もし水滝柏が夢伽莉斗作「愛した人を殺しますか? ―はい/いいえ」の拷問シーンを書いたら
この短編小説は、Twitterでの企画に便乗し、夢伽莉斗様の小説「愛した人を殺しますか? ――はい/いいえ」https://ncode.syosetu.com/n7836el/より、「第11話 拷問」の一部分を私の文章の書き方でリメイクしたものとなります。
※物語中盤の話をリメイク対象として選択しているため、先に夢伽様の小説をお読みになることを推奨します。
※グロテスクな描写があります。夢伽様の小説では回避できるようになっていましたが、この二次創作はグロテスクな箇所だけ抜き出しているので避けようがないです。苦手な方はブラウザバックでお願いします。
ラムズはルドから視線を外す。どうやら、彼は違うと判断したらしい。
その根拠は第三者であるメアリには全く分からなかった。そもそも、何故獣人を犯人と見極めたのかも分からない。
「――たしかに、お前は違うみたいだな」
「はい!」
ジウも少し訝げに見ていたが、頷くルドのことを一目見ただけで何となく理解したようだった。
メアリ自身も、あのラムズが間違えるとはあまり思っていない。ということは、やはり違ったのだろうか。
ラムズは再び宝石を盗んだ獣人に向き直る。
獣人は震えている。耳は萎びて、まるで生気が吸い取られているよう。何をとは言わないが、あの一物もさぞかし縮こまっていることだろう。
獣人は何かを呟いている。掠れ声かつ震えているせいか、何を言っているのかは理解できなかった。だが表情から察するに、きっと懺悔の言葉なのだろうとは思う。
窃盗をしたせいでこうなってしまったのは理解しているが、それでもメアリは獣人の怯える姿に哀れみを覚えた。
「おい、お前ら見てろ。俺の宝石を盗んだやつの末路をな」
ラムズは不敵に嗤う。その不気味な冷笑が、さらに目の前の獣人を震え上がらせる。まるで尻尾に電撃が走ったように、獣人の毛がぶるりと波打った。
まだ先ほどの拷問の痛みに苦しんでいた船員たちだが、彼の命令が響くと同時、痛みを忘れたかのようにそちらに目と耳を向け始める。それくらい、ラムズの声には強制力があった。
さらに今回の声にはほぼ明確に殺気がこもっている。その冷たい声が鼓膜を震わせた瞬間、メアリでさえも刃物で背中をつうっと撫でられたような錯覚を感じた。
ラムズの不気味な笑みは、まるで毒虫の姿をした魔物なんかが辺りを取り囲み、今にも押しつぶそうとしているかのよう。それくらい、彼の顔は恐ろしい。神経を震え上がらせるためには、その笑みと声だけでも十分だ。
「いいか? 拷問ってのはな――」
そして彼は、冷笑を浮かべたままカトラスを抜刀すると、
「――こうするんだ」
恐怖で縮こまっていた一物を、ものの一瞬で切り取った。
「いあぁあぁぁぁああぁぁああ゛!!」
男のものとは思えない甲高い叫び声が響く。それからやや遅れて、獣人は大量の血飛沫を伴いながら甲板にばたりと倒れ、そして気が狂ったかのように床で激しく転げ回った。
「おい、こっち見ろよ」
転がる被虐者を片足で踏みつけ、嗜虐者は楽しそうに嗤う。
獣人の目玉は今にも飛び出しそうなほど見開かれている。顔全体が真っ赤な血で汚れて、それが恐怖に震える顔を更に鮮烈に引き立てている。
幸いにも尻尾はまだ無事だが、耳はすでに血塗れだ。茶色い毛が血と混じり、乾いて凝り固まっている。
無論、その凄惨な光景に周りの船員たちも顔が引きつっていた。
ラムズは倒れている獣人の身体を引っ張り、無理やり立たせる。嘲笑の載った声で、わざとらしいほどゆっくり言った。
「口を開けろ」
ドスの利いたその声に操られるかのように、獣人は為す術もなく口を開ける。抵抗する気力はもはやないと見て取れる。
そして彼は獣人の口の中におもむろに片手を突っ込み、舌を思い切り掴む。
そして、
「いぎゃああああぁぁぁああああっ!!」
ブチッとわざとらしく音を立て、一気に舌を引き抜いた。
その途端に口から噴き出す血飛沫。それには目もくれずラムズは舌を床に投げ捨て、続けざまにカトラスを口に差し込み、それをぐいと真横に引いた。
男の口が裂ける。
声にならない叫びが船内に響く。
しかし、拷問はまだ終わらない。
ラムズは投げ捨てたはずの舌を拾い上げ、それを獣人の目の前で食べる。しばらく咀嚼を続けた後わざと音を立ててそれを噛み砕き、獣人の口の中めがけ吐き出した。
ぐちゃぐちゃとした食感と鉄錆のような味を一斉に受け、獣人は目を白黒させながら、ラムズの方に焦点を合わせる。
それに反してラムズは小首を傾げ、嗤う。
「飲み込め」
獣人の口は酷い有様だ。舌も無い人間に飲み込めるはずがない。だが彼の冷たい視線が怖いのか、必死に喉に通そうとしている。その度に口の中からどぴゅりどぴゅりと血が吹き出していた。
さっきの傷はかなりの痛みを伴っているはずだが、獣人はもう叫ぶのを忘れている。何度も何度も害されたことにより、痛みが麻痺してしまったのかもしれない。そうメアリは思う。
しかしラムズはまだ拷問をやめない。
冷笑を浮かべながら、新たな拷問に踏み入ろうとしていた。
「おい、カトラス寄越せ。一番切れ味の悪いやつだ」
「はあい」
この状況下で、普通でいられるジウも相当おかしい。人間の感情をあまり知らないメアリでも、この惨劇には足の震えを堪えられずにいるのに。
先ほどから冷や汗が一向に止まらない。気持ち的には冷静だが、身体は確かに怯えていた。
ラムズは錆びたカトラスを受け取ると、あの冷えた笑いと共に獣人へ視線を突き刺す。
「何をするか分かるか?」
獣人は頭を振ろうとしていたが無理だった。でも震えているから、振っているように見えなくもないかもしれない。
なお、振っているように見えるのはあくまでも頭部。当たり前だが、尻尾を振っている訳がない。
ラムズは錆びたカトラスを手に取って、思い切り獣人の心臓の辺りに突き刺す。赤錆色の刃は、ドスっという音を立て獣人の身体の奥底に深く潜り込んだ。
だが、流石は錆びたカトラス。深く刺さっているように見せかけて、実際は全然刃先が埋まっていない。
奥には到達していないとはいえ、刃に身体を貫かれていることに変わりはない。獣人は焼け付くような痛みの連続に耐えかねて体を動かそうとしているが、がっちりラムズに捕まえられていた。
声は舌を切り取られた時からすでに枯れてしまっている。今はただ、言葉として成立していない叫び声が谺しているのみだ
ラムズはそのまま、刃先をぐりぐりと身体の奥へと差し込んでいく。
刺した位置はあくまで心臓の近くであり、心臓に刺した訳ではない。そのせいで獣人はまだ死ねていなかった。
尤も、拷問を受け続けた獣人はもうとっくに気絶寸前だったが。
ここで、長い拷問にようやく終止符が打たれることとなる。
気絶する前に殺ってしまおうかと思ったのか、ラムズは刺したカトラスを一旦抜くと、切れ味のいい普通のカトラスに持ち替えた。
ラムズは餌を前にした犬のように、ギラギラした眼で獣人を見る。
身体の真ん中に空いた穴に今一度カトラスをずぶりと差し込む彼。そのまま思いっきり縦にカトラスを振るう。
鋭く輝くカトラスの刃先は皮膚を内側から引き裂き、体の中の内臓という内臓をバラバラの状態で飛び散らせた。
獣人の顔は血だらけ、体は見るに耐えないほどグロテスク。
濁った血液がだらだらと身体から流れ服や髪の毛を真紅に染めている。飛び出た内臓はどれも気味の悪いピンク色で、奇妙なみずみずしさをもってあちこちに散らばっていた。
散々拷問を受け続けた被虐者は、すでに死んでいた。
「片付けとけ」
ラムズは自分のカトラスを懐にしまうと、割と自身の近くにいたジウに向かって言う。命令を受けたジウはいつも通り楽しそうに歩きながら男の死体を始末し始めた。
しかし彼ら以外の船員たちは、まだ固まったままだった。