表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/27

第十八話 妨害工作

 ダンジョンの前に商店が出来てから半年が過ぎ、冬が訪れた。

 幸い周辺は比較的温暖な気候な地域ではあるものの、十二月ともなるとそれなりに冷え込んでくる。

 農閑期を迎えた農村では出稼ぎにダンジョンへ向かう者も出ているようでダンジョンには週末冒険者改め、年末冒険者が多数押し寄せて来ている。


「となるはずだったのだが……」


 視線の先には何故か閑散としている乗合馬車の発着場。

 それもそのはず、各町とダンジョンを結ぶ乗合馬車に立て続けにトラブルが発生しておりしばらく運休するとの連絡が先週入ってきていたのだった。

 折り悪く山賊の出現情報もあるらしく、徒歩でダンジョンを目指す人も激減と。


「寒いから、窓閉めてもらえるかい?」

「ああ、すまん」


 事務所の窓を閉めて自分の机へと向かう。

 ギシリと音を立てて椅子に座ると、思わず愚痴が溢れる。


「本当についてない……」


 せめてゲバーさんが居れば相談できたものを。

 彼はある程度店が流れに乗ったことを確認するとヒノキノボウの本店へ戻ってしまっていた。

 一応二ヶ月に一度顔を出してくれてはいるもののその程度だ。

 とりあえず速達で手紙を出してはいるが……。


「それにしても、不思議ですね。聞けば山賊はダンジョンへ向かう人達が襲われていると言うことですが」

「ええ、普通に考えるならダンジョンから帰る人達を狙うのがどおりでしょうに」


 俺は竜牙さんに首肯を返すと考える。

 今はまだ備蓄があるからいいが、このままでは……。

 寒い季節だ、どうしてもアルコールの需要は高い。

 それにアイテムを買い取ってもそれを運び出すことが困難となっている。

 先日倉庫を拡張したからまだ置くことはできるが手持ちの現金が減っていくことには変わりがない。


「流通が回復してもすぐに現金には変えられないですしね」

「あまり一気に放出すると値崩れを引き起こしてしまいますからねぇ……」


 最悪DPを変換して食料に回すこともできるがそれは最終手段だろう。

 なんせバレたら全てが終わりかねない。

 自分達の分だけならともかく、冒険者や商人達にまで供給すればその物資は一体どこから出てきたのかという話になってしまう。


「最近ダンジョンの悪い噂も耳にしますしね……」


 竜牙さんが肩を落としてそうつぶやいた。

 根も葉もない噂話なのだが、どうやら周辺の村落でミューゼル家のダンジョンではこっそりとモンスターが冒険者を食べてしまっているという噂が流れているらしい。


 うちにいるモンスター達は食にはうるさい。

 彼ら曰く人肉なんて臭くて食べれたものではないそうだ。

 そんな彼らが態々リスクを背負って冒険者をこっそりと食べるだなんて、まぁありえないな。

 ……、あ、サキュバ……、いや違うか。

 そういう意味じゃないだろうし。


「とりあえずお客様も少ないことですし、手の空いている者達で山賊狩りを行うしかないでしょう」

「危険では?」

「なに、山賊ごとき鎧袖一触ですよ」


 そう言って竜牙さんは軽く胸を叩く。

 部下に斥候を任せ、見つけ次第竜牙さんが飛んでいって叩きのめす。

 そういう計画らしい。


 本来なら彼はボスとしてダンジョンの最下層に居てもらわなければいけないのだが。

 未だ十五階層より下に到達できた冒険者が居ないため、最近ではもっぱら事務所でお茶をひいている。


「任せておいてください。私達は目も耳もいいですからね」

「すみません、何から何まで」

「気にすることはありませんよ。私たちは仲間、そうでしょう?」

「はは、そうですね。それでは遠慮なくお願いします」

「任されました」


 さて、あとは馬車の不調と噂話だが……。


「噂に関しては俺っちに任してくれよ」

「……、誰?」

「ひどっ!? 俺だよ! 俺!」

「あ、詐欺ですね、通報しときます」

「ちゃうわいっ! 幼馴染のギルフォードだっ!」

「あー、そうね、そうそう」


 やっべ、誰だっけこいつ。

 なんか話の展開的に必要だからとりあえず追加されました的な匂いがプンプンするけど。

 うっ、頭が……ザザザザ……。


「思い……出した……!」

「忘れてたんかい……」

「いや、すまんすまん、少しボケてたわ」


 うん、こいつなら適任だろう。


「それじゃ村を周って誤解を解いてきてくれるか?」

「ああ、まかせろ! シンディー達には出来ない話だからな!」

「お、おぅ?」

「護衛に警備兵何人か借りるぞ」

「ああ、わかった」


 何のことかは分からないが親指を上に上げる仕草をし爽やかな笑みを浮かべるイケメンを爆発しろと思いながら俺は送り出した。


 あとは馬車だな。

 なんでも馬はともかくとして馬車の車軸が折れたりハーネスが切れたりといったトラブルが頻発しているらしい。

 こればかりはどうにかできそうにないなぁ……。


◆◆◆

◆◆


 翌日ゲバーさんのところに出した郵便の返信が来た。

 しかし彼は商会の資金繰りが悪化しておりしばらく身動きが取れないとのことだった。

 なんでも融資をしてくれていた貴族が資金を引き上げたとか。


「はぁ……、いつになったら戻れるのだろうか……」


 俺は事務所の椅子に腰掛けるとメニュー画面でDPを確認しながらため息を吐く。

 右上に表示されている数字は四百万を少し超えたところ。

 半年かけて三百万程度しか増えていない。


「十億DPまであと九億九千六百万か……」


 手持ちのアイテムや資金をDPに変換しても焼け石に水だし、気が遠くなる。


 この冬の間に千万は超えると見込んでいたけど、トラブル続きのせいで厳しそうだし……。

 冒険者の数が伸び悩むのならもっと規模を拡大しないと厳しいかな。

 あまり広くすると把握しきれなくなりそうで怖いけど仕方があるまい。


「どっちにしろこのままのペースだと十億貯まるまで百年くらいかかっちゃうしな……」


 俺の寿命が尽きてしまう。

 ダンジョンマスターって寿命とかあるのか知らんけど。


 それにしてもここまでトラブル続きとなると誰かしらの悪意を感じざるを得ない。

 一体誰が……。


 コンコン。


 扉から響くノックの音が俺を思考の海から現実へと引き戻す。


「どうぞー」

「失礼します」

「ん? 貴方は確かゲバーさんのところの……」

「店長代理のヒヤリです。お時間よろしいですか?」

「ええ、幸いと言っていいのかわからないけど暇ですしね」

「ありがとうございます。客足が遠のいている件で少々相談がありまして……」

「ふむ、まぁ座ってください。珈琲でいいですかね?」

「あ、お構いなく……」


 彼からの相談というのはまとめると客が減ったのでどうにかして欲しいという話だった。

 どうにかして欲しいと言われても、山賊は現在探索中だし噂話も手を打っているのだが……。


「例えばですけど、モンスター達に手を抜いてもらうとかアイテムの買取価格を上げるとか」

「はぁ」

「はぁじゃないですよ! このままだと我々も撤退しなくてはいけなくなってしまいますし、何か手を打たないと!」


 それで、うちのダンジョンに集ると?

 気持ちはわからないでもないが論外だろう。


「……、撤退とおっしゃいましたが、それはナリキン商会の総意ですか?」

「っ! ち、違いますがそういうこともあり得るかと」


 つまり彼の独断ということか。


「その話はゲバーさんもご存知のことですか?」

「ゲバーさんとはしばらく話ができていませんし……。ただこのまま何もしないわけには……」


 う~ん?

 何やら様子が変だが、考えても仕方がないか。


「考えても見てください、それで客足が戻ったとして、今度は元に戻ったときに反発されるでしょう?」

「そう、かもしれませんが……」


 ヒヤリさんは下を向いたままブツブツとつぶやき始めてしまった。

 何を行っているのかよく聞き取れないなが、まぁいい。


「……、まぁ何かしらの手を打つ必要はあるとは思っています」

「それでは!」

「しかしそれはモンスターに手を抜いてもらうだとか買取価格を上げるだとか工夫の欠片もない内容ではありません」


 それでは一時凌ぎにしかならない。

 限りある資源は継続的に効果のあるものに投入すべきだ。


「他に何か手があるというのですか?」

「山賊と噂に関しては既に手を打っていますから、あとは馬車の問題となります。問題となっているのは乗合馬車の故障でしたよね?」

「ええ、このダンジョンへ向かう便の馬車にトラブルが頻発しております」

「なるほど、でしたら我々が馬車を用意しましょう。それも特製の」


 前から考えていたプランがあるにはあるのだ。

 乗合馬車だと各町、村を経由してくるのでダンジョンまで来るのに時間がかかる。

 それを大きめの町からダンジョンまでの直通便があればもっと冒険者が増えるのではないかと。

 ギルドへの配慮もあって今までは実行に移せなかったが、向こうから運休すると言ってきたのは僥倖だったとも言える。


「特製、ですか?」

「ええ、ヒノキノボウからダンジョンまで二日で到着できる様にしてみせますよ」

「はは、いくらなんでも冗談でしょう?」


 通常の馬車では難しいだろうが、モンスターが引く馬車ならば?

 魔法を使わなくてもヒノキノボウから二日もあればでダンジョンまで来ることも可能だろう。

 モンスターは通常地上では行動できないが、俺のギフトを使ってマナを何かに封じて持たせておけばある程度は行動可能だし。

 それに山賊が出てもモンスターが護衛となる。

 一石二鳥だな。


「ゲバーさんとの約束もありますから。彼の信頼を裏切る訳にはいきませんのでね」


 俺は不敵に笑うと珈琲に手を伸ばす。


「……、その話、ギルドにそのまま伝えますがよろしいですね?」

「ええ、一字一句間違いないようにお願いします」


 ああ、一応普通の馬に見えるように偽装は必要か。

 モンスターは一般に人類に敵対しているみたいな印象があるみたいだし。

 そんなことないんだけどなぁ。


「ああ、宿の増設は早めにお願いしますね」


 苦虫を噛み潰したような表情をしているヒヤリさんにそう告げる。

 大方いらぬ囁きをした者がいたのだろうが。

 一応ゲバーさんには連絡しとかないとな。


「自信満々ですね、後悔しなければいいのですがね」


 彼は吐き捨てるようにそう言って立ち上がり事務所を後にした。

 そして彼と入れ違う形で竜牙さんが事務所に入ってくる。


「山賊は追い払うことに成功しましたが、これを」


 そう言いながら竜牙さんが山賊が落としていった短剣をテーブルの上においた。


「この紋章は……」


 その短剣に施された紋章を見て俺は頬を引きつらせる。


「山賊の中に以前パーティーの帰りに遭遇した盗賊と同じ者が居ました」

「……、めんどくさいことになりましたね」

「ええ、一連のトラブルは妨害工作と見ていいでしょう」


 そういえばあの豚、金融系の商品も取り扱っているという話だったな。

 ナリキン商会の資金繰り悪化もヤツのせいか。

 これで終わってくれるといいのだが。

お読みいただきありがとうございます。

ブックマーク、評価、感想等いただけると励みになります。

あと↓のランキングをポチってもらえるとうれしいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ