表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/70

#11 雪の妖精

 ――次の日


≪王都ウェスタンベル≫


 ギルド欄を確認してみると、驚くことにギルドメンバーが8人に増えていた。既にログアウトしている人もいるが、俺が入った時にはギルドマスターのタツヤと、俺を合わせて2人しか居なかったのだから、あれからタツヤ頑張ったなーと心の中で褒めてやる。


 ログインしたらギルドチャットで挨拶をするのが暗黙のルールみたいなもので、新規の冒険者たちにそれが根付いているかは微妙なところだが、全ては挨拶に始まるって言うし、元気に挨拶をしてみた。


シエル

「こんにちは!」


 こんにちはー、って複数のギルドメンバーから挨拶が返ってくる。やっぱり挨拶するのは気持ちがいいね!


 因みにギルドチャットは音声ではなく、誰かが発言すれば、視界の右上に文字として表示される。なぜ音声では無いのか。もし、ギルドチャットが盛んに行われるギルドなら、四六時中チャット音声が聞こえてくることになるんだ。うるさくてたまったもんじゃないだろう。


 さて、この世界に戻ってきたからにはやることは1つ。とにかく強くならねばなるまい。強い憎しみを抱いたからといって、漫画みたいに覚醒して第二フォームに変身を遂げて、敵をメッタメタのゴッチャゴチャに無双出来るほどこの世界は楽じゃないことを知っている。これはゲームの中ではあるけれど紛れもない現実なのだ。


 雨だれ石を穿つ。強くなるにはやはり、コツコツとやっていくしかない。


 再びソロでプルプルドッグを倒してレベルを上げようと、狩場に向かおうとした時だった。


『シエル! 街に着いたよ! 今何しているの~?』


 フレンドになったモフモフからフレンドチャットにて声が掛かってきた。


『これからレベル上げをするところだよ』


『レベル上げしたい! 一緒に行ってもいいかな~?』


 プルプルドッグはソロ向けの狩場だから、もし一緒に行くなら他のモンスターに変更しないといけない。俺のレベルは21。戦闘ではモフモフもいい動きしてくれるし、ちょっと冒険してみてもいいかもしれないな……。


『分かった。一緒にいこう』


『やったー!』


【“わたあめ”がパーティに加入しました】


「えへへ、よろしくね」


 意外にもモフモフは俺の近くに居たようで、マップで俺の位置を確認しながらこちらにトコトコと走ってきた。


「おっす。しかし、よく一人で街まで来れたな」


「でしょー! 頑張ったんだから! レベルを上げながら来たからレベルも11に上がったよぉ」


「やるじゃん。これなら強い敵のところでレベル上げも出来るよな?」


「あまり強いところはやめてぇ」


 なんて他愛もない会話をしていたら誰かがギルドチャットで発言したようで、視界の右上にメッセージが流れてきた。



ユリア

「どなたかレベル上げ一緒に行きませんか?」



 ユリアという名前からするに女性だろうか。せっかくギルドに入ったんだ。ラジオ感覚で聴くギルドチャットが目的とはいえ、交流もないようでは失礼だろう。目的としても一致しているわけだし、彼女も一緒に誘ってみようかな。



シエル

「俺もこれからレベル上げをするところなんだけど来るか? >>ユリア」


ユリア

「本当ですか? ありがとうございます」


シエル

「それじゃパーティに誘うな」



 ギルドメンバーの欄からユリアを誘う。ギルドチャット中の俺が、ぼーっと突っ立っているように見えたのか、モフモフは不思議そうな目で俺を見つめていた。


「モフモフ、もう一人レベル上げを一緒にする人が来るから」


「おおっ! どんな人かなぁ?」


【“ユリア”がパーティに加入しました】


『よろしくお願いします』


 ユリアは俺たちの居る場所から少し離れた場所に居たので、パーティチャットにて挨拶をする。


『よろしく、ユリア。もう一人いるのが“わたあめ”っていう最初の村で出会ったフレンドだ。俺はモフモフって呼んでいる』


『よろしくね~。モフモフだよぉ』


『準備が出来たら町の北口に集まってくれ。俺が良いレベル上げ場所を調べておいたから案内するよ』


『分かりました』


 調べたというのはもちろん嘘。あらかじめ知っていた中盤の狩場である。パーティは最大4人まで誘えるのだが、他に来る人はいないだろうか。ギルドチャットで声を掛けてみることにしよう。



シエル

「他にレベル上げに行ける人はいないかな?」



 しばらく返答を待ってみたが何もアクションが無い。「しーん」という効果音が聴こえてきそうな雰囲気だった。そんな雰囲気を察したのかユリアはギルドチャットでもう一度呼び掛けてくれた。優しい。



ユリア

「あと一人募集しています。行ける方はいませんか?」



 沈黙。みんなギルドチャットのやり方知らないのかな? いや、でも挨拶は返してくれたわけだし、知っているはずだよね。


しばらく待って、ようやくギルドマスターのタツヤが返答してくれた。



タツヤ

「ちょっとギルドの勧誘で忙しくって。今は無理だな」


ユリア

「分かりました。また今度お願いします」


 …………



「どうしましょう?」


 声が目の前でしたので驚いた。


 そこにはまるで雪の妖精が降り立ったような、美しい銀髪のエルフ。ユリアが目の前に立っていた。


 エルフのアバターってこんな可愛いキャラも作れるんだな……。


 一瞬目を奪われかけたけれど、すぐ我に返る。


 いやいや、エルフの少女なんて見ると、フィロソフィのことを思い出して嫌な気分になってしまうんだ。この子もどうせネカマなんだろう。この子に限らずだが、他のプレイヤーとはあまり深くは付き合わず、浅く、ほどほどの距離を保つようにしたいね。


「あの……」


 いけね、俺に訊いていたんだっけ。


「はっはーん、さてはしえるぅ。ユリアちゃんに見惚れて声も出せないんだな?」


 そう言って、俺の足元でぴょこんと跳ねたのはモフモフだった。


「そんなことよりも! 他に行ける人が居ないみたいだから今回は3人で行くぞ」


 2人の了承を得て、俺たちは町から出る。道すがら、ユリアのステータスをこっそり確認してみることにした。


―――――――――――――――――――――――――

所属ギルド《光の冒険団》


【プレイヤー名】ユリア

【種族】エルフ

【職業】神官 Lv.8


【ステータス】

HP:93 MP:60

攻撃力:18

守備力:23

魔力:75

器用さ:36

素早さ:30

―――――――――――――――――――――――――


 これはツイている。回復役の神官が居るとなれば戦闘はかなり楽になるぞ。


≪コーラル湖≫


 そうして、俺たちが向かった先は王都ウェスタンベルの北に位置する大きな湖。コーラル湖。


 ここはプルプルドッグよりも遥かに強い敵が出現するエリアである。今の俺がここで一人で戦うとすれば、少々厳しいものになるだろう。だが、三人寄れば文殊の知恵と言ったところか。それぞれの職業の特徴を生かして戦っていけば、短時間で膨大な経験値を手に入れることが出来るはず。そう踏んだのだ。


 ここのフィールドには、シャボン玉の中に隠れているようなモンスターや、鋭い角の生えたカンガルーのようなモンスターがうろついている。どれも俺たちのレベルでは適正ではない強さだ。


「うわあ、見たことのないモンスターがいっぱい」


「ここに来たのは初めて……大丈夫かな」



 モフモフは新しいモンスターに目を光らせているが、ユリアは不安そうに顔を曇らせているのが対照的だった。


 彼女がプレッシャーを感じるのも無理も無いだろう。回復役の神官はパーティの生死を分ける重要な役割を担っているのだから責任重大だ。


「ユリア、仲間なんだし、そう気を張る必要は無いぜ。俺たちがサポートするよ」


「えへん」


 モフモフが自慢げに胸を張る。


「ありがとうございます。私も足を引っ張らないように頑張ります」


 ユリアの目に決意の光が宿る。


「狙いのモンスターはこれと言って無いから、辺りをうろついているモンスターに手あたり次第に戦闘を仕掛けていく乱獲ってスタイルになるだろう。2人とも、準備はいいか?」


「はいっ!」


「はーい!」


 2人のやる気に満ちた返事を聞いて、俺たちはモンスターの群れに突っ込んでいく。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

新作始めました!

『クラスの美少女に僕の子供を妊娠したと言われたけど記憶にない』

こちらもよろしくお願いします! byはな

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ