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#16 傍観者シエル

 晩御飯を食べる為に一旦ログアウトして現実世界にやってきた。


 ――いや、戻ってきたというのが正しいよね。すっかりDOMが現実と化している。いいか、これがゲーム脳ってやつだ。見てるか団塊世代。


 ところが戻ってきたというのに晩御飯はまだ出来ていない、お風呂もまだ沸いていない、こんなんじゃ現実世界に戻ってきた意味ねーじゃん。無駄じゃん。かと言って、今からDOMに戻るのも微妙な時間だし、どーすんのこの空いた時間。


 ……だが、そんなときの為に文明の利器であるスマホというものがあるのだ。


 俺はスマホを手に取り、無意識にSNSアプリを起動する。


 以前、フィロソフィのアカウントを見ている状態で閉じてしまったらしく、フィロソフィのアカウントが最初に出てきた。つらつらと見返してみると、アリサとの2ショット画像が消えているではありませんか。


 俺が「いいね」を押してしまったので危機感でも感じたのだろうか。それとも見つかるとやばいことを自覚し始めたのか。どちらにしても無駄なことだ。俺のスマホには既にその写真を保存してある。しかも、フィロソフィのIDが載っているスクショ付きで。


 俺のアカウント欄に戻ると、アリサが友達としてまだ残っていた。恋人だった頃と変わらないアイコン画像。時間が止まったように何もかもがそのままだった。


 しかし、2垢目でもDOMでアリサと会うことになるとは思わなかったな。これが運命で繋がっているというものか。皮肉なものだね。


 今ここで通話ボタンを押せばアリサに繋がるのだろうか……。一瞬、そんなことを考える。


「ふ、何を考えているんだ俺は」


 アリサは俺を裏切った。だが、これからは俺がアリサを一方的に利用していく。そしてフィロソフィを打ちのめすための駒となってもらうのだ。


 そうだな……まずは、俺はガチ初心者を装ってアリサにパワーレベリングをしてもらおう。ちなみにパワーレベリングというのは、レベルの高いプレイヤーが、レベルの低いプレイヤーのレベル上げを手伝うことにより、通常よりも高速でレベルを上げることが出来るというものだ


 アリサがそれを断る可能性は低い。なぜなら、俺はアリサのことを断れない女だということを知っているからだ。もし断るようなことをすれば、「そういえばSNSであんな写真を見たんですけどー」って言ってフィロソフィとのあの写真をちらつかせて脅せばいい。スクショを撮ってスマホに保存してあるのでいつでも拡散する準備は出来ている。アリサ、お前の顔にはモザイクが掛かっていなかったよなぁ?


 それからのことは……ま、その時考えればいいか。とにかく今の俺に必要なのは力を付けることだ。



 晩御飯とお風呂を済ませて再びログインしたのだが、アリサはログアウト状態だった。


「なんだよ、早速パワーレベリングしてもらおうと思ったのに。使えねえな」


 まあ、この時間は飯時だからしょうがない。アリサがログインするまでソロでスキルの習得でもやっておくか。


 俺が向かったのはウェスタンベルの北に夜だけ出現する敵、“インプ”。スキル習得の道場とも言われるモンスターだ。


 インプは睡眠、麻痺、混乱の技を使ってくるので、耐性の習得や、スキルレベルを上げるには最適の敵だった。その上それほど強い敵でもなく、戦闘を早く終わらせることが出来るので、戦闘後のスキル習得の抽選を何回も行えるという利点がある。


 だが、なかなか新スキルを覚えてくれない。手に入れた閃きリングも装備したし、習得するための条件は頭に入っている。どうしても確率の壁を超えることが出来ずにいた。


「クソッ! 何故覚えない……!」


 イライラしながらやるのは精神衛生上良くない。どんな時でもクールでいるのが俺の生き方であり、ポリシーであり、哲学なのだ。だからこれもレベル上げになるんだと自分に言い聞かせて、どうにか意味を持たせながらやっている。やっているけどやっぱりイライラする。イライライラ。



タツヤ

「こんちゃー」



 アリサではなく、ギルドマスターのタツヤがログインしたようだ。イライラ。



シエル

「こんにちは!」


ユリア

「こんにちは」


たろー

「こんちわ!」


 …………



 いつも思うんだけど、元々チャットが少ないギルドで、挨拶の時だけこう賑やかになるのがちょっと可笑しい。かと言って、たいきみたいに片言を連投されるのもどうかと思うな。もっと会話らしい会話で盛り上がってほしいものだね。


 いや、そもそも俺みたいな受け身の人間が多いから会話が無いのか。


 不満に思う人が俺だけならいいのだけど、他のメンバーも同じような不満を持っていたらそのうちギルドを抜ける人も出て来るんじゃないか? もっとメンバー同士で親睦を深めたらどうだろうか。



タツヤ

「今日も勧誘頑張るぞー!」



 ギルドマスターのタツヤはログインしたらずっと街でギルドの勧誘をしている。賑やかになるにもギルドメンバーが必要なのはわかるけどさ、いや、実際にメンバーは増えているんだけどさ、入った後、ギルドの活動らしい活動を全くしていないじゃないですか。


 この前だってユリアの誘いを断ってギルドの勧誘していたじゃん。これじゃギルドに入っている意味がないじゃん。なんて脳内で愚痴っていても何も変わらないし、こうやってスキルを覚えない苛立ちを人に向けるのは良くなかったね、反省。


 スキル習得はもういいや。これからパワーレベリングするなら、せめてワープリングでその場所に行けるようにしておかないと。


 俺は一度街に戻り、ウェスタンベルの西から更に進んだ場所にあるバザク荒野まで移動しておくことにした。



さくらひめ

「はじめましてぇ(´▽`*)」


「みんな仲良くしてにゃ♪」



 街を出たちょうどその時、ギルドに新メンバーが加入した。名前はさくらひめ。


 俺には分かる。初対面にして「にゃ」なんてあざとい語尾。チャットでの露骨な顔文字。自分の名前に“ひめ”なんて付けてしまうやべーやつ。こいつはギルドに変革をもたらす者だ。



さくらひめ

「もーっ。ゴブリン強すぎにゃ!」


「さくらひめ負けちゃうかも~」



 負けちゃうかも~。

 黄色い声で脳内再生される。いい、いいぞ。みんなもこれくらいチャットで発言してくれればいいのだ。そしてチャットで俺を楽しませろ。



さくらひめ

「いや~ん、ひめピーンチ!」



 …………。



さくらひめ

「やった。ゴブリンやっつけたにゃ☆」


「みんな褒めてぇ~」



 ……しばしの沈黙。



タツヤ

「すごい!」


シエル

「すごい」


ユリア

「すごいです」


さくらひめ

「ありがとにゃ♪」



 ……これって俗に言う、ぶりっ子ってやつなのでは?



さくらひめ

「これからお城で受けるクエストのボス倒しにいきま~す。一緒に行ける人ぉ?」


たいき

「ボス弱いよ」


「まじ楽勝だった」



 チャットにたいきまで参戦してきたか……カオスになってきたぞ。


さくらひめ

「へぇ~そうなんだ! それより一緒に行ける人ぉ?」


たいき

「ひとりでも余裕」


さくらひめ

「んー、でも私はみんなと一緒に倒したいのにゃ(>_<)」


たいき

「あっそ」


タツヤ

「手伝うよ >>さくらひめ」


さくらひめ

「やったぁ。マスターありがトン♪誘って誘って♪」



 初めて勧誘以外のギルドマスターらしい仕事をしているのを見た気がする。


 以前なら俺も喜んで手伝いに参加したのだろうけど、これからの俺は非情な復讐者として生きていくことを決めたんでね、参加は見送らせてもらう。


 それに、もうボスを倒してしまっているので、報酬も貰えないし手伝うことのメリットは何も無い。


 俺はあくまで傍観者、傍観者です。


 ――と、俺が傍観者を気取っている内にアリサがいよいよログインしたようだ。

ちなみにこの作品でのSNSは、LINEとTwitterを合体させたようなものだと思って下さい。

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