エレベーターガール 佐久間さん
西暦2180年 東京 大型ショッピングモール《モモルフ》
私、佐久間 要はエレベーターガールである。
エレベーターガールと聞いて、大半の人はこんなイメージを持っている筈だ。
『エレベーターのボタン押すだけの簡単作業する人』
もしそんな事を言う人が身近に居たら、出来るだけ硬い物で後ろから襲って欲しい。
エレベーターガールの仕事は断じてそんな楽な仕事ではない。しかし愚痴を淡々と零すのもアレなので、本日は実際に私の仕事の一部始終をご紹介しよう。
「何階でございますか?」
「ぁ、はいっ!」
というわけで早速来た。
私が何階ですか? と尋ねているにも関わらず、相槌しか打ってこない客。
え? そんな奴いる? と思われるだろうが、実は結構いる。
私の美貌に見惚れて言葉に詰まってしまうのは分かるが、それでもこちらの質問に答えてくれなければ仕事にならない。
「何階でございますか?」
「はい! な、南海でございます!」
何言ってんだ、コイツ。
もしかして“南海”さんなのか?!
不味い、どうしよう……「何階?」と聞いても「南海じゃ」としか返答が来ないでは無いか!
こうなったら……
「行先は、何階でございますか?」
「え?! 行先が……僕の家?! そ、そんな……お姉さん積極的すぎ……」
何いってんだ、コイツ!
誰も逆ナンしてないわ! っていうかお前は今何に乗ってんだ! エレベーターだぞ、エレベーター!
あかん、分かってたけどイライラしてきた……
ここはもうハッキリと……
「お客様、どちらの階になされますか?」
「え、えっと……お姉さんの好きな所で……」
OK、わかった。
もういい。屋上駐車場までご案内だ。
※
「何階でございますか?」
次にやってきたのは両手に荷物を抱えたお客様。
こういう時こそエレベーターガールが必要になってくるだろう。両手が塞がっていてはボタンも押しにくい筈だ。余談だが、日本最古のエレベーターは函館にある。最も、この小説の時代設定は2180年だが。
「あー、食事がしたいんですけど……フードコートが入ってる階で……」
「畏まりました。では十二階へ参ります」
先程の客とは打って変わって普通だ。
はっきりと目的さえ言ってくれれば、私達エレベーターガールはこのショッピングモールを熟知しているゆえ案内する事も出来る。
「昼食何にしようかな……オススメのお店あります?」
むむ、オススメを聞かれた。
仕方ない、前の飲み会で味噌カツ屋の店主に奢って貰ったし……そこオススメしておくか。
「味噌カツなど如何でしょうか。とても大人気で……」
「あ、僕味噌味苦手で……すみません」
あらー。
ごめんよ……味噌カツ屋の店主……五次会まで行って全部奢らせたのに……
もう単純に私のオススメでいいか。
「麻婆豆腐など如何でしょうか。本格中華の……」
「あ、僕辛いの苦手なんで……すみません」
ダメか……!
まあ、私もそこまで辛いの好きじゃないから気持ちは分る。
みそ味が苦手、辛いのも苦手……じゃあ……
「パスタなど如何でしょうか。ケーキバイキングもサービスで……」
「ぁ、僕麺類食べると次の日……寝ぐせが凄くなっちゃうので……すみません」
寝ぐせが凄くなっちゃうのか!
それは大変だ。私も寝ぐせを直すのに結構苦労するから分かる。
ならどうする……こうなったら……
「お好み焼きなど如何でしょうか。ソースの香りが食欲を……」
「ぁ、僕お好み焼き食べると巨大化するんで……すみません」
巨大化するのか……!
どのくらい巨大化するかは分からないが、建物が破壊されては困る。
っく、こうなったら……
「オムライス専門店など如何でしょうか。極上のフワトロ卵が大人気で……」
「あ、僕オムライス食べると……お姉さんの事が好きになってしまうので……」
「じゃあ絶対に食べないでくださいね」
その後、男は泣きながらパスタ屋へと走っていった。
ケーキ食べ放題だからな、一杯食べなっ!
あと寝ぐせ直しも忘れずに買ってけよっ!
※
「何階でございますか?」
トドメの客は可愛らしい……パンダと男性と小学生くらいの女の子。
「ぁ、香君、こまったねぇ……お姉ちゃん、買い忘れた物があるのを思い出してしまったよ」
「え、何買い忘れたの、姉ちゃん……」
ふむ、どうやら姉弟のようだ。
しかしパンダが姉とは……モフモフし放題じゃないか、うらやましい。
「うーん、何を買い忘れたのか……思いだせないよ。どうしましょう……お姉さん」
「……ん?!」
いきなり話を振られて困惑する私!
どうしようって言われても……思いだしてもらうしかない! じゃないとエレベーターが動かせないじゃないか!
「姉ちゃん、エレベーターガールのお姉さん困らせちゃダメだよ。ほら、早く思いだせや」
「うーん、何だったかな……ぁっ、私の毛に関係する商品だったような気がするよ」
毛? パンダの毛に関する商品?!
そんなマニアックな商品取り扱ってる店あったか?
「姉ちゃんの毛……ブラッシングする奴?」
あぁ、成程。
ならペット関連の……
「違う違う。もっとこう……毛根から溢れんばかりの希望を持った商品だよ」
パンダの毛根から溢れんばかりの希望をもった商品……。
この建物内にそんな意味わからん物体があるのだろうか。なんだか物凄く気になるが。
その時、小学生くらいの女の子がパンダの尻尾を鷲掴みにしつつ、クイクイっと引っ張る。
どうやらパンダを呼んでいるようだ。
「ん? 何、紗弥ちゃん」
「みみかき」
「あぁぁあぁぁあ! そうだ、みみかきだ! 昨日、笹と間違えて食べちゃって……」
おおおおい!!
パンダの毛とか……毛根から溢れんばかりの希望とか……なんだったんだ!
みみかきの何処にそんな要素が……!
「というわけでお姉さん、みみかきが売ってる階にお願いします」
「畏まりましたー、雑貨屋コーナーのある三階へ参りますー」
こうしてエレベーターガールとしての私の仕事は続いて行く。
不愉快な事は勿論ある。辛い事も、泣きたくなる事も。
だからまた……何か愚痴るかもしれない。
というわけで……またのご利用をお待ちしております。