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#03 不意打ち

「マスター、私も危なくなったら守ってくださいよ?」


「お前は守らんでも平気やろ、ハハハ!」


「もー!」


 アリサとフィロソフィは相変わらず2人でイチャついている。居心地が悪いし、不快だ。


「フィロソフィさん、早くレベル上げの続きをしましょう。とろいのは嫌じゃないんですか?」


「んー? この煙が分からんのか? 今モンスターを集団でおびき寄せているところや」


「初心者が口を出すことじゃないよ、シエル君?」


 うっかりしていた。この煙はモンスターをおびき寄せるための煙【スイートスモッグ】だったのか……。


「……すみません」


 バカにしたような口調に対して何か言ってやりたかったが、何とか堪える。ここで関係を悪化させて困るのは何より自分なのだ。


 険悪な雰囲気の中、しばらく待機しているとフィロソフィが口を開いた。


「ぎょうさん湧いてきたな」


 炭鉱の奥は暗くて俺にはよく分からなかったが、フィロソフィはスキル【暗視】を習得しているためか分かるらしい。


「ほな、いくで! 【赤影の一閃】!」


 フィロソフィの放った赤いレーザーこと、赤影の一閃で初めて炭鉱に潜むそのモンスターの数の多さが明らかになった。


モンスターの破裂音が炭鉱内に響く。


【1130の経験値 21ヴィルを獲得】

【890の経験値 13ヴィルを獲得】

【1410の経験値 20ヴィルを獲得】

【890の経験値 13ヴィルを獲得】

【1410の経験値 20ヴィルを獲得】

【1410の経験値 20ヴィルを獲得】

【1130の経験値 21ヴィルを獲得】

【1410の経験値 20ヴィルを獲得】

【1130の経験値 21ヴィルを獲得】

【890の経験値 13ヴィルを獲得】



 驚いた。まさかこれほどの数が居るとはな……。だが、攻撃が当たったのは直線状の敵のみだから、これはほんの1部。攻撃の当たらなかった場所にはまだ多くのモンスターが残っているはずだ。


「チィ、予想以上におるな……呼び過ぎたか?」


「私も手伝いますよ! マスター!」


「お、そうか? ええ子やなぁアリサは」


 フィロソフィはアリサの頭を撫で、惚気る2人。爆ぜろ。


――――――――――

レベルアップ45→46


HP+3

MP+4

攻撃力+1

守備力+1

魔力+3

――――――――――


 そんな殺意が爆発しそうになったところで、俺を鎮めるようにレベルアップを告げるウィンドウが表示される。


 よし……。これくらい経験値を稼げなきゃこんな奴らと一緒になんか絶対にレベル上げをしない。気分は悪いけど、こいつらは俺のレベルを上げるための道具にすぎないのだ。


 2人は前方の敵を倒すことに集中している。俺はその背中を呆然と見つめていると、


「ウゥゥゥゥ……」


 そんな呻き声が俺の背後から聞こえてきた。

 まずい、先ほど倒したモンスターが既にリポップしている。フィロソフィたちは前方の敵に集中しているし、ここは俺がやるしか……!


 振り向いて杖を急いで構えたけど、今度は間に合わなかった。攻撃が来るッ! そう思ったけど、来たのは攻撃ではなく、キノコの亡者の口から臭い息が俺の顔面に吹きかけられただけだった。


「うわ……くっせぇ」


 思わず顔を背けると、そこに居るはずのフィロソフィたちの姿は無く、居たのはモンスターだけ。おかしいなと、頭に手をやると変わった感触。なんと自分の頭にキノコが生えているではありませんか。


「あれ、これって……」


 HPバーを確認すると案の定“混乱状態”になっていた。パーティの仲間がモンスターに見えてしまい、自分の攻撃が敵味方関係なく攻撃が当たってしまうという非常に厄介な状態異常だ。


 ああ、もう厄介なことになったな。


 ……いや、待てよ。この混乱状態を利用すれば、フィロソフィたちに合法で攻撃出来るんじゃね? あの2人の態度と俺にした仕打ちを考えると、蟻のひと噛み巨象を倒す、まではいかないと思うけど、ちょっとした憂さ晴らしにはなるはずだ。


 とりあえず、俺の近くに沸いたキノコの屍者を【クロスファイア】で倒す。これで俺の魔法詠唱を妨げる敵は居なくなった。


「あれ、2人とも何処に行っちゃったんだろう? 前にモンスターがいるから倒さないとなあ」


 俺はわざとらしくフィロソフィとアリサに聞こえるようにそう言って、【オートミサイル】を2人の居る前方に向かって唱える。


「待って、シエル君! 混乱状態で私たちが見えていないだけよ!」


「このドアホ……何する気や!」


 ふふふ、焦ってる焦ってる。2人は攻撃することに精一杯でこちらまで手が回らないのだろう。

 俺はお前たちの言うように初心者なんでね。混乱状態なんて知ったこっちゃ無いんだよっ! モンスターと共に死ね!


 ズドドドドドドド!!!


 魔法陣から次々と光の弾が放たれる。以前よりも魔力が上がっているので弾の数と速さも段違いだ。加えて背後からの無防備状態からの攻撃。当たったらさぞ痛いだろうね。2人のHPゲージがじわじわと減って行く。


 だが、まだ終わらない。オートミサイルの効果が続いている内に【クロスファイア】を連発する。全部モンスターに見えてしまっているので2人の居る場所は分からないけど、ここらへんだよねって勘を頼りにぶっ放す。エイム力には自信があるので無駄打ちはしない。


「きゃああぁぁぁぁ!」


「ぐ……っ!」


 2人の苦痛の声が気持ちいい!

 ここから更に追い打ちで更に魔法を唱えようとしたけどMP切れだった。残念。

強プレイヤーでも、魔法の連発には流石に応えたらしい。ここまで来ると、どちらがモンスターだか分からないな。


 一人悦に入っていると混乱状態が時間経過で解けてしまった。


 目の前には地面に横たわる2人。一応前方に居たモンスターは一通りやっつけてくれたらしい。


「あれ、2人ともどうしたの? 大丈夫ですか?」


 俺は心配するフリをして、2人の元に駆け寄る。


「混乱状態の時は攻撃すんなや……」


「すみません、まだ初心者なのでよく分からないんですよ」


 俺はニヤっと笑って見せたが、フィロソフィはそれ以上何も言わなかった。俺を初心者扱いしていたのだから反論は出来ないだろうね。


「マスター、時間が……今日のレベル上げはこれくらいにしておきましょう」


「……せやな、今日はもう解散や」


 味方から、しかもこんな初心者に2人とも苦しめられるとは思ってもいなかっただろう。

 パワーレベリングをしてもらった時間は短かったが、レベルは45から51まで上がっている。初心者サーバーでもこんなにレベルを上げている人はまずいないはずだ。

 鉄鉱石などの素材アイテムもいくつか手に入ったし、何より2人の苦痛に歪む顔を見ることが出来たのが最高だった。


「これを使ってください」

 

 ダンジョンから一瞬で脱出できるゲートを生成する魔法【エスケープゲート】をアリサに唱えてもらい、俺たちはシャルレア炭鉱から脱出する。


「2人ともありがとうございました。今日はとても楽しかったです」


 一応お礼を言っておく。楽しかったのは後半に混乱状態でフィロソフィたちを攻撃したくらいだったけど、まあ、形式上ってやつだ。


「そうか、俺たちはアンタに攻撃されたせいで散々やったわ。初心者は初心者と遊んだほうがええわ」


 不快感を露わにしながらフィロソフィがそう吐き捨てるように言う。初心者に痛い目に遭わされたのがさぞ屈辱的だったのだろう。くく……愉快、愉快。


「強豪ギルドのトップはもっと懐が広いかと思っていました」


 俺はそう言い返すと、フィロソフィはあからさまに嫌な顔をしてパーティは解散された。うーん、これではちょっと俺の感じが悪くなってしまっただろうか。いや、そんなことはないよね。なんたってSSS級ギルドセレスティアスのギルドマスター、かつ最強プレイヤーランキング3位のフィロソフィなのだから。


 そういえば、最後の方は時間を気にして何か急いでいるようだったけど一体なんだろう。疑問に思い、フレンドリストでアリサのログイン状況を確認してみると、既にログアウトしてしまっていた。

 アリサが落ちたということはフィロソフィも一緒に落ちたのだろうか。

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