気の方はどうなんだ?」
モフモフはグッと親指を立てて見せる。この家と、反応を見るからにかなり儲かっているのかもしれない。
「ささ、外でお話もなんですから、中にどぞー♪」
「あ、ああ……お邪魔します」
モフモフの家の中は、一言で表すならお洒落な喫茶店のようだった。目の前にはカウンターがあって、その前にはテーブルや椅子が並んである。そして、カウンターの奥には立派な火炉や鍛冶道具が、壁には剣やハンマーなどが並んでいる。
へえ、本格的だなあ。これかなり金かかっているよなって思うくらいナイスなインテリア。これをユリアやモチツキにも見せてあげたら驚くかもしれない。
ギルド欄を見ると、既に二人ともログインしていたので、
「俺のギルドメンバーもここに呼んでもいい?」
「もちろんオッケーだよ!」
了承も得たので2人を誘い、モフモフの家に集まることにした。
長くなったので途中ですが分割します。




