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シェフの処方箋  作者: ソルファ
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男と死体


気づけば従業員全員が帰宅し、残るは俺だけになった。

時刻は23時ちょうど。

そろそろ時間だろう。

先ほどのガトーショコラのお客さんの死亡詳細はこうだ。

本日7月15日、23時45分ちょうど。ここから徒歩約10分の泥沼公園で身体の異変に気付き、トイレに駆け込もうとしたが間に合わず公園内の草むらでそのまま倒れて死亡。死因は心臓麻痺と糖尿病と巨大口内炎をブレンドした俺オリジナルの死因=ハートスイートチョコレートボム。

さすがに、早急な依頼すぎて死因が特定される危険性があったため、敢えて複雑にした。もちろん口内炎は遊び心だ。


我ながら完璧な味付けだ。

そのまま帰って寝ようとしたが、

一応念のため死体を確認しに行くことにした。

いつもは死体の確認なんかしないのだが、

この日は何故かすることに。


レストランに鍵をして表に出る。

今夜も一段と暑苦しい。

昼間とは違ったドロっとした熱が身体にまとわりつく。

そんな熱帯夜の中、公園まで歩いて向かう。

レストランから泥沼公園まですぐだ。

公園に到着するとまず、当たりを確認する。

さすがにこんな時間には誰もいるはずがない。

そしてトイレの近くの草むらを探す。

万が一誰か来るとやっかいだ。

手短に済ませなければと思っていると、草むらに人のようなものを見つける。

そこに倒れていたのは、例の45番テーブルの男だった。


死亡確認。


誰かに見られるとまずい。

明日も早いし、とっとと帰ろう。

すると、死体の近くで微かに物音がする。


ーーザザッーー


今なんか物音がしたような?

まさか死体が動くわけないよな。

そうだよきっと野良猫だよ。


俺はゆっくりと振り向いた。

ベタなホラー映画ばりにゆっくりと。

しかし次の瞬間そのまさかの光景が飛び込んできた。

まるで生まれたての小鹿のようにヨロヨロと動き出す死体。


なに?生きてる!


名探偵のように頭をフル回転させる。

そんな馬鹿な。あり得ない。

しっかり”調味料”は分量通り。

生きてるはずがない。

使用した調味料を思い出すがこれといってミスはなかった。

毒耐性か。

いやいやフルフルじゃあるまいし。

頭の中で謎という名の渦がどんどん広がっていく。

こんなことしている暇はない。

急いで死体の方に走る。

もちろんトドメを刺すためだ。

もちろん自ら手を汚すなんて不本意だし、

もちろんそんなことをしたことがない。

しかしこの状態で思考を巡らせる余裕もなく、俺は全力で死体に飛び込むしか頭になかった。


死体も俺に気づいたのか、全力で走っていく。

しかし毒のせいかヨロヨロと蛇行しながら走るそれはまさに子鹿そのものだった。

それでも子鹿なりに全力で走ろうとしている。


勝機。


俺の頭の中には、

『コロス』

の三文字しかない。

一気に仕留めてやる。


だが、俺はとても大切なことを忘れていた。


俺は足が非常に遅かった……。

どれくらい遅いかと言うと、

通勤ラッシュの早歩きのサラリーマンより遅い。

チョ○Qよりも遅い。

それは当たり前だ。

兎に角、亀よりは早いが、ものすごい遅いのだ。


一向に蹌踉めく死体にも追いつかない。

全力で走るのに必死で、

気がつくと死体は姿を消していた。


『……………』


「NOーーーーーーー!!」

やばいヤバイヤバすぎる!


沈黙の後、思わず心の中で大声をあげてしまった。


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