死体と手紙
ーー翌日。
「おはようございます!」
「おはようございます料理長!」
従業員達が一斉に挨拶をしてくる。
「……おはよう…………」
肩を落としながらそのまま事務所へ向う。
たぶん顔は真っ青だったと思う。
昨日は一睡もしていない。
明らかにいつもと違う雰囲気に違和感を覚える従業員。
いつもなら
「おはよーーう!」
と軽快に挨拶し、特に女性従業員には手の甲にキスをするぐらいのハイテンションぶりではないが、今日はいつもと違う。
もちろん言うまでもなく昨夜のことが原因だ。
事務所の自分のデスクに辿り着く。
そして浅く腰を下ろし、ため息をつく。
「はぁ詰んだ……終わりだ……」
余命もあと30日か。
さらば俺の薔薇色の日々。
失われた青春。
スタンドバイミー。
ドアをノックする音がする。
そのすぐ後に従業員の女の子が入ってくる。
「本日のスケジュールです」
「机の上、置いといて…」
もう先日の事が頭から離れない。
「えっはい。失礼します…あの…」
「ん?どうした?」
「あっいえ。ただお身体の調子悪いのかなと…」
彼女の控えめで優しい声が部屋中を暖かく覆い包む。
「大丈夫。心配かけてごめんな」
「なら良かったです。失礼します」
みんなに心配をかけるなんてオーナー失格だな。
父さんが生きていたらなんて言われるか。
そこに追い打ちをかけるようソレがやってくる。
それはまるで閻魔の使者。
遣閻使のよう。
やっぱり来たか。
ソレは鋭い嘴で窓を叩く。叩き続ける。漆黒の翼を生やし、両翼は空を切り裂くためにある。鋭い爪は獲物を捕らえ、鋭利な嘴で獲物を食らう。
そう地獄の使者 鴉だ。
鴉は手紙を加えていて、俺が受け取るとすぐさま飛び立っていった。
俺は自らの震える手を抑制しつつ恐る恐る封を開ける。
ーー四ッ星 蓮 殿ーー
この度はお勤めご苦労様です。早速ですが、先日の依頼についてのご通達です。貴殿はターゲットを取り逃がしました。そして依頼を達成できませんでした。規約違反、故に本日より30日後に貴殿の御命を取り立てに行きます。30日以内にターゲットを再度殺害する事。そして、ターゲットが誰にも一連の事を外部に漏らしていなければ、貴殿を無罪放免とする。それでは健闘を祈ります。
ーー殺し屋労働組合 理事長 秘書ーー
手紙は”殺し屋労働組合”からだ。
この手紙は間違い無く俺の人生を終わらせるための、死神からの手紙だった。