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第九話 食べ歩き

「そこの兄ちゃん! 隣の彼女さんにどうだい!」

「うん? アクセサリーか?」

「かっ彼女です!?」

「そうだよ! こいつはすごいぜ! なんて言ったってミスリル製だ!」

「ミスリル、ですか」

「おうともよ! 聖銀って言った方が分かりやすいか? ともかく贈り物にはピッタリさ!」

「へ~、うちにあった本で読んだことあったけど、これがミスリルなのか」


 店員が見せてくる十字架のネックレスは中心部が特に輝いているように見えるが、それ以外は普通の銀に見える。

 見た目は銀もミスリルも変わらないのだろうか。


「そのミスリルを使ったアクセサリーがなんと銀貨五枚! お買い得だろっ!」

「そ、そうなのか?」

「そうそう! 普通ミスリルを使ったアクセサリーなんて銀貨十枚はするからな! 彼女さんが喜ぶこと間違いなしだぜ!」


 いや、最初から値段知っているんじゃ意味がない気がするんですけど。

 でもミルフィーたちのお土産にはいいかもしれないな。


「レオ、ダメだよ。そのアクセサリー、中心部以外は全て普通の銀だ。彼は嘘はついていないけど本当のことも言っていない」


 買おうか迷っていたところにアルからストップの声がかかる。


「おっと? あんたはこの兄ちゃんの護衛か?」

「そんなところです。 そのアクセサリー、中心部分にしかミスリルが使っていないようですが?」

「……はは。よくお気づきで?」

「それでは失礼」


 アルに腕を引かれて俺達はアクセサリー屋から離れる。


「サンキュー、アル」

「ああいうの、本当にあるんだね。僕も聞いただけだったからまさかとは思ったんだけど」


 二人でうなずき合っているところに竜牙さんが声をかけてくる。


「ああいう連中は多いので気を付けてくださいね?」

「すみません、助かりました。でもあのアクセサリーの価値は実際どれくらいだったんでしょうか」

「せいぜい銀貨二~三枚程度なのでは? 全体がミスリル製なら確かに銀貨10枚くらいの価値はあるでしょうが」

「というか、竜牙さん相場に詳しいんですね……」


 もう全部彼に任せてしまってもいいのではないだろうか。


「いえいえ、今回に限っては初回ということで助言はしますが今後は基本的には致しませんよ。レオ君達の為にもなりませんし」


 まぁそりゃそうか。

 今回だけ、詐欺に引っかからずにいろいろ経験が詰める。

 そう考えると貴重な機会だ。

 いろんな商品を見て回らなきゃな。


 さらば屋台飯……、ぐすん。


「おっと、ちょっとこちらへ」

「え?」


 竜牙さんの手招きに応じて道の隅へ移動すると同時に、見覚えのある馬車が横を通り過ぎる。

 金色のフレームにルビーがちりばめられた六頭立てのその馬車は俺達がこの町に来る途中で追い越した馬車のようだった。

 確か村でも見た気がする。

 本当ならこの馬車の到着から二日後とかに到着する予定だったんだよな。

 竜牙さんにほんと感謝だぜ。


 明日には先触れをお願いした人もこの町に到着するだろう。

 そうすれば誰彼はばかることなく挨拶に行ける。


 そんなことを考えていたからだろうか。

 俺は馬車がその場で止まったことに気が付かなかったのだ。


 そして一歩を踏み出し、ぶつかってしまった。


「こら! そこの奴! この馬車がモブキャラクター伯爵家のものと知っての狼藉か!」

「あ、すみません。ぼーっとしてまして……」


 日本人だった時の癖か、条件反射で謝ってしまった。

 いや、これ別に俺悪くなくね?

 というかモブキャラクター?


「どないしたん?」

「はっ! そこの者がこの馬車に体当たりをしてきまして!」

「体当たりー? へっ……?」

「えっ……?」


 馬車の窓から顔を出したのは、あろうことかベルだった。


「……、なんでうちより後から出発したのに先に到着してるかは、聞いたらあかんのやろね?」

「あー、そうしてくれると助かる……」


 混乱する頭で何とかそう答えた。


「うちだけ仲間外れかー。さみしいなぁ?」

「……、後でちゃんと教えるから」

「約束やで?」


 そう言って彼女は笑いながら許してくれた。

 ほっ。

 助かった。と思ったのもつかの間。


「あの、お嬢様、このようなところで立ち話は……」


 彼女の侍女から制止がかかった。


「あ、すみません」

「別にええやん。なぁ?」

「いや、ダメでしょ」

「えー。んじゃレオがこの馬車に乗ってや」


 それこそダメでしょうに。

 というか、ベル、お前貴族だったのかよ?

 なんでうちの領内プラプラしてんの?


「後で挨拶に行くから……」


 いろんな疑問を何とか飲み込みそれだけ伝える。


「後っていつよ」

「先触れが明日到着予定だから明後日かな?」

「遠いわっ! うちが伝えとくから明日来てや」

「お、おぅ」

「ほんじゃまっとるで! メイリン、出してや」

「は、はいっ!」


 嵐は過ぎ去った。

 向こうで待ってるみたいだけど。


「……」

「彼女、貴族だったんですねぇ」

「みたいだね……。意外というか、なんでミューゼル家の領内で遊んでたんだろ」


 ほんとな。

 意味が分からなすぎる。


「あれ、そういえばさっきからシンディーが大人しいけど大丈夫か?」


 そうして彼女を見ると顔を真っ赤にして


「カノジョカノジョカノジョカノジョカノジョカノジョ……」


 とつぶやいていた。

 大丈夫かこいつ。


 とにかく、予定を少し変更しなければなるまい。

 ますます屋台飯が遠くなっていく……。


「はぁ、そんなつらそうな顔しないでよ。もう少ししたら食べ物の屋台が出てくるだろうからお昼はそれにしよう? 好きなだけ食べていいからさ」

「おお! 我が友よ!!」

「はいはい、だから機嫌直して」

「おぅさっ!」


 さーっ! 張り切って調査しちゃおうねぇ!


◆◆◆

◆◆


「おじさん、これいくらよ」

「あん? リンゴは一個銅貨一枚、メロンは一玉銅貨三十枚だ」

「ほー」

「冷やかしならどっか行ってくれ。商売の邪魔だ」

「いや、リンゴを三個もらおう」

「そうかい。ほんじゃ銅貨四枚だ」

「三枚でしょ?」

「……、ああ、三枚だ。勘違いしていたようだ」

「ほい、そんじゃ銅貨三枚な」


 しかし、どこの店も似たような感じだな。

 たぶんよそ者と思われているのだろうが、皆詐欺を仕掛けてくる。

 ううん、これじゃあまり参考にならないというか人間不信になってしまいそうだ。


「以前よりだいぶ人気が悪くなっていますね」

「そうなのですか?」

「前はここまでではなかったと記憶しています」


 竜牙さんが言う前というのがどれくらい前なのかはわからないが、普通全員が全員詐欺を仕掛けてくるなんてちょっと考えられないもんな。

 いろいろとまずいことになっているのだろうか。


「活気があまりない気がしますです……」

「そうだね、町の人たちの表情もどこか暗いし」


 不景気、ということなのかね。

 ……、くんくん。

 いい香りが……。


「分かってるってば。ほら、あそこの屋台が営業開始したみたいだから行こうか」

「応!」

「……、他にもいくつか回らなきゃいけないからほどほどにね?」

「わかってる!」


 ひゃっはー!

 めしだめしだああああああ!!

 おいこら! 有り飯全部出せやあああああ!!!!


 なんてことは当然言わない。

 俺は貴族だしね。

 優雅に買い物をするのさ。


「店主」

「いらっしゃい。銅貨一枚で大串焼き一本か普通の串焼き二本だぞ」

「あるだけぜんb「やめてっ!」


 アルの妨害にあったせいで優雅な買い物に失敗してしまった。


「レオ!? さっき言ったよね!? ほどほどにって!」

「アル、男にはダメと分かっててもやらなければいけないこともあるっ……!!」

「それは絶対今じゃないよ!?」


 アルめ、どうして理解してくれないんだっ!

 アルに抑えられている間にシンディーが屋台へ向かっていく。

 くそう、そうだ! 竜牙さん! 竜牙さんなら!

 ……彼は少し悲しそうな雰囲気でこちらを見つめていた。

 いや、ごめん……。


「大串焼き四本と普通の串焼き四本くださいです」

「あれ、主人かい? 嬢ちゃんたちも大変だな」

「働き甲斐のあるいい職場です」

「ははっ、物は言いようってか? 普通の串焼き四本サービスでつけてやるよ」

「ありがとうございますです!」

「おう、また来てくれよ」


「はい、どうぞ」

「ありがと……」


 俺は項垂れながら串焼き肉を手に取る。

 そして一口。


 ……。

 諸君、私は飯が好きだ。

 諸君、私は飯が好きだ。

 諸君、私は飯が大好きだ。


 以下略


 よろしい、ならば食事だ!!


 あれ、略しきれなかった。


 ともかく、あれだ、うん。

 そう、これはもう、戦争と言わざるを得ないね!


 串焼き肉を口元に運ぶまでの間に、タレが放つ強力な魅惑の香りが斥候役として鼻孔をくすぐってきた。

 そして唇に触れた瞬間、中堅たる肉の熱さ、柔らかさが脳髄を刺激する。

 さらに進み舌に触れた瞬間、肉汁とタレの重戦車軍団が口内を侵略を開始したのだ。

 その勢いはまさに電撃戦。

 彼の者の勢いを止められる者はおらず。

 彼の者を押し戻す意思もない。

 ゆえに彼の者は舌の上で一つ転がる。

 彼の者は、きっと噛みしめられることを待っていた。


「アアアアアアンリミテエエエエエエエドオオオオオオオオオ!!!!!」

「まただよ……」

「だいじょうぶ……じゃないです……」

「ハハハ……」


 だが、串焼き肉の数にはリミットがあったのであった。


「く……」

「あー、僕のも食べる?」

「私のもどうぞ、です」

「……、いや、いい」

「え、いいの?」

「少し落ち着いてきた。いろんな屋台を回らなきゃいけないのに一店舗目で満腹になるわけにはいかないだろう?」

「レオ……」

「レオ君……」

「さ、早くお前達も食べてくれ。俺が俺を抑えている間に……っ!」


 なんか格好つけて言ってるけど、内容はお腹が減ったのを我慢しているというだけである。


「んじゃ遠慮なく。もぐもぐ。うん、これなかなか行けるね」

「おいしいですっ!」


 ……、しかし貴族云々言っておきながら立ち食いするのはありなのだろうか?

 と思っていたら竜牙さんがこちらに向かって親指を上に向けたハンドサインをしてきた。

 こっちでも同じ意味なのかな?

 きっと、光学迷彩か何かの魔法で俺達の姿を隠してくれたのだろう。

 その証拠にこれだけ騒いでいるのに誰もこっちを意識していないし。


 ともかく、食べ終わったら次の店に行かないとな。

 いやー、つらいわー。

 市場調査って大変だわー。

 あ、次はそこの回転焼きっぽいの行ってみようかな。

 味が八種類もあるからなぁ。

 とりあえず全種類頼まないとなっ!

 いやー、大変だぜっ!


「全種類一個ずつ買って、皆一口ずつ分けて食べよう」

「アル君頭いいですー」


 おい、アル、お前俺に恨みでもあるのか。


「そ、そんな顔しないでよ……。あと六店舗も回らなきゃいけないんだよ?」

「ぐぬぬぬ……」


 確かにそれだけ回るには今から飛ばすのは……。

 だがしかし! それなら明日以降回ればいいのではないだろうか!


「レオ君、早く帰らないと、ね?」


 く……。

 竜牙さんにそう言われると断れない……。

 俺は諦めて皆の後についていくのだった。

お読みいただきありがとうございます。

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