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第七話 宣伝しに行こう

 ダンジョンの事務所は中々に居心地がいい。

 隙間風は当然のようになく、椅子も人間工学を考えて作られた形のようだ。

 ……、これ作ったのカエルのモンスターだよな?

 解せぬ。


「ってな訳で明後日から一週間から二週間ばかし留守にするから」

「そう。それで従者は僕でいいの?」


 アル達に隣の貴族に挨拶に行くことを説明すると予想外の回答が返ってきた。


「へ?」

「へって君ね、もしかして従者なしで行くつもりだったのかい?」

「まずいか?」


 体も成長して大きくなったし問題ないと思うのだが……。


「レオ……。その感じだとお館様にも言ってないでしょ?」

「……、別に言う必要もないだろ? 子供じゃあるまいし」

「そういう言い訳が子供っぽい」

「うっさい」

「それと先触れを走らせないと」

「ああ、それもあったか」

「とにかく、一人じゃ行かせられないから。っていうか、従者も無しに他の貴族の家に行くとか常識がなさすぎるよ?」

「うっ……」

「一人は僕として、後は身の回りの世話をする侍女が最低でも一人は要るね」


 しかし侍女か、当てがないぞ……。

 出発前にいきなり壁にぶつかってしまった。

 前途多難だなぁ。


「それでしたら私が侍女として行きますです!」


 と思っていたら意外なところから救いの手がっ!


「あー、シンディーならちょうどいいかな」

「むぅ、頼めるか?」


 ポンコツなところあるから心配だけど、他に当てもないし仕方ないか。


「お任せくださいです!」

「それでしたら、お兄様、私も行きますわ!」

「いや、ミルフィーはだめだよ」

「アル!? 何故ですっ!」

「ミルフィーも来るなら従者も侍女も一人ずつじゃ足りないから」

「ぐぬぬ……」

「ほなしばらく活動停止やね?」

「すまないがそうなるな」


 二人だけでは現状できることがほとんどないし。


「大人しく会計の勉強をしておきますわ……」

「そうしてくれ。入場料を取るから、税金の計算とかも必要になるだろうし」

「お兄様の為ですもの。頑張りますわ!」


 ミルフィーはそういって両手を体の前で握りしめる。

 まぁ程々に頑張ってくれ。


「まぁ、しゃーないなー。ほな今日は解散やね?」

「そうだな、俺も支度しなきゃだし」

「私もですー」

「明後日の朝ここに集合でいいよね?」

「ああ。それで頼む」

「そんじゃうちは帰るわ」

「おぅ、すまんな」


 そう言ってアル達は自分の家へ身支度をしに、ベルは普通に自分の家に帰っていきましたとさ。

 めでたしめでたし。

 ……、じゃなくて俺も支度をしなきゃな。

 その前に父と母の説得があるけど。

 まぁ、きっとどうにかなるさ。


 帰り道、金のフレームにルビーをちりばめた豪華な六頭立ての馬車が街道を走っているのが見えた。

 どこの貴族の馬車だろうか。

 うちでは何とか二頭立ての馬車を用意するのが精いっぱいだというのに。

 お金はあるところにはあるんだなぁ、うらやましい。


◆◆◆

◆◆


「なりません!」


 どうにかならなかった。

 出発の準備だけはしていたものの、なかなか両親に言い出せず明日出発というタイミングで漸く口に出したのだが、その返答は厳しいものだった。


「どうしてそんな危ないことをしようとするのですか!」

「しかし母上、これはどうしても必要なことなのです」

「レオポルト! あなたはそんなことをしなくてもいいのです! ミューゼル家の中で、安全に過ごすべきなのです!」

「母上……」

「あなたも何か言ってください! レオポルトはそんなことをしなくてもいいと!」

「……、レオ」

「はい……」

「ここは俺に任せてお前は先に行け!」


 そういうと父は椅子から立ち上がり俺を母の目から隠すように移動した。

 え? え?

 どういうノリなのこれ?


「父上!?」

「あなた!?」

「なぁに、すぐに追いつく」

「いや、追いつかれても困るんですけど」


 付いて来るつもりですかあなた。


「ほら! 早く!」

「あっ、はい」


 どうにかなった、のか?

 俺は急いで部屋から退出し、まとめて置いた荷物を掴むと屋敷を後にした。


 屋敷の方からは(父の)悲鳴が聞こえるが……。

 うん、あまり気にしないでおこう。


 はぁ、今日は事務所に泊まるしかないかぁ……。


◆◆◆

◆◆


 翌日早朝、事務所の前には豪華な四頭立ての馬車が鎮座していた。

 あれ……?

 俺乗合馬車で行くつもりだったんだけど。

 誰かが用意してくれたのだろうか。


「レオ君、おはようございます。早いですね」

「あ、竜牙さん。おはようございます。なんか目が覚めちゃって。それで、えっと、この馬車は?」

「いけませんよ。貴族が貴族に会いに行こうというのに乗合馬車なんて」

「ということは、この馬車は竜牙さんが?」


 銀色のフレームにエメラルドの細工が施され上品にまとめられているそれは、彼のイメージカラー通りの物だった。


「はい、僭越ながら用意させていただきました。これでなら門前払いされることもないでしょう」

「門前払いって、大げさな」

「……、レオポルト・フォン・ミューゼル」

「は、はい!」


 急にフルネームで呼ばれてドキッとする。

 彼にフルネームで呼ばれたのはこれが初めてではなかろうか。

 真剣な声と、眼差しに背筋を思わず正してしまう。


「君はミューゼル家を、仲間を、そして我々モンスターの未来を背負った代表です。その自覚を持っていただきたい!」

「っ!」


 彼の力のこもった声に、俺は後ずさりしそうになったが何とかこらえる。

 ここで引いてはいけない。

 そんな気がしたのだ。


「ふふ、その調子ですよ。少しは理解していただけましたか?」

「……、ええ。ほんの少しですが」

「それはよかった」

「ただし、一点だけ訂正していただきたい」


 彼の言葉に少し引っ掛かるところがあったのだ。

 今、この場で訂正しなければいけないような引っ掛かりが。


「ふむ? なんでしょうか?」

「仲間と、モンスターを分けないでください。あなたたちモンスターは、もうすでに俺達の仲間です」

「……っ! ……、くく……」

「おかしいですか?」

「ええ、ええ……。とても、そう、とても……くくっ……」

「……」


 急に笑い始めた彼に少しイラッとさせられた。

 こっちはまじめに言っているというのに。


「ああ、怒らないでください。いえ、笑ってすみませんでした。そして、仲間と言ってくれてありがとうございます」

「いえ……」

「そうですね、あなた達と私達は仲間ですね。ああ、ここまでうれしいと感じたことは何百年ぶりでしょうか……」

「そこまでですか?」


 彼の震える声が、震える手が、そのことが嘘でないと教えてくれる。

 そこまで喜ばれるようなことを言ったつもりはなかったのだが。


「ふふ……。げふん、んっんっ。レオポルト・フォン・ミューゼル殿」

「え? はい?」

「貴殿に心からの感謝を」

「いや、よしてくださいよ。そんな改まって言われると恥ずかしくなるじゃないですか」


 急に冷静な声で感謝を伝えられるとどうにももにょる。

 というか、俺も割と恥ずかしいことを言っているな、これ。

 これ軽く黒歴史になりそうな気がするわ……。


「この世界に来てくれたのがあなたで本当によかった。あなたならもしかしたら……」

「?」

「いえ、なんでもありません。さ、他の人達も間もなく来られるでしょう。忘れ物はありませんね?」

「ええ、もうすべて一つの荷物にまとめてありますから」

「……それだけ、ですか?」

「え? 足りなかったですかね?」

「いえ……、大丈夫ですよ。どうにかしますから」

「は、はぁ……」


◆◆◆

◆◆


 少ない荷物を馬車に積み込んでいるとえっちらおっちらと道の向こうからシンディーが歩いて来るのが見えた。

 随分と大荷物だなぁ。

 まぁ、シンディーは女の子だしいろいろあるのだろう。


「お待たせしましたです」

「おぅ、早かったな」

「私が一番かと思ったのですがレオ君の方が早かったです。ごめんなさいです……」


 ピンクのアホ毛が萎れた。

 その髪の毛、感情表現豊かやね?


「いや、謝る必要なんてないさ」

「うう、そういってもらえると助かりますです……」


 そんな話をしていると今度はアルの姿が道の向こうに見える。

 これまた大荷物だな。


「あれ、僕が最後かい?」

「主人より遅く来るなんて従者失格です!」


 シンディーが胸を張ってどや顔でアルの遅刻をたしなめた。

 いや、別に遅刻ってわけではないだろう。

 まだ朝日がようやく出たくらいだし。


「うぐ。面目ない……」

「いや、シンディーも俺より遅かっただろ」

「それはいっちゃだめですっ!?」

「シンディー……?」

「あだだだだだああああ!?」

「それで、この馬車で行くの?」


 アルがシンディーの両頬を抓りながらそう問いかけてきた。


「ああ、竜牙さんが用意してくれて」

「立派な馬車ですね。これなら大丈夫ですね」

「ええ、道中もお任せください」

「え?」

「私達も同行させていただきますので」


 そう言って竜牙さんがポンと胸を叩く。

 ガキンッと鳴った音が心強いが、本当にいいのだろうか。


「いいのですか?」

「レオ君、君にもしものことがあると私達は破滅なんですよ。ですので護衛はお任せください」

「でもダンジョンは……」

「ダンジョンもここ数年でだいぶ大きくなりましたしね。今の状況ですぐさま何か問題が出るということもないかと」


 事務所が空になるが、ダンジョンコアを最下層に移動しておけばいいか。

 そう思いながらメニューからマップを開いく。

 ダンジョンコアを移動させるため自分たち周辺のマップを見た俺の目に何やら味方を示す青い点がたくさん飛び込んでくる。


「あの、竜牙さん」

「はい?」

「さっき『私達も同行させていただきます』って言ってましたよね?」

「おや、気づかれてしまいましたか?」

「ええ、まぁ……」

「まぁ念のためですよ」

「……」

「これなら安心ですから」

「そうでしょうねぇ……」


 目視はできないし気配も感じないが、恐らく馬車の周りには隠密が得意なモンスターがたくさん隠れているのだろう。

 その分ダンジョンの防衛力が薄くなっているけど、まぁ問題はないのだろう。

 今のところ誰一人として訪れた人はいないし。


「さて、それでは出発しますよ。乗り込んでくださいな」

「それじゃ僕は従者だし御者席にいるね」

「ん、頼む」

「さ、ご主人様。こちらへどうぞです」

「シンディーにご主人様って言われると違和感がすごいな……」

「そんなこと言ってると馬車から突き落としますです」

「Oh……」


 竜牙さんが用意してくれた馬車は、まったく揺れることもなくまるで飛んでいるかのようだった。


「ってマジで飛んでませんかこれ!?」

「はっはっは、まさかまさか。ちょっと浮かして振動がないようにしているだけですよ」

「地上では魔法が使えないんじゃ!?」

「私の体にストックしているマナがありますから、それを細々と使っているのですよ」

「そんなのありかよ……」

「安心してください。町に近づいたらちゃんと降ろしますから」


 そんな訳で俺達は快調に街道を爆走していったのだった。

お読みいただきありがとうございます。

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