第二十六話 取らぬ狸
えー、皆様、こんにちわ。
レオポルト・フォン・ミューゼルです。
今日は王都のダンジョンにお伺いしております。
このダンジョンは歴史も深く、大変有名なダンジョンなんですけど。
なんでこんな所に来ているかというとですね。
「陛下の命令だからだよ」
「ん? レオ、何か言った?」
「いや、なんでもない……」
陛下の手紙を要約すると、国中のダンジョンをゲートで繋げて欲しいということだった。
DP消費もばかにならないので正直勘弁してもらいたいのだが……。
断ればいい?
は?
俺に死ねと?
一応通行料の二割を徴収する権利を俺にというかミューゼル家に与えるとのことだったけど……。
ダンジョンの攻略も必要だし、そんな簡単に繋げられないんだけどなぁ。
まぁ半年に一箇所ずつくらい繋げてお茶を濁せばいいかな。
とりあえず今回はうちのダンジョンと王都のダンジョンを繋げるとしよう。
これで家も更に潤うだろう。
DP収入も期待できるし、楽しみだな。
◆◆◆
◆◆
◆
「そんなふうに思っていた時もありました」
ダンジョンに潜ってダンジョンコアを目指している道中。
暗く湿っており、視界も足元も悪いフロアの中のことだった。
所詮マスターの居ないダンジョンということもあり若干油断していたのが悪かったのだろうか。
通路を抜けて広間に入った瞬間、いきなり周りにモンスターが出現したのだ。
所謂モンスターハウスというやつだ。
「レオ! 呆けてる暇があったら盾展開して!!」
「あいよ……」
なんか既視感を覚えながらも俺はメニューを操作して展開する。
前回、騎士団に襲われたときとは違い今回は切り札があるから余裕綽々ではあるものの何となく違和感を覚える。
なんというか、自然発生して自然に育ったダンジョンにしては悪意があるというか。
トラップの配置やモンスターハウスの発生などに知性を感じるのだ。
以前ヒノキノボウのダンジョンを攻略したときにはこんなことなかったのに。
「まさか、既にダンジョンマスターが居る?」
「いえ、それはないかと」
俺の呟きに竜牙さんが返事をくれた。
「わかるのですか?」
「ええ、まぁ。ありえないですから」
「え?」
「詳しいことは話せませんが、今現在間違いなくこのダンジョンにはマスターは居ませんよ」
「そう、ですか……っと!?」
飛んできた火の玉をメニューウィンドウで防ぐ。
完全に後衛狙ってたよな、今の。
普通のモンスターの動きじゃない。
くそ、油断しすぎたな。
今回もあっさりクリアできると思って俺とアルとシンディー、それに竜牙さんの四人だけで来たのは失敗だったかもしれない。
非常時以外、竜牙さんは基本的に手を出さないし。
「くっ!」
「ヒール! ダメージバリア! デクスタリティー! ストレンクス!」
俺も基本的に後衛、しかもヒーラーだとかバッファータイプだし。
無詠唱でも行けるけどそれは隠しときたいしなぁ。
そうなるとバフをかけるにも時間がかかってしまう。
本気でやばくなればそうも言っていられないが、今のレベルならなんとかなっているからなんとも。
「はぁっ、はぁっ。危なかった……」
「おつかれ様です。水どうぞです」
「ありがとう。んぐっ、ぷはっ……」
シンディーも一応弓は使えるものの今回は荷物持ちとして来てるからあまり装備も持ってないんだよな。
「ふぅ、部屋の奥に階段があるからこれで次のフロアに移動できるけど、どうする?」
「どうするもなにも、戻りたくても戻れないから……」
「だよねぇ……」
国王陛下より早急に結果を求められてダンジョンに潜ることになったが、手の内を晒したくなかったので近衛騎士団の同行を断っていたのだ。
その上でクリアできませんでした。
とは言えない。
いや、どうしようもなくなればそれも言うんだけどさ。
それ以上にまずいものを俺は見つけてしまっていたのだった。
「まさかダンジョンが自壊寸前とはね……」
「早いところ攻略して手を打たないと王都が消滅してしまう……」
王都のダンジョンは王都のすぐ真下にあったのだが、壁や柱の耐久力が減少、崩壊寸前となっていたのだった。
そんな状況で大人数がダンジョンに侵入するとさらに崩壊を早めてしまう。
それどころか入った瞬間全員崩壊に巻き込まれたなんてなると目も当てられない。
大体、なんでそんなことがわかるんだって話にもなるし、それを回復させる方法にも言及されたら俺のギフトの説明が必要になってしまう。
流石にこんな所で切り札は斬りたくないんだよね。
「龍脈の移動か……」
竜牙さん曰く、15年ほど前に大規模な龍脈の移動があったらしい。
その所為でダンジョンのマナが不足し、ダンジョンの耐久力が低下したのだろうとのことだった。
俺がマスターとなればDPを使ってダンジョンの耐久力を回復させることが出来る。
一刻を争うという程ではないものの、あまり悠長なことも言っていられない。
「多少無理をしても急がないと」
「ですです」
とはいえ、既に五十階層を抜けている。
僅か半日でここまで来れたのはひとえにマップ機能のおかげだ。
これのお陰で全く道に迷う事なく一本道で来れたからな。
敵も極力回避してきたし。
「それにしてもマナっていうのも便利なものだね」
「まぁな」
アル達にはマナの流れで敵の接近や道の確認をしていると伝えている。
信じていないわけではないのだが、念のためってやつだ。
「残り二十階層だ。頑張ろう」
「さっきみたいに取り囲まれるとしんどいね……」
「敵もだんだん強くなってきてるです……」
「最悪バリア張って撤退も出来るから。即死だけは回避してくれ、それ以外ならどうにかなる」
「わかったよ……」
即死してもなんとか出来なくもない気がするけど、一応警戒はしてもらわないとね。
「ぐわっ!?」
「きゃあ!?」
「っつ!?」
その後なんとか六十階層まで到達したものの、アルとシンディーが気絶してしまった……。
普通の状態異常なら回復できるが気絶はどうにもならない。
かと言ってここから引き返すには出口は遠すぎる。
「引き際、見誤りましたね?」
「竜牙さん……」
竜牙さんは優しい眼差しを向けてくる。
また一つ勉強になったでしょう? そう言っているようだ。
その目線が、なぜだかとても癪に障った。
「いえ、まだいけますよ」
「ほぅ?」
「シンディーとアルを担いでもらえますか」
「それくらいでしたら構いませんが」
「この十年、貴方に鍛えられたその力、見せてあげますよ」
どこまで通用するかわからないが、腹を決める。
王都を守るだとか仲間が頑張ってくれたからだとかそんなのはどうでもいい。
竜牙さん、貴方を見返してやりたい。
出会ってから十年近く、俺だって成長したんだ。
「行きます……!」
メニューウィンドウを全方位展開。
さて行こう。
「……、それってありですか?」
「え、いや、最初からこうしてればよかったなって。今更ですけど」
完全防御のシールドで囲ってしまえば罠だろうがモンスターだろうが怖くない!
道中遭遇したモンスターは壁とメニューウィンドウの間に挟まって圧死していった。
「ふぅ、やっとか」
漸く最下層へ続く階段を前に俺は一息ついた。
竜牙さんはそんなの成長じゃないとブツブツ言っているが背に腹は代えられないんだから仕方がないよね。
「それじゃ行きましょう」
「ええ……、そうしましょうか……」
項垂れる竜牙さんと共に最下層へと歩みを進めた。
「GURAAAAAAA!!!!」
紅い鱗に緑に輝く瞳。
巨大な体を支える強力な四肢。
そして大きく羽ばたく翼。
まさに人類に絶望を与えるための存在と言っていいモンスターがそこには居た。
「おお……」
すごい、演技じゃなくてマジで叫んでるっぽい!
うっわ、迫力あるなぁ。
うちのモンスター達にも見せてやりたい。
これぐらいの気合を入れて叫んでほしいんだよね。
そんなことを思いながらブレスをメニューウィンドウ越しに俺達に向かって吹いているドラゴンを眺める。
床が溶けているところを見ると超高温のブレスのようだ。
え? 熱?
当然魔法で排熱してますよ。
俺の移動に合わせて溶けていた床がもとに戻る。
ツルツルになっている所為で少し歩きづらいがまぁ仕方がない。
そしてドラゴンは壁の染みになった。
アーメン。
「たぶんあれがここのボスモンスターですよね」
「エエ、ソウデスヨ」
「? どうされました?」
「……、彼があまりにも不憫すぎて……」
どこからともなく取り出したハンカチで目元を拭く竜牙さんを見るとなんだかやるせない気持ちになってしまう。
「まぁまぁ、またすぐ復活できますから」
「体は復活しても心の傷は治らないんですよ?」
「時が解決してくれますって」
彼の尊い犠牲のお陰で王都は守られたのだ。
傷、癒えると良いね。
「さ、早いところ直してしまいましょう」
マスター登録マスター登録っと。
「ぐっ……、相変わらずこの瞬間はきつい……」
マスター登録を終わらせてマナを補充。
それからダンジョン全体の補修をポチッとな。
「これでよしっと。後はゲートを繋げてー」
うっし。
これでゲートも開通したしこのダンジョンでしなきゃいけないことは終わったな。
「あーっと、残りのDP確認しとこ」
結構ガッツリ使ったからなぁ。
一千万くらい使ってそうで怖い。
「……、は?」
あ、あり得ない……。
そんなバカな……。
DP残高の表示画面。
そこに表示されていた数字は……。
「千二百DP……?」
一体何が?
これは夢? 幻?
嘘だろ、おい……。
嘘だと言ってよ竜牙さん!!!!
「あー、まぁ王都全域どころかそれをはみ出す規模の、七十階層分まとめて自動修復かければそうなりますよね」
「そ、そんなぁ……」
漸く溜まったDPが全て吹っ飛んでしまった……。
また貯めるのに何年かかるんだよおおおおおおおおお!!!!
「いえいえ、王都とミューゼル家領を繋ぐゲートが出来たのですからすぐに回収できるんじゃないですかね」
「そうだと良いんですけど……」
あまりの衝撃に目の前が真っ暗になりそうだ……。
仕方がない事とは言え、覚悟の無い所にこれは辛い。
「そう落ち込まず、今日と明日は王都めぐりを楽しみましょうよ」
「そうですね……、今日明日は豪遊しますよ……」
気を紛らわすにはそれしか無いし。
ああ、王都の美食、楽しみだなぁ!!
ちなみに、アルとシンディーにこってり絞られたお陰でその日の夜は黒パン一個だけだった。
何ていうことだ……。
神は死んだ!!
「生きてますけどね」
「え?」
「いえ、なんでもないですよ」
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