#15 兜の緒を締めよ
敵が仲間になるっていうのはなかなか熱い展開だと思う。モチツキが加わったことにより、ディアボロスのメンバーは俺を含めて3人。良く言えば少数精鋭、悪く言えばただの過疎ギルドである。
今回のギルド戦は、敵が油断していたことと地の利を得たという2つの要因が重なったからで勝てたわけで、どのギルドを相手にしても毎回必ず勝てるというわけではない。ここで調子に乗って、手あたり次第に勝負を仕掛けるのは良くないと思う。勝って兜の緒を締めよ。こんな時だからこそ慎重になるべきだよね。
ギルドはチームワークが命だし、まずは新しく仲間になったモチツキと仲良くなることから始めなければ。ギルドを追放されたことで、モチツキは傷心しているかもしれないし、そんなギルドメンバーの心のケアをしてあげるのも信頼できるギルドマスターの役目だ。
ゆっくりと話が出来るように、戦闘中移動しなくてもいいような狩場でレベル上げをしようとモチツキを誘うことにした。
≪マーグナー熱帯雨林≫
マレットの町の東に位置するこの熱帯雨林。濃い緑色の植物に囲まれ、ジメジメとした空気がいかにも熱帯雨林って感じだった。ここにはリザードマンが数多く生息しており、プレイヤーが突っ立っているだけで次々とこちらに襲い掛かってくるほど好戦的だ。
「私をレベル上げに誘った理由、バレバレだよ」
モチツキは短剣でリザードマンの身を切り裂きながら、呆れたように呟く。
「あ、やっぱ分かっちゃう?」
リザードマンに魔法、クロスファイアを当てながら答える俺。
「どうせ私が落ち込んでいるとか思って、励ますために誘ったんだろ?」
さすが破牙の狼の元ギルドマスター殿。こういうことには鋭い。俺は正直に「そうだ」と答えると、
「……そんな私なんかの心配いらないからさ。シエルは強豪ギルドを目指すことだけを考えていろよ」
男みたいな言葉を使って強がっているけど、その口調からは明らかにモチツキの心が弱っていることが見て取れた。
「言っただろ? モチツキの力が必要だって。それに、みんなから責められているときの顔が忘れられねーんだわ。今のお前を放っておけねえよ」
俺はモチツキの心に訴えかけるように話す。
「な、なにを言い出すんだ突然……恥ずかしいな……」
「恥ずかしくても、それでモチツキの心が癒えるなら俺は構わない」
「よ、よく痛い台詞が次々と出て来るもんだ……。付き合いきれん!」
そう言ってこの場から逃げ出してしまうモチツキ。
自分でも痛い台詞なのはわかっていたけどさ、わざわざ逃げることは無いじゃないですか……。
モチツキが居なくなったことで、パワーバランスは崩壊し、瞬く間にリザードマンが俺を囲う。
「シャアァァァッ!!」
――あ、俺死んだわ。
◇
目を開くと、目の前にはモチツキの顔。
おかしいな、全滅したら町に戻って復活しているはずなのに、目覚めた場所はさっきと同じ熱帯雨林。
「さっきは勝手に逃げ出してごめん……。その、嬉しかったんだ。あんなことを言われたの初めてだったから……」
そう言って顔を赤らめるモチツキ。
ああ、そうかモチツキが逃げて、俺を生き返らせてくれたんだ。でも職業は神官じゃないし、復活魔法は使えないはずだよな。
「モチツキ……お前、わざわざ復活アイテムを使ってくれたのか?」
「あ、ああ……」
「そっか、貴重なアイテムなのに悪いな」
「き、気にするな。こうなったのも私の責任だしな。それに、仲間……なんだろう?」
「そう、仲間だ」
◇
モチツキとのレベル上げも一段落付いたところで一旦ログアウトする。
掲示板での虚偽の既成事実作りの方は順調だった。【預言者】のレスを信じる名無しさんをとっしーに演じてもらい、【預言者】は荒らしではないという雰囲気を掲示板内に作り出すことに成功していた。
そのお陰か既にとっしー以外の名無しさんも【預言者】の言葉に少数ではあるが同調し始めている。フィロソフィもDOM内では有名人だし、それなりにアンチも存在するのだろう。そのアンチを【預言者】の味方に付けることが出来たのはかなり大きい。ここから更に勢力を拡大させ、アンチ以外の人をアンチに変えることが出来れば俺の計画通りになる。
≪マレットの町≫
晩御飯を食べ終え、DOM内に戻ってきてギルドメンバーのリストを確認すると、ユリアやモチツキはログアウト状態だった。ギルドメンバーで何かをしようとか思っていたわけじゃないし別にいいんだけどね。
久しぶりにソロでレベル上げでも行きますかーと意気込んでいると、町の広場に佇んでいるアリサを発見した。そして目が合った。こうなったら見ていないフリをする訳にもいかないよね。フレンドリストを見ると、アリサは今パーティを組んでいない。フィロソフィと一緒に居るアリサだと性格悪子ちゃんになってしまうので、一人で居る今がチャンス、声を掛けてみますか。




