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第六話 開店準備

 今日もさわやかな朝日が窓から差し込んでくる。

 そして今朝も代り映えのしない黒パンとスープの朝食だ。

 いつもなら無言の朝食の時間、しかし今日は違う。

 パサつく黒パンをスープで流し込むと、俺は意を決して父に話しかけた。


「お父様」

「うん? どうした、レオ。スープが足りないのなら俺のを分けてやろうか?」

「あなた、だめですよ。甘やかしてはレオの為になりません」

「しかしだなぁ……」


 別にこのまずいスープなんて要らないという言葉を何とか飲み込み話を続ける。


「そうではありません。来年、私も成人します」

「……、ああ。もうそんな年か」


 少し遠い目をしながら父はつぶやいた。


「それで、私のギフトのことなのですが」

「っ!」


 父が一瞬固まった。

 触れてはいけないものに触れてしまった、そんな顔をしている。


「マナの支配者とモンスターの支配者、この二つのギフトを有効利用できないかと考えておりまして」

「ふむ……、続けなさい」

「はい。領地の端の方にある崖に洞窟があります」

「洞窟……?」

「はい。そこがダンジョンになっているようでして、ダンジョンの運営をしてみようかと」

「何故そんなものを知っているかは聞かないでおいておこうか」

「レオ! まさかあなたっ!」

「フィーネ、お前は黙っていなさい」

「っ……! ……、わかりましたわ……」

「……」


 しまった、いつも普通に出かけていたからすっかり忘れていたが、俺達は近くの草原で遊んでいることになっていたのだった。


「ふむ……、そうか。いいだろう。やってみなさい」

「よろしいのですか?」


 まさかあっさり認められるとは思っていなかった。

 もうちょっとごねるかと思ったのだが。


「ダンジョン運営の経験は領地運営にも役立つだろう。とりあえず成人までの一年間やってみなさい」

「一年間、ですか」


 期限付きか。

 たぶん失敗すると思っているんだろうな。


「それと条件がある。お前がダンジョンに潜ることは認められん」


 デスヨネー。

 知ってた。


「でも管理の都合上入らざるを得ないケースも出てくると思いますし」

「ならん! お前はこのミューゼル家の跡取りなのだぞ? 万が一があったらどうする!」

「それは……」

「お前は、その、ギフトが争いごとに向いていないということもあるし……」

「護衛をつけても駄目でしょうか?」

「ならば護衛だけダンジョンに潜らせればよかろう」


 Oh。

 まぁそうだよな。

 しかしどうするか。

 ダンジョンコアまでいかないとダンジョンをいじれないしなぁ。

 いっそ入り口にダンジョンコア置いちゃうか?

 崖の一角崩して事務所みたいにすれば不自然じゃないだろうし。


「わかりました……。その代わりといっては何ですがお願いがあるのですが……」

「む……、なんだ、言ってみなさい」

「もしダンジョン運営が成功したならば、そのまま継続して運営を続けたいのです」

「いや、しかしそれは……」


 少し逡巡する父を上目遣いで見つめる。


「……はぁ、まぁいいだろう。ダンジョン運営に成功した場合はそのまま運営することを認めよう」

「ありがとうございます!」

「ただし! 失敗したら問答無用で連れ戻す! 一年たっていなくても俺がもう無理だと判断したら同じく連れ戻すからな!」

「分かりました。それと最後にもう一つだけ」

「……、言ってみろ」

「領内の者を勧誘したいのですが」

「本人達と交渉し、相手が了承したのであれば構わん。がんばれよ」

「はいっ! がんばります!」


 よし!

 了承とったぞ!!


 とりあえずダンジョンの門前町を作らないとな、事務所だけというわけにはいかないし。

 ダンジョンの入り口周辺は農村等を作るにはとても土地が足りないが、宿屋や武器、防具屋、雑貨屋等を作る分には十分な広さがある。

 領地の端にあるだけあって、街道も近いしな。

 ある程度冒険者達が来るようなったら誘致して行こう。


◆◆◆

◆◆


「ふ~……」

「お疲れ様でした」


 屋敷からダンジョンに戻ると竜牙さんがねぎらいの言葉をかけてくれる。

 ほんと疲れたよ。

 だが、元の世界に戻るためには頑張らないとな。


「ありがとうございます。何とか無事に約束させることが出来ましたよ」

「よかったですね。あとは変な横やりが入らなければいいのですが」

「う~ん、たぶん父上はしてこないと思いますけど、母上がちょっとわからないですね」

「なるほど……」

「父上はどうせ失敗すると思って了承したのでしょうが」


 だからこそ、俺は失敗できない。

 いや、誰にも文句がつけられないくらい成功する必要があるのだ。

 ちょっとの成功くらいでは失敗扱いとされてしまうだろうし。

 もちろん、十億DPをその間に稼げれば問題ないのだが。


 この二年でダンジョンは二十一階層まで拡張している。

 モンスターも召喚し、宝箱も設置した。

 尤も、二十一階層目はモンスター達の家のフロアとしているので公開するのは二十階層までだ。

 本来モンスター達はダンジョンの空いている部屋に適当に寝泊まりするものらしいが、言葉を交わした相手にそんな無体なことはしたくなかったので一階層をモンスター達の居住区画に割くことにしたのだ。


 そのおかげかモンスター達と俺達の関係は非常に良好だ。

 モンスターが人を襲うというのはいったい何だったのだろうか。

 単純に自分の家に土足で入ってきた侵入者を追い出そうとしていただけなのではないだろうか?

 認識を改める必要があるかもしれない。


 アル達にもダンジョン運営のことは話してある。

 三人とも快く協力してくれると言ってくれた。

 シンディーとミルフィーには会計関係と受付を、アルには町の取りまとめをやってもらうつもりだ。


 その他にも同世代の友人達で商人や鍛冶屋の子供達には声をかけてある。

 彼らも後を継ぐ店がなく、数年後には街に出るしかなかったので快く引き受けてくれた。

 尤も、それまでに冒険者達がたくさん来る状況にしていなければならない。

 彼らにも生活があるのだから。


 一応宝箱から産出したアイテムを細々と売ってきたおかげでそれなりに資金も貯め込んである。

 子供が売っても不自然でない程度のものではあったが、それでも三年間分の蓄積だからな。

 皆で頑張ってきたかいがあったというものだ。


 恐らく最初のうちはあまり人も来ないだろう。

 その間、何とか乗り切れるといいのだが。


 冒険者達が来るように宣伝も必要だし、早いところ他の貴族達の協力を取り付けなければ。

 

 少なくとも父上が認めてくれるくらいには。


◆◆◆

◆◆


「おーらい! おーらい!」

「釘取ってくれや!!」

「おいそこじゃまだ!!」


 父上からダンジョン運営の許可をもらった次の日。

 ダンジョンの入り口はとても賑やかだった。


 ……、モンスター達の声によって。


「あまり時間がありませんね。私達も協力することとしましょう」


 本当なら大工を探してくるなりしなければならなかったのだが、竜牙さんの一言でこういうことになってしまった。


 モンスター達の腕(?)は非常によく、あっという間に建物が出来上がっていく。

 基礎工事も彼らの能力のおかげで一瞬だったようだ。


「これならすぐ行動開始できますです!」

「そうね、机とかは……、あるわね」

「そりゃそうでさ、机も椅子もなけりゃ仕事にならんでしょう?」


 ゲコゲコと笑いながら法被に鉢巻、右手には金づちという姿をした緑のカエルが話しかけてくる。


「ゲコ太さん、ありがとうございますです!」

「いいってことよっ!」


 そしてペタペタと足音を立てながら彼はダンジョンへ帰って行った。

 もういい時間だし、たぶん自分の家でこれから晩酌でもするのだろう。

 しかしゲコ太か。

 なんというか安直な名前だなぁ。


 そしてあっという間に出来上がったダンジョンの事務所を見ながら俺は呆気にとられていた。

 誰が予想しようか。

 昨日まで草原だったそこには、住居を併設した事務所が出来上がっていた。

 なんだこれ。

 ご丁寧に崖を一部くりぬいて部屋まで作ってある。

 これ、そういうことなんだよな?


「おや、そこにいるのはレオ君達ですか?」

「あ、リューちゃん、こんにちわです!」

「はい、シンディーさん。こんにちわ」


 ……、シンディーはすごいな。

 シンディーは彼のことをリューちゃんと呼ぶが、俺にはまねできない。

 彼の迫力に押されてつい『竜牙さん』と、『さん』付けしてしまうのだ。


「こんにちわ。竜牙さんは視察ですか?」

「……、ええ、商品の補充も兼ねまして」


 そして『さん』付けして呼ぶと少し悲しそうな雰囲気を醸し出すからやりづらい。


 それにしても建物どころか商品までそろえてくれるとは……。

 彼は本当に何者なのだろうか。


「商品は全てレオ君の物ということになりますから注意してくださいね?」


 こそっと竜牙さんは俺に耳打ちしてくる。

 貴族の俺の所有物を盗むやつはそうそういないという防犯効果を狙ってとこかな。


「一応消耗品類を売るためのカウンターと物品買取カウンターを設置してあります」

「買取カウンターですか?」

「ええ、|必要≪・ ・≫でしょう?」

「……、ええ。そうですね、ありがとうございます」


 そうだな。

 俺がダンジョンに潜れない以上、冒険者達にダンジョンの宝箱から聖杯を出してもらわなければならないが、もし聖杯が宝箱から出ても持ち出されてしまっては意味がない。

 ダンジョンから出土したアイテムは全て一度うちで鑑定して、特定の物品に関してはうちで強制買取することにしよう。

 それ以外に関してはうちに売ってもいいし、持って帰っても良いってことにすれば問題ないだろう。


「それと出入り口にゲートも用意しておきました」

「ゲートですか?」

「このゲートに併設されている受付で入場料の徴収と復活の首飾りの貸し出し、回収を行えば良いかと」

「ああ、なるほど。すっかり忘れていました。ありがとうございます」


 これまた忘れていた。

 俺はDPがメインとなる目的物だが、普通のダンジョン経営は入場料と出土品の転売で利益を上げるものだ。

 入場料無しとなると怪しいことこの上ない。


「消耗品にはポーションとスクロール類を用意しておきました」

「ポーションはわかりますけどスクロールって何ですか?」

「使い捨ての魔道具みたいなものですよ」

「魔道具?」


 彼曰く魔道具とは周囲のマナを取り込んで様々な事象を発生させるアイテムのことらしい。

 魔法が使えない人でも使うことが出来るので昔は重宝したとかなんとか。


「神魔大戦以降はダンジョンでしか使えなくなりましたけどね」

「なるほど。でも貴重なものだったのでは? そのようなものをもらうのはちょっと……」

「そうでもありませんよ、手持ちはあまりありませんが作るのはそこまで難しくありませんし。今でも人の手で多少作られているはずですよ。まぁ家賃代わりに受け取ってください」

「ふむふむ。そういうことでしたらありがたく頂きます。しかし今後は外から購入した方がいいかもしれませんね」

「そうですね、商人との付き合いが広がりますしその方がいいかと」


 冒険者達から買い取った商品を流すためのルートも必要だしな。

 さてと、それじゃ他の貴族へ挨拶してくるとしますかね。

 町で宣伝するにしても彼らに仁義を通しておかないと後後厄介なことになりかねないし。

 ついでに商業ギルドとか通商ルートの斡旋もしてもらえれば助かるんだけど。


 ついでに各アイテムの相場を勉強してこないとな。

 領地にある村々では細々とした商売しかされておらず、ポーションなんて誰も存在すら知らないし。


 近隣の村への宣伝は同年代の友人にお使いを頼むとして、隣の貴族への挨拶は自分で行かないとな。

 村人から聞いた話だと貴族の屋敷のある町、ヒノキノボウまで乗合馬車で片道三日から四日くらいかかるらしい。

 結構あるなぁ。

 道はそこそこ整備されてあるけど、それでも馬車って振動で尻が痛くなるんだよね……。

 少し憂鬱だけど仕方あるまい。

お読みいただきありがとうございます。

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