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第三話 招かれざる客

 竜牙の騎士との接触はあれ以降無い。


 ……、はずだったのだが、次の日に再び会う羽目になっていた。

 お昼ご飯の黒パンを入れたバスケットを渡したままだったので回収に行かざるを得なかったのだ。

 あれだけ警戒していた相手にバスケットを返してもらうというのは非常に間の抜けた話だが父のげんこつには敵わなかったのである。


「ははは! 私より御父上の方が怖いですか! これは面白い! くくくく……」

「うるさい……」


 アルは不貞腐れていたが、いろいろ聞きたかったことがあった俺には丁度よかった。


◆◆◆

◆◆


 出会った日から四年が経ち、俺は十二歳になった。

 あの日以降、毎日と言うわけではないが俺達は頻繁に彼の元を訪れていた。

 今では彼のことを竜牙さんと呼ぶくらいの気安さだ。

 彼はなかなかの武芸者で、武器系ギフトの無い俺達にも分かりやすく教えてくれた。

 おかげで自衛が出来る程度には俺達も武具の扱いに慣れることが出来たのだった。


 ……、彼はちょっとお邪魔しているだけではなかったのだろうか。

 まぁいいや。


 そんなある日のこと、いつも通り彼に稽古をつけてもらっていた俺達の元に招かれざる客が訪れたのだった。


「んー? 根城にちょうど良さそうな洞窟かと思ったら先客がいるじゃねーか」

「……、あなた方は?」


 入り口近くの部屋で稽古を受けていた俺達にかけられた声の方を見る。


 伸びっぱなしの鬚にまともに洗濯などされたことのないような服、そしてこちらの方まで漂ってくる悪臭。

 腰には短剣の様なものを挿し、お粗末ながらもブレストプレートの様なものを装備している。

 こいつらもしかしなくても山賊か。


「ガキが五人に騎士様が一人かぁ?」

「丁度いいや、親方! こいつら売り飛ばして俺達の酒代になってもらいましょうぜ!」


 親方と呼ばれた山賊の後ろからぞろぞろと子分達が現れた。

 二十人は居るだろうか。

 子分達は下卑た笑みを口元に浮かべ舌なめずりをしている。


「バカ野郎! こいつらの毛並みがいいことがわからねぇのか!」


 そう言って山賊の親方は子分を殴りつけた。

「「ぐいぇ!?」

「ひっ……」


 それを見たベルが腰を抜かしたのかへたり込んでしまう。


「いてて……そ、そういえば……。もしかして貴族様の?」

「そうともさ! 違ったとしてもきっとでけぇ商家のボンボンとかだろう!」

「ベ、ベル、大丈夫です!?」

「だ、大丈夫!?」


 ベルに駆け寄るシンディーとミルフィーにねっとりとした視線が向けられる。


「へっへ、可愛いこって」


 入り口は一つ、そして山賊たちは入り口に陣取っている。

 人数も多いし逃げ出すのは難しそうだ。


 まずいな、俺達を人質にとって実家から金をせびる気か。

 俺やミルフィー、アルにシンディーはともかくベルはまずい。

 彼女は身代金を要求する先がないはずだ。

 そうすると売り飛ばされかねない。


「いい子にしてれば殺しはしねぇからよぉ、安心しろよ? なんせ俺達は優しいからなぁ! ガハハハッ!」

「な、なぁ親方。ちょっとくらいならつまみ食いしてもいいよな?」

「ん~? ガキとは言えそこそこ育ってるか。まぁ最初は俺がいただくが、後は好きにしろ」

「やったぜ!! 流石親方!!」

「おうよ! 俺についてきてればいい目を見せてやるぜ? まぁ優しくしてやるんだぞ?」

「へいっ!!」


 くそ、殺しはしないけど好き放題させてもらうってか。

 横をちらっと見るとアルも怯えてしまっているようだ。

 仕方ないか。

 俺は意を決して一歩踏み出す。


「まて、俺はこの地を治めるミューゼル準男爵家が長男、レオポルト・フォン・ミューゼルだ」

「ほー、それで?」


 あまり興味のなさそうな視線が山賊の親方から飛んでくる。

 だがその眼には力が込められており、一瞬たじろいでしまう。


「お、俺の仲間達に手を出さないでほしい」

「そこの震えてるお嬢ちゃん達とお前の後ろで震えてるやつと後ろに突っ立ってる騎士様のことか?」

「そうだ。そうすれば身代金の交渉の時に協力してやる」

「なるほどなるほど」


 俺が協力するなら、いつ手をかまれるかわからない状況で交渉するよりずっと有利になるはずだ。

 というか、俺が出せるカードはこれくらいしかないし。


「どうだ!」

「……だが断る」

「なっ!?」

「俺はな、お前みたいに何も苦労せず蝶よ花よと育てられ、自分が一番偉いと勘違いしている貴族の坊ちゃんっつーのがでぇきれえなんだよ!」

「……」

「それともなにか? そっちの騎士様に助けを求めてみるか? やってみるがいい! この人数を相手にして騎士一人でどうにかなると思ってるならな!」


 確かに二十対一では勝ち目はあるまい。

 だが、このままではベル達が……。


「そこの騎士様、お利口な騎士様ならわかるよな? 動くんじゃねーぞ?」

「ふむ……」


 くそ、どうすれば……。


「レオ君」

「はい……」

「君は皆の傍について守ってあげていてください」

「え?」

「なに、たまには師匠のすごいところを見せて差し上げますよ」


 ふふっと彼は笑うと剣を鞘から抜き山賊達に突きつけ口上を述べる。


「神魔の時より幾星霜、未だ我が道は開かねど、我等が子らの道は塞がじ」

「その祝詞、お前聖騎士か。しかし頭おかしいのか? この人数相手に正気じゃねぇな」


 山賊の親方の視線が鋭くなる。

 その視線を受けているはずの竜牙さんは特に動じた様子もなく自然体でいた。


「さて、どうですかね? これでも剣の腕には自信がありますしね」

「ふん。個人の武勇は数の暴力にあっさり潰されちまうもんさ」

「弟子たちの前で格好悪いところは見せられませんから、精々抵抗させていただきますよ」

「そうかい。……やれ!」


 親方の掛け声と同時にいつの間にか竜牙さんの周りを囲う様に広がっていた山賊達が一斉に彼に襲い掛かる。


「ふんっ!」


 ガキンッ!


「なっ!?」


 しかし竜牙さんは慌てることなく剣を一薙ぎし、振り下ろされた剣をはじき返す。

 そしてそのままくるっと一周ターンしたかと思うと竜牙さんの近くにいた二人の山賊の首に赤い線が走る。


 ドシャッ。


「バウワー! クラウツ!」

「よそ見をしててもいいのですか?」

「なっ!?」


 一瞬で二人の仲間を失い、動揺する山賊達の元へ竜牙さんが切り込む。


「ハァッ!!」

「ぎゃああああ!?」

「腕が! 腕があああああああ!!!」

「この野郎!!」

「ぐっ! なんの!!」

「う゛ごらっ!?」


 剣の柄で顎を砕かれた山賊が地面に伏す。


 っと、俺もこうしちゃいられない。

 固まっているアルの手を引いてベル達の元へと向かう。


「あ、あれ……」

「すごい、です……」

「うわぁ……」


 ほんとな。

 彼女達の視線を追うと、そこでは人間の体が木の葉のように舞っている。


 あっという間に六人が打倒されてしまっていた。

 ひーふーみーよ……、残り十三人か。

 圧倒的な実力差だ。

 これなら大丈夫だな。


 そう油断した俺達が悪かったのか、首に冷たい感触を覚える。


「え?」

「おい! 動くな!!」

「!? いつの間に……」

「へっへ……。俺は隠形が得意でなぁ」


 いつの間にか俺の背後にいた山賊が俺の首にナイフを当てていたのだ。


「騎士さんよ、この坊主の命が惜しければ剣を捨てな」

「……、あなた方に誇りというものはないのですか?」

「カッカッカ!! 笑わせてくれる! 俺達外道に落ちた山賊に守る誇りなんてねえよ!!」


 勝ち誇ったように笑う山賊と剣を握る手を震わせる竜牙さん。


 カランッ……。


 彼の手から、剣が落ちた。


「そうだ、それでいいんだ。それにしても随分とやってくれたな……。ビュッファー……、リック……」

「くそ、六人もやられたか……」

「覚悟はできてるんだろうな?」


 仲間を殺され、怒りに燃える山賊達が竜牙さんを囲う。


「動くなよ……。ウラアアアアア!!!」


 山賊の一人が剣を振りかぶると彼に叩き付ける。


 ガインッ!


「く゛っ……」

「へへっ、まだまだだぜ? そりゃ! うりゃあああ!」


 ガンッ! ガッ! ガガッ!


「なんつう丈夫な鎧だよ……」

「衝撃は、中に通るのですがね……」

「黙れっ!!」


 ガンッ!


「グフッ……」


 兜に剣を受けて竜牙さんが膝をつく。

 綺麗な銀色の鎧に泥が付いた。


「竜牙さん!?」

「レオ君……」

「もう俺のことは良いですから!」

「黙れ坊主」

「くっ……」


 ナイフからの圧力が強くなる。

 少しでも動いたらスパッと言ってしまいそうだ。


「レオ!?」

「おっとそこのお嬢ちゃんたちもおとなしくしてるんだ。じゃないとこの小僧の頭と体がお別れしなきゃいけなくなっちまうぜ?」

「や、やめるです……」

「そ、そんな……」

「卑怯やで……」


 俺の首に当てられたナイフを山賊が少し動かす。

 生暖かい感触が首筋を伝った。


「……、そう言われると、余計に動くわけにはいきませんね……」

「そうそう。それにあんたが死んだら次は嬢ちゃん達とのお楽しみ会だからな。精々頑張んな」


 くそ……、くそ、クソクソクソクソ!!

 どうすればいいんだ!


 俺が剣に手を伸ばせば、剣に手が届く前に俺の首は掻き切られるだろう。

 なんせ人質は他にもいるのだから。


 山賊達を一瞬で無力化するには……。

 くそ、魔法でも何でもいい、何か手段を……。


 ドクンッ……。


 その時俺の心臓が大きく脈打った。


 魔法。

 そうだ、魔法だ。

 マナの支配者のギフトが俺にはあるじゃないか。


 地上では使えないがここはダンジョンで、マナがある。

 今まで使ったことはないが……。


 ギフトを意識して魔法を使うイメージを行う。

 派手な魔法は使えない。

 慣れない魔法では皆巻き添えになってしまうし。

 それにダンジョンにしてはここはマナが薄い。

 急激な変化を伴う魔法は発動できないだろう。


 ならば……。


 俺はゆっくりと体内に巡る力を外に放出し、マナを操作してダンジョン内の二酸化炭素の濃度を上げていく。

 体を動かしている分、山賊達の方が早く苦しくなるはずだ。


 ゆっくり……、ゆっくりだ……。

 気が付かれないように……。


「はぁっ、はぁっ。なんか、苦しくないか?」

「ああ? はぁつ。 お前もか? この程度の運動で息切れするとは、俺も年取ったかね。はぁっ、はぁっ」

「頭が、痛い……、これは、おかしい。はぁっ」

「うっ……きぼちが……」


 のどを抑えて苦しみだす山賊達。

 頃合いか。


「うぐ!?」

「ぐ……」


 ドサドサッ……。


 竜牙さんを袋叩きにしていた山賊達が昏倒する。

 山賊達の息が上がり始めたところを見計らい一気に二酸化炭素を彼らの周辺に集めたのだ。


「お、お前何をした!? この小僧がどうなってもいいのか!?」

「さて、私は何もしておりませんが」

「くっ……」


 バタッ……。


 そして俺の首にナイフを当てていた山賊も昏倒した。


「よしっ! ハッハッハッ……」

「これは……レオ君がやったのですか?」

「ハァハァ……はい、やればできるもの、ですね……ハァハァ」

「なるほど……、とりあえずこれ解除しましょうか」

「ハッハッ……、起き上がってきませんかね?」

「大丈夫ですよ。そいっと。これで、ね?」


 俺の心配をよそに、竜牙さんは剣を拾うと数回ほど軽く剣を振った。

 ……、なるほど。

 これならもう二度と起き上がってくることもあるまい。

 うう、少し気持ち悪い、クラクラする……。


「それにベルさん達も失神してしまっていますし」

「うおわっ!?」

「浄化、しときますから」

「お願いします……」


 乙女の尊厳の為に何故浄化が必要になったかは割愛させてもらう。

 とりあえず致死性のガスとかじゃなくてよかった……。

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